527 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Disturbed information/3
しおりを挟む
「逮捕状はあるんですか?」
スパーをかちゃかちゃと鳴らしながら、国立はカウンターへ正面を再び向け、斜め前に倒れるような格好で両肘でもたれかかり、吐き捨てるように笑った。
「少し遅延しててな」
墓場は何もかもが死んでいて、花形の罪科寮とは違って、自身の損得優先のお偉方はなかなか動かないのだ。
もう少し待つようなら、出直すしかないところだったが、開けっ放しにしていた店の入り口から、国立を慕ってやまない二十代の若い男が一枚の紙を持って、勢いよく滑るように入ってきた。
「兄貴、遅れったす!」
国立は女と対峙しながら、手を頭の脇へ持っていき、崇剛がダガーを持つように人差し指と中指を広げた。
「よこせ」
くわえたままのミニシガリロの脇から、ボソボソと言葉がもれ出る。
「先に動いてりゃ、しょっぴくの少しでも早くなんだろ。少しでもレイトすりゃ、邪さんにソウル持ってかれちまうからよ」
絶妙のタイミングで、一枚の紙が細い線を引っかくように、指と指の間に置かれた。
「ジャスト!」
しゃがれた声が響き、指で紙を挟み、パラパラと宙で見せつけるように舞わせながら、逮捕状の文面を女の正面へ持っていった。
「見ろよ」
文章を読み始めた女は、どんどん信じられない顔になってゆく。
「…………」
吐き捨てるように鼻で笑い、国立は女をにらんだまま、ガサツな声で一言忠告してやった。
「お前さん、この男に殺されるぜ」
人は偶然だというが、邪神界の人間が身内を殺すなどよくある話だった。心霊刑事として駆け抜けてきた一年で、事故や病気に見せかけて殺したなど、世の中にはゴロゴロと転がっていた。
元の妻は紙面から顔をさっと上げて、心霊刑事の鋭い眼光をもろともせず、こっちもこっちできっとにらみ返してやった。
「この人がそんなことをするはずがありません!」
カウンターに深く頬杖をつくと、国立の羽根型のペンダントヘッドが木に当たって、ゴトンと鈍い音と立てた。
「旦那から聞いてねぇのか? 過去に三人死んでんぜ?」
今もガクガクブルブル震えている気の弱そうな男の過去には、闇が隠されていたのだった。女はそれでも怯むことなく、言い返そうとしたが、
「あちらは、全て事故――」
その言葉をさえぎって、国立はカウボーイハットのツバをわざと下ろし、ギリギリのラインを狙って、鋭い眼光をさらに強調させるような位置でにらんだ。
「殺人未遂が一件。れって、お前さんも落ちたってことだろ? 同じ場所からよ」
「調べたんですか?」
女が聞き返すと、認めたと一緒になった。
「そりゃそうだろ? 三人も死んでんだからよ」
あの膨大な資料の山から抜き出した、この事件は今もまだこうやって続いている。犯人が地獄へといかない限り、また誰かが犠牲になるのだ。
女は自分にしがみつくようにしている夫の頭を優しくなでる。
「主人は私のことを気遣ってくれました。落ちやすい場所だからと、それに……」
妻が夫を愛する気持ちは本物だと、国立は思いながら先を促した。
「れに?」
「主人と私は距離をきちんと開けて歩いてました。たとえ突き落とすにしても、手は届きません」
先に死んでいる三人とも同じだった。元の手の届く位置にはいなかった。足を滑らせて落ちたのだろうと、判断するしかなかった。しかしそれが、四人も手にかける事件へと発展してしまった落ち度だった。
今こうして話している間も、どこに仲間が潜んでいるかわからない。単独犯とも限らない。国立は神経を研ぎ澄ましながら、見えているものだけを見て話している女に問いかける。
「届かせる方法があったら?」
「物理的に無理です」
「可能にできる方法があったら?」
「そんな方法があるんですか?」
「れを、調べんだろ?」
真相にたどり着かなければ、次もまた人が死ぬかもしれないのだ。女は反論する言葉をなくし、自分の足元でうずくまっている夫を心配そうに見つめた。
「…………」
細い首元に異変を見つけて、数々の事件を解決してきた心霊刑事は、嫌な予感を覚えた。
「そのアザも落ちた時についたのか? 首にずいぶんついてんな。お化けさんに、首でも締められたみてえだ」
転落してできたアザかと思ったが、女は隠すように手をそこへ当てた。
「……こちらは違います」
スパーをかちゃかちゃと鳴らしながら、国立はカウンターへ正面を再び向け、斜め前に倒れるような格好で両肘でもたれかかり、吐き捨てるように笑った。
「少し遅延しててな」
墓場は何もかもが死んでいて、花形の罪科寮とは違って、自身の損得優先のお偉方はなかなか動かないのだ。
もう少し待つようなら、出直すしかないところだったが、開けっ放しにしていた店の入り口から、国立を慕ってやまない二十代の若い男が一枚の紙を持って、勢いよく滑るように入ってきた。
「兄貴、遅れったす!」
国立は女と対峙しながら、手を頭の脇へ持っていき、崇剛がダガーを持つように人差し指と中指を広げた。
「よこせ」
くわえたままのミニシガリロの脇から、ボソボソと言葉がもれ出る。
「先に動いてりゃ、しょっぴくの少しでも早くなんだろ。少しでもレイトすりゃ、邪さんにソウル持ってかれちまうからよ」
絶妙のタイミングで、一枚の紙が細い線を引っかくように、指と指の間に置かれた。
「ジャスト!」
しゃがれた声が響き、指で紙を挟み、パラパラと宙で見せつけるように舞わせながら、逮捕状の文面を女の正面へ持っていった。
「見ろよ」
文章を読み始めた女は、どんどん信じられない顔になってゆく。
「…………」
吐き捨てるように鼻で笑い、国立は女をにらんだまま、ガサツな声で一言忠告してやった。
「お前さん、この男に殺されるぜ」
人は偶然だというが、邪神界の人間が身内を殺すなどよくある話だった。心霊刑事として駆け抜けてきた一年で、事故や病気に見せかけて殺したなど、世の中にはゴロゴロと転がっていた。
元の妻は紙面から顔をさっと上げて、心霊刑事の鋭い眼光をもろともせず、こっちもこっちできっとにらみ返してやった。
「この人がそんなことをするはずがありません!」
カウンターに深く頬杖をつくと、国立の羽根型のペンダントヘッドが木に当たって、ゴトンと鈍い音と立てた。
「旦那から聞いてねぇのか? 過去に三人死んでんぜ?」
今もガクガクブルブル震えている気の弱そうな男の過去には、闇が隠されていたのだった。女はそれでも怯むことなく、言い返そうとしたが、
「あちらは、全て事故――」
その言葉をさえぎって、国立はカウボーイハットのツバをわざと下ろし、ギリギリのラインを狙って、鋭い眼光をさらに強調させるような位置でにらんだ。
「殺人未遂が一件。れって、お前さんも落ちたってことだろ? 同じ場所からよ」
「調べたんですか?」
女が聞き返すと、認めたと一緒になった。
「そりゃそうだろ? 三人も死んでんだからよ」
あの膨大な資料の山から抜き出した、この事件は今もまだこうやって続いている。犯人が地獄へといかない限り、また誰かが犠牲になるのだ。
女は自分にしがみつくようにしている夫の頭を優しくなでる。
「主人は私のことを気遣ってくれました。落ちやすい場所だからと、それに……」
妻が夫を愛する気持ちは本物だと、国立は思いながら先を促した。
「れに?」
「主人と私は距離をきちんと開けて歩いてました。たとえ突き落とすにしても、手は届きません」
先に死んでいる三人とも同じだった。元の手の届く位置にはいなかった。足を滑らせて落ちたのだろうと、判断するしかなかった。しかしそれが、四人も手にかける事件へと発展してしまった落ち度だった。
今こうして話している間も、どこに仲間が潜んでいるかわからない。単独犯とも限らない。国立は神経を研ぎ澄ましながら、見えているものだけを見て話している女に問いかける。
「届かせる方法があったら?」
「物理的に無理です」
「可能にできる方法があったら?」
「そんな方法があるんですか?」
「れを、調べんだろ?」
真相にたどり着かなければ、次もまた人が死ぬかもしれないのだ。女は反論する言葉をなくし、自分の足元でうずくまっている夫を心配そうに見つめた。
「…………」
細い首元に異変を見つけて、数々の事件を解決してきた心霊刑事は、嫌な予感を覚えた。
「そのアザも落ちた時についたのか? 首にずいぶんついてんな。お化けさんに、首でも締められたみてえだ」
転落してできたアザかと思ったが、女は隠すように手をそこへ当てた。
「……こちらは違います」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる