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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

心霊探偵と心霊刑事/9

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 調書に書き止めてあるのなら、聞いた順番通りにもれなく残っているだろう。国立は一枚の紙を持ち上げた。

「てめえ自信が斬られた。悲鳴、断末魔……。『返して……』って言われる。血の匂い、だ」
「情報が抜けていますし、順番もおかしいみたいです」

 崇剛はそう言って、茶色のロングブーツを組み直し、紅茶を上品に一口飲んだ。不浄な聖霊寮で漂っていた、ふたりの会話はふと途切れた。

「…………」
「…………」

 ずっとくわえ葉巻だった国立は、ふと唇から抜き取って、藤色の短髪をガシガシをかいた。

 それでも、崇剛は優雅にソファーの上で腰掛けて、この線の細い男が何をしてきたのかわかって、心霊刑事は鋭い眼光で刺殺しそうに見て、ガサツな声で突っ込んだやった。

「てめえばっかし、情報持ってくんじゃねえ! こっちにも渡しやがれ、そこで笑い取ってんじゃねえ!」

 順番がおかしいと言った割には、崇剛が元から聞いた内容は教えないという、マニアックな笑い。

 優雅な神父は手の甲を唇に添えて、くすくす笑い始めた。

「笑いは人生において大切だと、国立氏が以前おっしゃっていましたからね。ですから、罠を仕掛けましたよ」

 真面目に話が進みやしない。ルールはルールの男のお陰で。

 アラフォー前の国立の口から、スレた大人の言葉が放たれた。

「お前さん、性癖エムだろ? てめえのトラップで笑いやがって」
「そのようなものは、私にはありませんよ。神父・・ですから……」

 優雅なイメージを汚されてなるものかと、崇剛は涼しい顔をして言い返した。次から次へとツッコミポイントを回してきやがってと思いながら、兄貴も前振りを投げつけてやった。

「てめえ、フロント ハイキックだ!」
「えぇ、構いませんよ」

 収集がつかないほど、お笑いお披露目パーティとなってしまった、応接セットという現場では。

 国立は持っていた紙を頭上高くへ投げ、しれっと上品な横顔を見せている崇剛に噛みつくように言った。

「テーブル挟んでる状態で出来るか! てめえの顔にオレのキックが入んだろ。つうか、承諾すんじゃねえ。そこで、遊びやがって」

 そうしてとうとう、崇剛は肩を小刻みに揺らし、何も言えなくなって、彼なりの大爆笑を始めた。

「…………」

 落ちてきた紙を他の調書の上に重ねると、国立の口から衝撃的な内容が聖霊寮にもたらされた。

「てめぇ、半分は神主・・じゃねぇのか? ミズリー教っつうのは、クリスチャンと神道しんとうを足して二で割った密教って、説明してただろ」

 神父の振りをしている、優雅な神主はエレガントに「えぇ」と短くうなずき、策略家と再確認させるような理由を告げる。

「ですが、お誘いを受けることが多く、そちらを断るには、神父のほうが好都合なのです。神主だと、断り切れないのです」

 神父ならば神に身を捧げたと言っても、一般の人でも納得するが、神主はそうはいかないのだ。

 絶対に悪を入れないという、厳しい規律の中に組み込まれた神父、と、どんなものでも柔軟に取り入れる宗教の神主。どちらが断れる可能性が高いのかは明白だった。

 時には同性にも言い寄られる聖霊師の苦悩。しかし、したたかで、国立は一言言ってやりたくなった。

「ナンパに宗教利用しやがって」

 意味が少々違っていたが、崇剛は後れ毛を耳にかけ、冷静な水色の瞳は一瞬にして全てのものを凍結させるほど冷たかった。

「私は決して優しい人間ではありませんからね。利用できるものは利用します」
「お前さん、童貞だろ?」

 こんな暴言は執事でも吐いてこない。高台の屋敷で優雅な暮らしとは違って、刺激をもたらすタフガイを前にして、崇剛はくすくす笑い出した。

「あなたと話していると、飽きませんね」

 返事をはぐらかしやがって――。ふたりともアラサー。いい大人だ。遊んでいる暇はない。国立はしゃがれた声で、

「話元に戻せや」

 崇剛は笑うのをすぐにやめて、真剣な顔に戻った。
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