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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

主人は執事をアグレッシブに叱りたい/2

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 いつでも記憶をスムーズに取り出せるように、崇剛はインデックスをつけようとする。思考しながら利き手を、ズボンのポケットに入れようとしたが、

「っ!」

 傷口がぶつかって、うめき声が思わずもれた。神父は自室で静かに懺悔をする。

「冷静な判断を欠き、感情に流された私への、神のお導きなのかもしれませんね」

 かなり深い傷で、不自由している千里眼の持ち主は、ポケットから浮かび上がってくる数字の羅列を読み取った。

(91235……九時十二分三十五秒)

 その時、頭上を斜め上から、屋敷へ向かってくる小さな光のようなものを見つけた。

「何でしょう? 金色の光……。どちらへ向かっていくのでしょう?」

 常人には決して見えるものではなく、千里眼を持っている者か、もしくは特殊な能力を持っていないと見えないものだった。

 崇剛は驚くこともなく、その光の動きを心の目で追っていたが、ベルダージュ荘の屋根に吸い込まれるように消えた。

「こちらの屋敷へ入りました。どのような意味があるのでしょう?」

 包帯で巻かれた右手をあごに当て、冷静な思考回路をすぐに展開する。膨大な量のデータが頭の中に流れ出し、一致するものをすぐに見つけた。

「私の寝室にある本棚――右側の上から二段目」

 隣の部屋に今まさしく立っているように、崇剛は一冊の本を取り出し、ページを頭の中で開こうとする。

「隣国、紅璃庵――。そちらの国の古武術――合気あいき。体の気の流れとテコの原理、そうして、心霊的駆け引きを必要とする護身術」

 ページの端に視線を落としたまま、パラパラとめくってゆく。

「そちらの本の、百八十九ページに記載されていた。体の気の流れ――。部位によって、人の気の流れ――色、性質は違う」

 医学書のような人体の絵が描かれたページをよく開いて、心の目でしっかりと見つめる。

「金の気の流れ……それは人を惑わすもの。その人のあたり一帯にオーラのようにかかる。もうひとつは直感――天啓」

 パタンと本を閉じで、崇剛の冷静な頭脳は隣室の寝室から意識を戻し、結論づけた。

「今のは一直線でした。すなわち、後者であるという可能性が98.97%――」

 四月の終わりにしては、暖かすぎる風を感じて、綺麗に晴れ渡った空のさらに遠くを見ようとする。

「直感――天啓を与えられるのは天使、神のみです。受けるのは人。屋敷で直感の働く人間……」

 今日も十分な陽を受けられない、あの旧聖堂で悪霊と戦闘して倒れ、気がつくと寝室に横になっている。

 何時間も放置されることなく、いつも無事で戻ってきている。こんなことが起きるのは、直感できる人物がいるからだ。

「涼介であるという可能性が一番高く、99.78%――。何かあったのかもしれませんね」

 部屋へ振り向くために、茶色のロングブーツが床の上でねじれようとした時、ドアがノックされた。

「はい?」
「崇剛、今ちょっといいか?」

 策略的な主人にとって、わかりやす過ぎるくらい、正直で素直な執事の声が廊下からやってきた。

「えぇ、構いませんよ」

 崇剛はある程度の予測をつける。

(私に関係することを、直感したみたいです)

 その胸の内はそっと隠しておき、細い指がドアノブを回し、手前へ引くと、いつもの元気はなく、気まずそうな顔をした涼介が立っていた。

「お前に……言ってなかったことがあった」

 執事はドキマギしていた。

(さっき、伝えたほうがいい気がしたんだ。どうしてだかわからないけど……)

 対する主人はどこまでも平常心で、冷静な水色の瞳から入ってきた、執事の全てを一瞬にして記憶した。

 右手にメモを持っているみたいです。
 従って、あちらのことを私に伝えにきたという可能性が97.67%――
 困った人ですね、あなたは――

 それはほんの一瞬で、執事に気づかれないように、主人は素知らぬふりで相づちをただ打った。

「そうですか」

 背中で揺れる紺の髪で感じる。今も開け放ったままの部屋の窓から見上げた青空を。

 天啓を受けている以上、今回の件は重要なことであるという可能性が98.87%――
 同時に以下の可能性が出てきます。
 誰かが死ぬ、もしくは邪神界へ行ってしまう。
 そちらを、涼介は私に伝えなかった……。

 冷静な水色の瞳に、悪戯好きな少年と同じ光が密かに宿った。
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