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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Escape from evil/7
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聖霊師の心の瞳に映ったのは――
男の霊が崖下からすうっと現れ、真里の肩に手をかけ、魂を肉体から引きずり出した――幽体離脱させたところだった。
さらに時間を経過させる。
数メートル先を歩いているのは、猫背の元。真里の肉体は違和感に気づいて、一度後ろへ振り返るが、首を何度か傾げ、何もないことを知ると、再び前へ歩き出そうとした。
青白い顔をしたふたりの人物が不気味な笑みを浮かべ、真里の足元からのぞいていた。
普通の人ならば怖くて凝視できないが、冷静な頭脳で恐怖という激情をあっさりと防ぎ、霊視は続いてゆく。
ふたつの真っ白い手が崖下から伸びてきて、真里の足を谷底へ向かって引きずり下ろした。
「きゃぁぁぁぁっっ!!!!」
悲鳴がガラスが突き刺さるように鋭く山中にこだました。現場は間違いなくそこにあって、崇剛は見逃すことなく次へと手をかけてゆく。
十四年前、四月十一日、日曜日、十七時十六分十二秒――
恩田 霧子。恩田 元の二番目の妻。転落死亡事故二件目。
やはり、元は何メートルも先を歩いていたが、妻の姿形は違えど、さっきと同じ出来事が起きた。
「きゃぁぁぁぁっっ!!!!」
悲鳴が谷底へと消え、聖霊師は三番目の事件と対峙する。
六年前、四月十五日、日曜日、十七時十六分四十七秒――
恩田 涼子。恩田 元の三番目の妻。転落死亡事故三件目。
また同じだった。血のにじむ包帯が巻かれた、神経質な手をあごに当て、聖霊師は冷静な水色の瞳をついっと細めた。さらに、唯一死亡していない事件へと、時間を早送りして手をかける。
今年の四月十七日、日曜日、十七時十六分九秒――
恩田 知恵。恩田 元の四番目の妻。転落事故一件。
元は遅れ気味な千恵を置いて、山頂を歩いていた。妻は不意に吹いてきた強風に顔を覆い、慎重に当たりを見渡す。その場から動くこともせず、いや彼女の警戒心が前へ進ませようとはせず、その場に立ち尽くした。
幽体離脱が起こらないまま、すぐ近くの崖下から三人の人物が不気味な笑みを浮かべていた。その顔は、崇剛も知っているものだった。
青白い手が三本伸びてきて、千恵の足をがっちりとつかむ。
「きゃあぁっ!」
そうして、彼女も同じように谷底へ落ちていった。
穏やかな春の日差しの元へ意識は戻ってきて、さわやかな風が紺の長い髪を優しく揺らす。
崇剛は何が起きたのかの、可能性の数字をすぐさま弾き出した。しかし、結界が張られていない、ここでは思案するのは厳禁だった。
守護をするという立場で、長年の付き合いだ。永遠の世界で生きている瑠璃の、幼いが百年の重みを持つ聖なる声が審神者をした。
「お主が見た通りじゃ。何ひとつ間違っておらぬ」
「そうですか」
崇剛はただただ相づちを静かに打った。思うところは大いにある。ルールからはずれている。だがしかし、事実は事実として確定した。起きてしまったものは、どうにも覆せない。
霞みがかった聖霊寮の空気の中で、埃だらけのローテーブルを国立から横滑りしてきた、ミニシガリロとジェットライターが今ここにあってほしいと、崇剛は願った。
それは叶わない。強く目をつむり、暴れまわろうとする激情の獣が冷静な頭脳という名の盾を食いちぎろうとする、激痛に真っ暗な視界の中で、崇剛は一人耐える。
「やはり、そちらの理由で死んだのですね」
このいっ時だけは、霊界に関して何も見ず、聞きたい気持ちにもなれず。千里眼保有者は霊視のチャンネルを全て閉じた。
崇剛の独特の響きは、滅多に荒げたりしないが、ささやき声ながらも怒りで震えていた。
「私にはまったく理解できませんね――」
聖霊師の見たものは、あまりにもひどい輪廻転生だった。死の尊厳というものはどこにもなかったのだ。
ラジュから他の心霊現象を聞かされている瑠璃でさえも、言葉をなくした。若草色の瞳で今ここにはいない霊をじっと見つめたままだった。
見た目は八歳だが、百年も生きてきた聖女はやがて口を静かに開いた。
「心弱き者とは愚かよの。他にやることがいかほどでもあるであろうに……」
滑稽を通り越して、愚の骨頂としか言いようがなかった。
男の霊が崖下からすうっと現れ、真里の肩に手をかけ、魂を肉体から引きずり出した――幽体離脱させたところだった。
さらに時間を経過させる。
数メートル先を歩いているのは、猫背の元。真里の肉体は違和感に気づいて、一度後ろへ振り返るが、首を何度か傾げ、何もないことを知ると、再び前へ歩き出そうとした。
青白い顔をしたふたりの人物が不気味な笑みを浮かべ、真里の足元からのぞいていた。
普通の人ならば怖くて凝視できないが、冷静な頭脳で恐怖という激情をあっさりと防ぎ、霊視は続いてゆく。
ふたつの真っ白い手が崖下から伸びてきて、真里の足を谷底へ向かって引きずり下ろした。
「きゃぁぁぁぁっっ!!!!」
悲鳴がガラスが突き刺さるように鋭く山中にこだました。現場は間違いなくそこにあって、崇剛は見逃すことなく次へと手をかけてゆく。
十四年前、四月十一日、日曜日、十七時十六分十二秒――
恩田 霧子。恩田 元の二番目の妻。転落死亡事故二件目。
やはり、元は何メートルも先を歩いていたが、妻の姿形は違えど、さっきと同じ出来事が起きた。
「きゃぁぁぁぁっっ!!!!」
悲鳴が谷底へと消え、聖霊師は三番目の事件と対峙する。
六年前、四月十五日、日曜日、十七時十六分四十七秒――
恩田 涼子。恩田 元の三番目の妻。転落死亡事故三件目。
また同じだった。血のにじむ包帯が巻かれた、神経質な手をあごに当て、聖霊師は冷静な水色の瞳をついっと細めた。さらに、唯一死亡していない事件へと、時間を早送りして手をかける。
今年の四月十七日、日曜日、十七時十六分九秒――
恩田 知恵。恩田 元の四番目の妻。転落事故一件。
元は遅れ気味な千恵を置いて、山頂を歩いていた。妻は不意に吹いてきた強風に顔を覆い、慎重に当たりを見渡す。その場から動くこともせず、いや彼女の警戒心が前へ進ませようとはせず、その場に立ち尽くした。
幽体離脱が起こらないまま、すぐ近くの崖下から三人の人物が不気味な笑みを浮かべていた。その顔は、崇剛も知っているものだった。
青白い手が三本伸びてきて、千恵の足をがっちりとつかむ。
「きゃあぁっ!」
そうして、彼女も同じように谷底へ落ちていった。
穏やかな春の日差しの元へ意識は戻ってきて、さわやかな風が紺の長い髪を優しく揺らす。
崇剛は何が起きたのかの、可能性の数字をすぐさま弾き出した。しかし、結界が張られていない、ここでは思案するのは厳禁だった。
守護をするという立場で、長年の付き合いだ。永遠の世界で生きている瑠璃の、幼いが百年の重みを持つ聖なる声が審神者をした。
「お主が見た通りじゃ。何ひとつ間違っておらぬ」
「そうですか」
崇剛はただただ相づちを静かに打った。思うところは大いにある。ルールからはずれている。だがしかし、事実は事実として確定した。起きてしまったものは、どうにも覆せない。
霞みがかった聖霊寮の空気の中で、埃だらけのローテーブルを国立から横滑りしてきた、ミニシガリロとジェットライターが今ここにあってほしいと、崇剛は願った。
それは叶わない。強く目をつむり、暴れまわろうとする激情の獣が冷静な頭脳という名の盾を食いちぎろうとする、激痛に真っ暗な視界の中で、崇剛は一人耐える。
「やはり、そちらの理由で死んだのですね」
このいっ時だけは、霊界に関して何も見ず、聞きたい気持ちにもなれず。千里眼保有者は霊視のチャンネルを全て閉じた。
崇剛の独特の響きは、滅多に荒げたりしないが、ささやき声ながらも怒りで震えていた。
「私にはまったく理解できませんね――」
聖霊師の見たものは、あまりにもひどい輪廻転生だった。死の尊厳というものはどこにもなかったのだ。
ラジュから他の心霊現象を聞かされている瑠璃でさえも、言葉をなくした。若草色の瞳で今ここにはいない霊をじっと見つめたままだった。
見た目は八歳だが、百年も生きてきた聖女はやがて口を静かに開いた。
「心弱き者とは愚かよの。他にやることがいかほどでもあるであろうに……」
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