上 下
535 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Disturbed information/11

しおりを挟む
 自白させられない心霊刑事。

 と、

 隠し事をしている犯人。

 去年の三月まで、国立は殺人事件を扱っている罪科寮の敏腕刑事だった。密かに心理戦が何日にもわたって展開されていた。

 そんなこととも知らず、元はずっと待っていたが未だに現れない聖霊師の名を口にした。

「あ、あの……ラハイアット先生に、お願いできませんか?」

 眠るたびに見る悪夢。うなされては目を覚ますの繰り返し。そこから逃げ出したくて、元は切なる願いを口にした。

 国立はジーパンのポケットからシガーケースを取り出しながら、気だるく聞き返す。

「あぁ?」

 ミニシガリロを取り出して、両指で端を持ち回す。まるで何かの機会が巡ってくるのを待つように、葉巻の巻目――ゆるいUの字をくるくると眺めた。

「ラハイアットの苗字はやっこさんとこしかねえんだよな。あそこはご先祖さんが外国人だからよ」

 鋭い眼光は部屋の隅に座る元をじっと捉えた。

「崇剛 ラハイアット――のことか?」
「は、はい……」

 葉巻の表面を男らしいごつい指でなぞってゆくと、スルスルと滑らかなのに、小さいデコボコが絶妙な手触りを味合わせる。

「やっこさんを連れてこなかったには、わけがあんだよ、いくつか。てめえからのご指名じゃ、しょうがねえな。どよ……」

 ミニシガリロを人差し指と中指に挟んで、見せつけるようしながら、国立はこんな言葉を犯人に浴びせた。

「てめえ、覚悟はあんのか? そんなストロングな野郎には見えねえぜ」
「な、何のですか?」

 正座した犯人を前にして、国立は足を床に伸ばし、ウェスタンブーツのスパーをかちゃっと打ちつけて、また手で葉巻を弄び始めた。

「やっこさんはメシア持ちだ。れって……」

 鉄格子にシルバーリングをカツンと当てた。

「本気で審判ジャッジかかんぜ?」
「え、え?」
「事実を事実として受け入れられんのか?」
「受け入れる……」
「オレとディファレントで、崇剛には情けなんてモンはねえ。てめえ自身にも他のやつに対しても限りなく冷酷だぜ?」

 国立は思う。この目の前にいる男とは大違いで、あの線の細い男は強い人間だと。情などにいちいち流されていたら、一流の聖霊師には到底なれないだろう。

 人の人生をいくつも見るということは、他人の感情や憎悪が自分の中へ容赦なく入り込んでくる。よほど自分をしっかり持っていないと、とてもではないが霊視などできないのだ。

 下手をすれば、自分が他人の人生に飲み込まれ、精神を壊し気が狂ってしまうだろう。だからこそ、残酷なほど、あの男の頭脳は冷静だった。

「そ、それは……?」

 気弱な元に向かって、心霊刑事は最後の審判を下すように告げた。

「もし、てめえが邪さんだったら、どうすんだ?」
「え?」
「てめえが、悪――黒だって突きつけられたら改心すんのか?」

 自分の願いとは現実が違った時どうするのかと問うたのに、あまりにも甘い見通しが返ってきた。

「ち、違います! 私は絶対違います!」

 床に正座したままの元は、必死に首を横に振った。国立は吐き捨てるように言う。

「……らちがあきやがらねえ! 虚言はいくらでもつけんだよ!」

 ウェスタンブーツのかかとで、鉄格子を三度蹴りつけた。響き渡る、脅しという名の轟音。

 耳にこびりつくほど聞かされてきた元は、床に両手をつき、心霊刑事に向かって必死の叫びを上げた。

「も、もう出してください!」

 土下座された国立は、弄んでいたミニシガリロに火をつけ、慣れた感じでくわえ葉巻にしながら、あの優雅な男が聖霊寮の応接セットで仕掛けてくる罠のひとつを思い出した。

「夢の話したら出してやってもいいぜ?」
「わ、わかりました。します」

 元は床から顔を上げて、とうとう観念した。国立は口の端でニヤリとする。崇剛にいつもしてやられる、交換条件で情報入手にこぎつけて。

「吐きやがれ」

 勝ち誇ったように言った、国立の口元から葉巻の柔らかい灰が床にぽろっと落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...