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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

心霊探偵と心霊刑事/16

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「ヤン ダリルバッハ。非常に頭の切れる人物という話は聞いたことがあります」
「そいつか、その下……四人いやがったよな?」
「四天王です。大魔王も含めて全員、非常に有能な正神界の神だったそうです」

 どんな経緯かは明らかになっていないが、この話をラジュから聞かされた時、味方が敵となった神世には、どんな波紋が広がったのだろうと、崇剛は思ったものだ。

 国立の鋭い眼光は天井を突き抜け、青空よりもはるか遠くに挑むように向けられていた。

「そいつら、使える力が違ってやがっただろ?」

 崇剛は組んでいた足を解いて、床にきちんとそろえた。

「火の属性を持つ、リダルカ シュティッツ。水の属性を持つ、ガドル リファイネ。風の属性を持つ、ナンディー アストラカ。地の属性を持つ、エルダ キャサンシーです」

 名前を言えば言うほど、勝算の数値がどうやっても下がっていってしまうのだった。

 予測をはるかに上回る、危険な夜にひとり屋敷から出たのかと思うと、ラジュが気づかなかったのも、崇剛は合点がいった。

(大鎌を持った霊体……。四天王以上の存在から、武器を与えられたのかもしれない)

 ソファーの背もたれから起き上がって、国立はカフェラテを飲んだが、どうにも味が苦かった。

「そいつらのひとりが絡んでるかもしれねぇな。ノーマルに考えりゃ、そうなんだろ?」
「そちらは、神のランクでないと対応できません」

 天使の証である、輪っかや両翼はついていないのだと、ラジュが説明していたのを、崇剛は鮮明に思い出した。

「それが本当の話なら、かなりやばいぜ」

 こうやって、国立とローテーブルを間に挟んで、事件について話し合うのも、今すぐなくなってもおかしくはなかった。

 崇剛はいつの間にか、真っ黒なペンキで塗りたくられた、絶望という空間に立っていた――。

 だがしかし、ブラウスの下で肌身離さず持っている、ロザリオをキツく握りしめると、一筋の光が天から差し込んできた。

「困りましたね、二百人は氷山の一角かもしれません。大魔王と四天王は、私たちの許容範囲ではありません。姿も見えませんし、声も聞こえません。ラジュ天使も、ご存知かもわかりません」

 赤い目をした男は四天王のひとりなのか。それとも、大魔王なのか。天使の格好をしていたが、悪魔が化けたのかもしれない。

 決め手がないからこそ、見たままで、正神界の天使なのかもしれない。自身よりも霊層の高い存在の姿形を、千里眼で捉えようとしても見えなかった。

 神の領域で人間の自分には追えないのか。そうなると、これはもう崩壊の序曲を踏んでいるという可能性が出てきてしまう。

 しかしなぜ、あの夜殺されずに、今日も無事に朝を迎えられているのか。やはり矛盾点が浮かび上がって、どうにも情報が少なく、崇剛は可能性を導き出せないでいた。

 前後不覚になっている男の名を呼ぶ声は、しゃがれていた。

「崇剛?」
「えぇ」

 焦点が国立に合うと、青白い煙の向こうから、ブルーグレーの鋭い眼光が真っ向から勝負するようにガンを飛ばしていた。

「瑠璃お嬢はお嬢で、てめえのこと守れんじゃねえのか? お前さん、何やってんだ? 人様の命がかかってるのによ」

 崇剛は心の中で冷静な水色の瞳をついっと細めた。

 おかしい――

 さっき逃した情報を得る機会がめぐってきたと、策略家は即座に可能性の数値を上げた。あっという間に作戦を練って、わざと優雅な笑みを消して――真剣な面持ちになった。

「なぜ、そちらのことをご存知なのですか?」
「どうしてだ? 当ててみやがれ」

 ハングリー精神旺盛なボクサーのように国立は、口の端でニヤリとすると、葉巻の柔らかい灰がぽろっと落ちた。

 冷静な頭脳の中では様々な可能性が近づいては遠ざかってゆく。そうして、崇剛はこの言動を選び取った。

 わざと間を置いて、紺の長い髪を横へ揺らす。

「わかりませんね」
「珍しいこと言いやがるな」
「そうかもしれませんね」

 あとで嘘だと問い詰められても、言い逃れができる言い回しで、崇剛は話を流した。
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