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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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自白させられない心霊刑事。
と、
隠し事をしている犯人。
去年の三月まで、国立は殺人事件を扱っている罪科寮の敏腕刑事だった。密かに心理戦が何日にもわたって展開されていた。
そんなこととも知らず、元はずっと待っていたが未だに現れない聖霊師の名を口にした。
「あ、あの……ラハイアット先生に、お願いできませんか?」
眠るたびに見る悪夢。うなされては目を覚ますの繰り返し。そこから逃げ出したくて、元は切なる願いを口にした。
国立はジーパンのポケットからシガーケースを取り出しながら、気だるく聞き返す。
「あぁ?」
ミニシガリロを取り出して、両指で端を持ち回す。まるで何かの機会が巡ってくるのを待つように、葉巻の巻目――ゆるいUの字をくるくると眺めた。
「ラハイアットの苗字はやっこさんとこしかねえんだよな。あそこはご先祖さんが外国人だからよ」
鋭い眼光は部屋の隅に座る元をじっと捉えた。
「崇剛 ラハイアット――のことか?」
「は、はい……」
葉巻の表面を男らしいごつい指でなぞってゆくと、スルスルと滑らかなのに、小さいデコボコが絶妙な手触りを味合わせる。
「やっこさんを連れてこなかったには、わけがあんだよ、いくつか。てめえからのご指名じゃ、しょうがねえな。どよ……」
ミニシガリロを人差し指と中指に挟んで、見せつけるようしながら、国立はこんな言葉を犯人に浴びせた。
「てめえ、覚悟はあんのか? そんなストロングな野郎には見えねえぜ」
「な、何のですか?」
正座した犯人を前にして、国立は足を床に伸ばし、ウェスタンブーツのスパーをかちゃっと打ちつけて、また手で葉巻を弄び始めた。
「やっこさんはメシア持ちだ。れって……」
鉄格子にシルバーリングをカツンと当てた。
「本気で審判かかんぜ?」
「え、え?」
「事実を事実として受け入れられんのか?」
「受け入れる……」
「オレとディファレントで、崇剛には情けなんてモンはねえ。てめえ自身にも他のやつに対しても限りなく冷酷だぜ?」
国立は思う。この目の前にいる男とは大違いで、あの線の細い男は強い人間だと。情などにいちいち流されていたら、一流の聖霊師には到底なれないだろう。
人の人生をいくつも見るということは、他人の感情や憎悪が自分の中へ容赦なく入り込んでくる。よほど自分をしっかり持っていないと、とてもではないが霊視などできないのだ。
下手をすれば、自分が他人の人生に飲み込まれ、精神を壊し気が狂ってしまうだろう。だからこそ、残酷なほど、あの男の頭脳は冷静だった。
「そ、それは……?」
気弱な元に向かって、心霊刑事は最後の審判を下すように告げた。
「もし、てめえが邪さんだったら、どうすんだ?」
「え?」
「てめえが、悪――黒だって突きつけられたら改心すんのか?」
自分の願いとは現実が違った時どうするのかと問うたのに、あまりにも甘い見通しが返ってきた。
「ち、違います! 私は絶対違います!」
床に正座したままの元は、必死に首を横に振った。国立は吐き捨てるように言う。
「……埒があきやがらねえ! 虚言はいくらでもつけんだよ!」
ウェスタンブーツのかかとで、鉄格子を三度蹴りつけた。響き渡る、脅しという名の轟音。
耳にこびりつくほど聞かされてきた元は、床に両手をつき、心霊刑事に向かって必死の叫びを上げた。
「も、もう出してください!」
土下座された国立は、弄んでいたミニシガリロに火をつけ、慣れた感じでくわえ葉巻にしながら、あの優雅な男が聖霊寮の応接セットで仕掛けてくる罠のひとつを思い出した。
「夢の話したら出してやってもいいぜ?」
「わ、わかりました。します」
元は床から顔を上げて、とうとう観念した。国立は口の端でニヤリとする。崇剛にいつもしてやられる、交換条件で情報入手にこぎつけて。
「吐きやがれ」
勝ち誇ったように言った、国立の口元から葉巻の柔らかい灰が床にぽろっと落ちた。
と、
隠し事をしている犯人。
去年の三月まで、国立は殺人事件を扱っている罪科寮の敏腕刑事だった。密かに心理戦が何日にもわたって展開されていた。
そんなこととも知らず、元はずっと待っていたが未だに現れない聖霊師の名を口にした。
「あ、あの……ラハイアット先生に、お願いできませんか?」
眠るたびに見る悪夢。うなされては目を覚ますの繰り返し。そこから逃げ出したくて、元は切なる願いを口にした。
国立はジーパンのポケットからシガーケースを取り出しながら、気だるく聞き返す。
「あぁ?」
ミニシガリロを取り出して、両指で端を持ち回す。まるで何かの機会が巡ってくるのを待つように、葉巻の巻目――ゆるいUの字をくるくると眺めた。
「ラハイアットの苗字はやっこさんとこしかねえんだよな。あそこはご先祖さんが外国人だからよ」
鋭い眼光は部屋の隅に座る元をじっと捉えた。
「崇剛 ラハイアット――のことか?」
「は、はい……」
葉巻の表面を男らしいごつい指でなぞってゆくと、スルスルと滑らかなのに、小さいデコボコが絶妙な手触りを味合わせる。
「やっこさんを連れてこなかったには、わけがあんだよ、いくつか。てめえからのご指名じゃ、しょうがねえな。どよ……」
ミニシガリロを人差し指と中指に挟んで、見せつけるようしながら、国立はこんな言葉を犯人に浴びせた。
「てめえ、覚悟はあんのか? そんなストロングな野郎には見えねえぜ」
「な、何のですか?」
正座した犯人を前にして、国立は足を床に伸ばし、ウェスタンブーツのスパーをかちゃっと打ちつけて、また手で葉巻を弄び始めた。
「やっこさんはメシア持ちだ。れって……」
鉄格子にシルバーリングをカツンと当てた。
「本気で審判かかんぜ?」
「え、え?」
「事実を事実として受け入れられんのか?」
「受け入れる……」
「オレとディファレントで、崇剛には情けなんてモンはねえ。てめえ自身にも他のやつに対しても限りなく冷酷だぜ?」
国立は思う。この目の前にいる男とは大違いで、あの線の細い男は強い人間だと。情などにいちいち流されていたら、一流の聖霊師には到底なれないだろう。
人の人生をいくつも見るということは、他人の感情や憎悪が自分の中へ容赦なく入り込んでくる。よほど自分をしっかり持っていないと、とてもではないが霊視などできないのだ。
下手をすれば、自分が他人の人生に飲み込まれ、精神を壊し気が狂ってしまうだろう。だからこそ、残酷なほど、あの男の頭脳は冷静だった。
「そ、それは……?」
気弱な元に向かって、心霊刑事は最後の審判を下すように告げた。
「もし、てめえが邪さんだったら、どうすんだ?」
「え?」
「てめえが、悪――黒だって突きつけられたら改心すんのか?」
自分の願いとは現実が違った時どうするのかと問うたのに、あまりにも甘い見通しが返ってきた。
「ち、違います! 私は絶対違います!」
床に正座したままの元は、必死に首を横に振った。国立は吐き捨てるように言う。
「……埒があきやがらねえ! 虚言はいくらでもつけんだよ!」
ウェスタンブーツのかかとで、鉄格子を三度蹴りつけた。響き渡る、脅しという名の轟音。
耳にこびりつくほど聞かされてきた元は、床に両手をつき、心霊刑事に向かって必死の叫びを上げた。
「も、もう出してください!」
土下座された国立は、弄んでいたミニシガリロに火をつけ、慣れた感じでくわえ葉巻にしながら、あの優雅な男が聖霊寮の応接セットで仕掛けてくる罠のひとつを思い出した。
「夢の話したら出してやってもいいぜ?」
「わ、わかりました。します」
元は床から顔を上げて、とうとう観念した。国立は口の端でニヤリとする。崇剛にいつもしてやられる、交換条件で情報入手にこぎつけて。
「吐きやがれ」
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