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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

血塗られた夜の宴/3

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 霊界とつながる聖なるダガー。物質界のものではなく、霊界のものだけを、崇剛の神経質な手が鞘から抜き取る。

 透明な刃先を背中に隠すようにして持ち、千里眼保有者は両足をベッドから優雅に垂らし、なぜか素足のまま窓に歩み寄った。

 引き返せない死後の世界へ向かって、カウントダウンするように、カーテンをゆっくりと開ける。

 霞のようなレースのカーテンも両側へ引き寄せ、開き窓を慣れた手つきで、銀の取手を外側へと押し出した。

 そこで待っていたのは――

 金色の光る輪っかを頭に乗せ、同じ色をした髪は夜風に揺らめいていた。邪悪という名がよく似合う、サファイアブルーの瞳を持ち、相変わらず何を考えているのかわからない、ニコニコの笑みを浮かべた天使――ラジュだった。

(導き出した可能性と違う。おかしい……)

 崇剛の中で様々な可能性の数値が変化した。何事もないように、窓の外に浮いている人を、いつも通りの優雅な笑みで出迎える。

「何かあったのですか?」

 千里眼の持ち主は屋敷の中では安心して過ごせる。ラジュと瑠璃の張った結界のお陰で、悪霊たちから守られているからだ。

 人である私の心は、霊以上の存在には筒抜けです。
 ですから、結界を張って、私の考えも邪神界には聞こえないようになっています。
 部屋から出るのは危険であるという可能性が98.78%――

 崇剛の中で、この窓枠は死線であるという事実が急浮上した。それとは対照的に、ラジュは不気味な含み笑いをする。

「うふふふっ。今神の元から戻ったのですが、崇剛に急ぎの用がありましてね?」
「どのような内容ですか?」

 聞き返しながら、崇剛は金髪天使の今までのデータを、脳裏で滝のように流し続ける。

 ラジュ天使は神界との行き来があります。
 こちらの屋敷を離れることは多々あります。
 今の言葉が本当であるという可能性は56.78%――
 少し低いです――。
 ですから、疑問形を投げかけて、情報を引き出しましょうか――。

 作戦は繊細かつ大胆に変更された。相手の言葉――要求を巧みに避けつつ、策略家神父は相手には策だとバレないように優雅に微笑む。

 そうして同時に、疑問形――情報引き出しをしながら、可能性を推し量るという、複雑な思考回路がいつも通りエレガントに進んでゆく。

 立派な両翼を広げているラジュのサファイアブルーの邪悪な瞳はニコニコのまぶたに隠されたままだった。

「こちらへ手を伸ばしていただけませんか~?」
「なぜですか?」

 私を結界の外へ出そうとしているという可能性が出てきた――。

「手を伸ばしていただければ、わかりますよ~」
「教えていただけないのですか?」

 私を結界の外へ出そうとしているという可能性は上がり、67.45%――
 同時に以下の可能性が、今までの事実から出てきます。
 今、目の前にいるラジュ天使は、偽物であるという可能性が67.98%――

 本当に用があるのなら、屋敷に入ってくればいいものの、わざわざ無防備になる結界の向こう側へと連れ出そうとしている。

 結界――境界線を間に挟んで、崇剛がラジュとそれぞれの笑みをたもちながら対峙していると、天使のすぐ横に、巫女服を着た黒髪の少女がすうっと現れた。

 幼い声なのに、百年の重みを感じさせるそれで、三十二歳の神父に注意する。

「崇剛、幻ではあらぬ」
「瑠璃さん、なぜそちらにいるのですか?」

 おかしい――。
 瑠璃は私の守護霊です。
 従って、結界の向こう側にいるという可能性は8.66%――
 非常に低いです。
 今の時間帯は、瞬のそばにいるという可能性が99.98%――
 少し、待ってみましょうか。
 可能性を見極めるために……。

 聖女は崇剛から視線をはずし、天使を見上げた。

「ラジュ、お主、何しに参ったのだ?」
「瑠璃さんからも、言っていただけませんか~?」

 語尾がゆるゆる~と伸びた、いつも通りおどけたラジュだった。しかし、崇剛は冷静な水色の瞳を、闇夜に紛れてついっと細める。

 話の内容がおかしい――。
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