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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

主人は執事をアグレッシブに叱りたい/8

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 策略的な主人の手中にすでに落ちてしまっている執事は、驚きすぎて言葉が最後まで言えなかった。

「な、何を言って……!」
(お、お前も俺も同性愛者じゃないから、イクことにはならないだろう)

 聖霊師という悪霊と生死を賭けて戦う主人。その立場をよく理解していない執事に、崇剛の罠は容赦なく次々と放たれる。

「体で感じていただきます」

 七をもう一度です。
 勘違いは脳でおきます。
 従って、体です。
 ですから、嘘は言っていません。

 ルールはルールの主人らしい、心の内だった。対する執事は今ももれなく勘違い中。

「そ、それって……!」
(俺を開発するってことか!?)

 言いよどんでいる執事を前にして、主人は余裕の笑みでわざと質問をした。涼介が答えられない可能性が高いと踏んでいて。

「どうしたのですか?」

 冷静な水色の瞳の端には、一番下に絨毯、その次に新聞紙、さらにその上に涼介の右腕の順番で光景が映し出されていた。

 ソファーの上の新聞紙に、私が左腕をついた時には滑り落ちるという可能性が78.98%――
 残りの21.02%は何も起きない。
 起きない時には、わざと落ちましょうか――。

 執事を策略に陥れるという快楽に溺れてしまっている、優雅な主人の手口はどんどん巧妙になっていた。

「ど、どうって……!?」

 涼介は途中で気づいた。崇剛の罠のひとつに。理由を言わされてなるものかと思い、口を慌ててつぐんだ。

 相手が戸惑っているうちに、崇剛は瑠璃色の貴族服にあらかじめ忍ばせておいた、包帯止めをひとつ取り出した。

(いつ、はずれるかわかりませんからね。きちんと用意してありましたよ)

 器用に左手だけで、とけてしまった包帯を巻きつけ、金具を布に食い込ませて綺麗に元へ戻した。

 執事を一番困らせる罠へと、崇剛は着実に導いてゆく。涼介の顔の横に再び左手を置いた崇剛。主人がソファーの上で、執事を押し倒しているシチュエーションの中で、優雅な声がリスタートをかける。

「それでは、始めますよ」

 七.涼介に私の言葉を勘違いさせる――
 手が届かなく、未だ直せていないのです。
 先ほどの、身も心も危険であるという可能性が92.67%から、さらに上がり97.65%――
 涼介には少し重たい想いをしていただきましょうか。
 従って、今までで一番困っていただきます。

 可能性の数値が変われば、主人の罠も変化を遂げる。当然の対処だったが、何かが執事に物理的にのしかかるような予感が色濃く漂っていた。

 にわかに春風が吹いてきて、カーテンを舞い上げる。崇剛の不自由な右手がそれをつかもうとしたが、振りをしているだけだった。

 策略的な主人は、素直過ぎる執事の上でバランスをわざと崩し、左腕をソファーと涼介の間に挟まっていた新聞の上へ落とした。

 そうして、涼介にとっては悲劇の幕開けがやってきた――。

 ソファーの端に、策略神父の左腕が乗った。斜面を越えれば、床へと真っ逆さまに落ちていって、崇剛が涼介を下敷きにするのは目に見えた。

 オー マイ ガット――。

 新聞紙の摩擦のなさに、崇剛の左肘が滑り、床に向かって落ちて、執事が衝撃で息を詰まらせ、

「っ!」

 遅れて主人は思わず苦痛の声を小さくもらした。

「っ!」

 策略家の予想通りになってしまったが、物事はまだ動いていた。全体的にソファーの背もたれと反対側に傾いている崇剛の体は、落下の危険性が十分あった。

 崇剛の身を包んでいるシルクのブラウス。

 と、

 涼介の洗いざらしのシャツ。
 
 は、今やぴったりとくっついていた。下から、床、絨毯、ソファー、涼介、崇剛の順で見事なまでに重なっている。

 主人の貴族服の内ポケットに潜ませてある、魔除のローズマリーの香りが、執事の鼻をいつもより強くくすぐる。

 涼介の左腕は、ソファーの隙間に挟まってしまい、動かせる右腕だけで勢いをつけて、

「んっ!」

 本当に押し倒してくるとはどういうつもりだ。と不快に思いながら、体を左へよじり、崇剛から顔を遠ざけようとした。

 その反動で、上に乗っていた主人の体が斜め下――ソファーのまわりに敷いてあった絨毯へ向かって落ち始めた。

「っ……!」
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