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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Escape from evil/3
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――昨夜の情報を整理しつつ、今起きていることも、崇剛の冷静な頭脳で着実にデジタル化されてゆく。
列の一番前を歩いていた執事が振り返って、さわやかな笑顔を自分の息子へ向けた。
「瞬、落ちないように気をつけるんだぞ」
「うん、わかった!」
一緒に歩いているだろう聖女も、執事は心配することも忘れない。
「瑠璃さまは大丈夫か?」
少女はげっそりした顔を、霊界で見せた。
「我は落ちぬ。お主もおかしなことを申すよの。天然ボケであろう、涼介は」
通訳の瞬は、
「パパ、るりちゃん、とんでるから、おちないよ」
「そうだったな」
涼介はまた前を向いて坂道を上し出した。
三人に何とか追いつきたいが、太腿とふくらはぎが痛みという悲鳴を上げ、彼らとの距離は、崇剛からどんどん離れてゆく。
――昨夜のベルダージュ荘。大好物のプリンもまだ残ったまま、瑠璃はテーブルを見渡した。
「じゃ、じゃからの、行かぬか? 瞬と涼介もの」
崇剛はルビー色のグラスを傾けて、聖女の言動を考える。
瑠璃は私の守護霊です。
私の知らないことを知っているという可能性が99.99%――
霊界は横のつながりもあります。
ですから、涼介と瞬の守護霊から了承も受けているという可能性が95.78%――
涼介と瞬が動向する必要性が霊的な理由であるという可能性が87.65%――
ですが、どのような理由があるのかの判断材料が足りません。
線の細い聖霊師は、料理にほとんど手をつけず、聖女の怪しすぎる言動の意味を探る。
私は先ほど、『なぜ、涼介と瞬も一緒でなくてはいけないのですか?』と、瑠璃に聞きました。
しかしながら、彼女はきちんとした理由を説明しなかった。
守護霊の瑠璃が霊的な理由で、何かを隠しているように見える。
そうなると、次の可能性が99.99%で出てくる――
――現実へと意識は引き寄せられる。右手に広がる林の奥からは、鳥のさえずりがさっきから美し旋律を奏でていて、癒しという心地よさを与えていた。
私の守護天使であるラジュ、守護神である光命も今回のことをご存知である。
さらに、以下の可能性が87.45%で出てくる。
ラジュ天使もしくは、光命さまから理由を説明することを、瑠璃は禁止されている。
付随する可能性で――、
涼介の守護天使と守護神。
瞬の守護天使と守護神の四人もご存知である、が出てきます。
非常に大きな何かが動いているという可能性が38.98%――
すなわち、重要な意味があるという可能性が98.78%で出てくる。
息苦しさに耐えられず、茶色のロングブーツは坂道の途中でふと止まった。持ち主の冷静な水色の瞳には、林とは反対側にある景色が広がっていた。
慣れた自宅では必要ないが、外出時は必ず使う、視力だけの千里眼。その心の目には、いつも自分がベルダージュ荘から眺めている景色が、鏡に映したように左右逆さまになっていた。
海面は遠くのほうで宝石のように乱反射している。はるか彼方にはマッチ箱みたいな、煉瓦造りの自宅。眼下にある霞のような湖には、様々な建物が立ち並ぶ、ミニチュアの街並み。
あまりの光景に、崇剛の思考回路は一時停止した――。
「なんて、美しいのでしょう。反対側……別の方向から物事を見ることは、素晴らしいことなのかもしれません」
後れ毛を包帯のまいた手で耳にかけ、感嘆のため息をもらす。
「人は同じ方向から物事を見るという傾向がとても強いです。ですが、双方から見ることが常にできる方もいるのかもしれませんね」
そこにはどんな可能性の導き出し方があるのだろう。そう思うと、崇剛は魅惑のめまいに足元がふらつき、いつの間にか光る水面の上に仰向けに浮かんでいた――。
ゆらゆらと波紋は広がるのに、自身の体はそこにとどまったまま、それでも動いているように錯覚する。
目を閉じて、数字という美しい世界に身を任せる。曖昧なものなどない、答えがそこに必ずある規律。耳元で水の動く音が癒しを与える静かな泉だったが、突然、チャポンと水音が響いた。
何か起きたのかと、崇剛がまぶたを開くと、煙る景気の向こうに、白い服を着た誰かが立っているようだった。
ふたつの波紋が広がり、お互いの揺れをまたいで相手に届かせる。打ち消し合うことなく、心地よいワルツでも踊るように、シンクロし続ける。つながっているようで、いないような微妙でいて親密な関係――
列の一番前を歩いていた執事が振り返って、さわやかな笑顔を自分の息子へ向けた。
「瞬、落ちないように気をつけるんだぞ」
「うん、わかった!」
一緒に歩いているだろう聖女も、執事は心配することも忘れない。
「瑠璃さまは大丈夫か?」
少女はげっそりした顔を、霊界で見せた。
「我は落ちぬ。お主もおかしなことを申すよの。天然ボケであろう、涼介は」
通訳の瞬は、
「パパ、るりちゃん、とんでるから、おちないよ」
「そうだったな」
涼介はまた前を向いて坂道を上し出した。
三人に何とか追いつきたいが、太腿とふくらはぎが痛みという悲鳴を上げ、彼らとの距離は、崇剛からどんどん離れてゆく。
――昨夜のベルダージュ荘。大好物のプリンもまだ残ったまま、瑠璃はテーブルを見渡した。
「じゃ、じゃからの、行かぬか? 瞬と涼介もの」
崇剛はルビー色のグラスを傾けて、聖女の言動を考える。
瑠璃は私の守護霊です。
私の知らないことを知っているという可能性が99.99%――
霊界は横のつながりもあります。
ですから、涼介と瞬の守護霊から了承も受けているという可能性が95.78%――
涼介と瞬が動向する必要性が霊的な理由であるという可能性が87.65%――
ですが、どのような理由があるのかの判断材料が足りません。
線の細い聖霊師は、料理にほとんど手をつけず、聖女の怪しすぎる言動の意味を探る。
私は先ほど、『なぜ、涼介と瞬も一緒でなくてはいけないのですか?』と、瑠璃に聞きました。
しかしながら、彼女はきちんとした理由を説明しなかった。
守護霊の瑠璃が霊的な理由で、何かを隠しているように見える。
そうなると、次の可能性が99.99%で出てくる――
――現実へと意識は引き寄せられる。右手に広がる林の奥からは、鳥のさえずりがさっきから美し旋律を奏でていて、癒しという心地よさを与えていた。
私の守護天使であるラジュ、守護神である光命も今回のことをご存知である。
さらに、以下の可能性が87.45%で出てくる。
ラジュ天使もしくは、光命さまから理由を説明することを、瑠璃は禁止されている。
付随する可能性で――、
涼介の守護天使と守護神。
瞬の守護天使と守護神の四人もご存知である、が出てきます。
非常に大きな何かが動いているという可能性が38.98%――
すなわち、重要な意味があるという可能性が98.78%で出てくる。
息苦しさに耐えられず、茶色のロングブーツは坂道の途中でふと止まった。持ち主の冷静な水色の瞳には、林とは反対側にある景色が広がっていた。
慣れた自宅では必要ないが、外出時は必ず使う、視力だけの千里眼。その心の目には、いつも自分がベルダージュ荘から眺めている景色が、鏡に映したように左右逆さまになっていた。
海面は遠くのほうで宝石のように乱反射している。はるか彼方にはマッチ箱みたいな、煉瓦造りの自宅。眼下にある霞のような湖には、様々な建物が立ち並ぶ、ミニチュアの街並み。
あまりの光景に、崇剛の思考回路は一時停止した――。
「なんて、美しいのでしょう。反対側……別の方向から物事を見ることは、素晴らしいことなのかもしれません」
後れ毛を包帯のまいた手で耳にかけ、感嘆のため息をもらす。
「人は同じ方向から物事を見るという傾向がとても強いです。ですが、双方から見ることが常にできる方もいるのかもしれませんね」
そこにはどんな可能性の導き出し方があるのだろう。そう思うと、崇剛は魅惑のめまいに足元がふらつき、いつの間にか光る水面の上に仰向けに浮かんでいた――。
ゆらゆらと波紋は広がるのに、自身の体はそこにとどまったまま、それでも動いているように錯覚する。
目を閉じて、数字という美しい世界に身を任せる。曖昧なものなどない、答えがそこに必ずある規律。耳元で水の動く音が癒しを与える静かな泉だったが、突然、チャポンと水音が響いた。
何か起きたのかと、崇剛がまぶたを開くと、煙る景気の向こうに、白い服を着た誰かが立っているようだった。
ふたつの波紋が広がり、お互いの揺れをまたいで相手に届かせる。打ち消し合うことなく、心地よいワルツでも踊るように、シンクロし続ける。つながっているようで、いないような微妙でいて親密な関係――
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