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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
心霊探偵と心霊刑事/18
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悔しさを噛みしめるようにうなって、気品高くしれっと帰っていった男の、悪戯好きにしてやられて、
「らよ、トラップ張っていったって、時間差でわかるように仕掛けてくんじゃねえ!」
国立はローテーブルをウェスタンブーツでガツンと横蹴りすると、
「遊んでんじゃねえ! わからねえように、仕掛けんだろうが、トラップってのはよ」
聖霊寮の人々がビクッと反応をし、応接セットのほうに視線が集中した。空き缶がふたつ、ローテーブルの埃の上をコロコロと転がってゆく。
そんなことはどうでもいいのだ。国立は今の会話で最大の嘘が初めのほうにあったのだと、今知ったのだった。
「可能性で量ってる野郎が、わからねえなんて、言いやがらねえだろ! 何の情報、持っていきやがった?」
今の会話の順番を詳細に思い出せない。崇剛への説教だった。それは確かだが、嘘はどこだったのか。あの水色の瞳をできるだけ記憶の中で蘇らせる。
国立にただひとつわかったのは、
「礼言ってたのは、本当だろ」
転がっていた勢いで、空き缶ふたつが時間差で床へ落ち、カコンカコンと鳴った。
赤い目ふたつはどこにもなかった。
過ぎてしまったものは仕方がなく、藤色の短髪をガシガシとかき上げて、あの男を夢中にさせた、見たこともないガキを考える。
(でよ……瑠璃お嬢の惚れた野郎って、どいつだ? 涼介……トラップ天使……あぁ? 何つったか、涼介のガキ……瞬。ノーマルに考えりゃ、あいつだろ)
刑事の勘でたどり着いた。それを思うと、国立はどうしてもため息が出るのだった。
「崇剛も残酷なディスティニーの中ってか?」
通常業務に戻ろうと、調書をかき集めて、青空を見上げた。この景色がこうやって見られるのも、今すぐに終わってしまうかもしれないが、それでもガムシャラに抗ってやろうと、国立は鋭い眼光を送りつけた。
*
治安省の廊下を、茶色のロングブーツはかかとを優雅に鳴らしながら、歩いていたが、ふと立ち止まり、行き交う多くの人々の邪魔にならないよう端へと寄った。
神経質な手の甲を中性的な唇に当て、崇剛はくすりと笑う。
「国立氏は今頃気づいているかもしれませんね。私が罠を仕掛けていたと」
中庭の植え込みの花を眺めながら、崇剛は窓から吹き込んできた風で乱れた、紺の髪を手慣れた感じで払った。
あとで気づくように、仕掛けさせていただきましたよ。
私はわかったという言葉は使いません。
なぜなら、確定――断定してしまう言葉だからです。
従って、こちらの否定型であるわからないも使いません。
相手に手の内を見せることになってしまいますからね。
崇剛は再び廊下を歩き出した。瑠璃色の上着で隠した包帯の、ざらざらした感触を左手で味わいながら、冷静な思考回路は正常に稼働させておく。
国立氏に関して、おかしい点がふたつありました。
ひとつは瑠璃と私の話を知っている――です。
屋敷の人間でも知っているのは、涼介だけです。
涼介が国立氏に話すというのはおかしいです。
ふたりは会う機会も少なく、屋敷で会っても軽い挨拶をする程度です。
一日は二十四時間だ。しかし、人それぞれの時間を足し算すれば、それは膨大な時間のパズルとなる。肉体という小宇宙で、崇剛はひとつずつ組み立ててゆく。
私の見ている瑠璃が出てくる夢を最初に見たのは――
三月二十四日、木曜日、十一時三十六分二十七秒以前。
あちらの日から、涼介は国立氏には会っていません。
これらから判断して、以下の可能性が、74.53%で出てきます。
別の方法で知った――です。
そうしてまた、形の合うピースを拾い上げた。崇剛はポケットに怪我をしていない手を入れた。
自動車へ乗る前に拾った……。
取り出したのは、千切れた紙切れだった。そうして、自室の隣国――紅璃庵の本のデータをさらに、パズルにはめ込もうとする。
こちらの紙。
術式を使ったあとのものかもしれません。
そちらをしたのが、国立氏であるという可能性が64.53%――
「らよ、トラップ張っていったって、時間差でわかるように仕掛けてくんじゃねえ!」
国立はローテーブルをウェスタンブーツでガツンと横蹴りすると、
「遊んでんじゃねえ! わからねえように、仕掛けんだろうが、トラップってのはよ」
聖霊寮の人々がビクッと反応をし、応接セットのほうに視線が集中した。空き缶がふたつ、ローテーブルの埃の上をコロコロと転がってゆく。
そんなことはどうでもいいのだ。国立は今の会話で最大の嘘が初めのほうにあったのだと、今知ったのだった。
「可能性で量ってる野郎が、わからねえなんて、言いやがらねえだろ! 何の情報、持っていきやがった?」
今の会話の順番を詳細に思い出せない。崇剛への説教だった。それは確かだが、嘘はどこだったのか。あの水色の瞳をできるだけ記憶の中で蘇らせる。
国立にただひとつわかったのは、
「礼言ってたのは、本当だろ」
転がっていた勢いで、空き缶ふたつが時間差で床へ落ち、カコンカコンと鳴った。
赤い目ふたつはどこにもなかった。
過ぎてしまったものは仕方がなく、藤色の短髪をガシガシとかき上げて、あの男を夢中にさせた、見たこともないガキを考える。
(でよ……瑠璃お嬢の惚れた野郎って、どいつだ? 涼介……トラップ天使……あぁ? 何つったか、涼介のガキ……瞬。ノーマルに考えりゃ、あいつだろ)
刑事の勘でたどり着いた。それを思うと、国立はどうしてもため息が出るのだった。
「崇剛も残酷なディスティニーの中ってか?」
通常業務に戻ろうと、調書をかき集めて、青空を見上げた。この景色がこうやって見られるのも、今すぐに終わってしまうかもしれないが、それでもガムシャラに抗ってやろうと、国立は鋭い眼光を送りつけた。
*
治安省の廊下を、茶色のロングブーツはかかとを優雅に鳴らしながら、歩いていたが、ふと立ち止まり、行き交う多くの人々の邪魔にならないよう端へと寄った。
神経質な手の甲を中性的な唇に当て、崇剛はくすりと笑う。
「国立氏は今頃気づいているかもしれませんね。私が罠を仕掛けていたと」
中庭の植え込みの花を眺めながら、崇剛は窓から吹き込んできた風で乱れた、紺の髪を手慣れた感じで払った。
あとで気づくように、仕掛けさせていただきましたよ。
私はわかったという言葉は使いません。
なぜなら、確定――断定してしまう言葉だからです。
従って、こちらの否定型であるわからないも使いません。
相手に手の内を見せることになってしまいますからね。
崇剛は再び廊下を歩き出した。瑠璃色の上着で隠した包帯の、ざらざらした感触を左手で味わいながら、冷静な思考回路は正常に稼働させておく。
国立氏に関して、おかしい点がふたつありました。
ひとつは瑠璃と私の話を知っている――です。
屋敷の人間でも知っているのは、涼介だけです。
涼介が国立氏に話すというのはおかしいです。
ふたりは会う機会も少なく、屋敷で会っても軽い挨拶をする程度です。
一日は二十四時間だ。しかし、人それぞれの時間を足し算すれば、それは膨大な時間のパズルとなる。肉体という小宇宙で、崇剛はひとつずつ組み立ててゆく。
私の見ている瑠璃が出てくる夢を最初に見たのは――
三月二十四日、木曜日、十一時三十六分二十七秒以前。
あちらの日から、涼介は国立氏には会っていません。
これらから判断して、以下の可能性が、74.53%で出てきます。
別の方法で知った――です。
そうしてまた、形の合うピースを拾い上げた。崇剛はポケットに怪我をしていない手を入れた。
自動車へ乗る前に拾った……。
取り出したのは、千切れた紙切れだった。そうして、自室の隣国――紅璃庵の本のデータをさらに、パズルにはめ込もうとする。
こちらの紙。
術式を使ったあとのものかもしれません。
そちらをしたのが、国立氏であるという可能性が64.53%――
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