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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Disturbed information/2

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 ゴトンと何か重いものが、カウンターの板に当たった音がした。店の主人が視線を少し上げると、雄牛のツノをイメージした、シルバーのペンダントヘッドが横たわっていた。

 その向こう側には、ジャガードカモフラ――迷彩柄のシャツが陣取っている。その隙間から、バッファローがデザインされた重厚感のある、ベルトのバックルが鈍い光を射出していた。

 そのまま顔を上げると、もうひとつのペンダントヘッドの羽根型が姿を現し、さらに男の顔を仰ごうとした時、

「こういうもんだ」

 店主の眼前に四角いものが突きつけられた。不思議そうな顔で、瞳に映った文字をつぶやく。

「治安省、聖霊寮、国立 彰彦……?」

 犯罪を取り締まる機関。そこからの、いきなりの訪問。店主は国立の鋭い眼光へ視線をぶつけた。

「あ、あの……な、何ですか?」

 国立は手帳をポケットにしまい、片肘を気だるそうにカウンターへつけ、男へとぐっと身を乗り出した。

「恩田 はじめ。お前さんに、逮捕状が出てんぜ」

 ことがことなだけに、元はこれ以上ないほど大きく目を見開いた。

「た、逮捕!? わ、私は、な、何もしてません!」

 国立――心霊刑事はもう片方の腕もカウンターへつき、シルバーリングだらけの両手を軽く組んで、罪状を突きつけた。

「殺人三件と殺人未遂一件、全部オールで四件だ」

 至って普通の生活で、自分が人を殺したなんて身に覚えがない、元は椅子から勢いよく立ち上がり、

「そ、そんな! 濡れ衣です!!」

 首を激しく横に振り、手に持っていた新聞紙がばさばさと床に散らばった。

「おかしなこと、起きてんじゃねぇのか?」
「お、おかしなこと……」

 元は落ち着きなくあちこちに視線を移し始めた。拳にはめて使う武器――ナックルダスターを連想させるような、国立の指六本につけられたシルバーリングたち。

(身に覚えあるってか? 邪さんを許すわけにはいかねんだよ。てめぇの欲だけに生きてるやつに、まともに当たってたら勝利ウィンできねぇ)

 まるで今すぐにでも襲いかかってくるような、太いシルバーリング六つを前にすると、元は震え上がった。

「な、何もないです!」

 ひどく取り乱した様子で反論した。犯人はいつだって、こんな反応をする。特に、霊界の犯行というものは、今世ではない限り、本人に記憶は残っていないのだ。それならば、なおさら反抗するものだ。

 国立はよくわかっていた。だからこそ、粗野な性格の彼らしい逮捕の仕方が披露されるのだ。

(気絶しても歌わせられんぜ。聖霊師が霊視すんだからよ。用があんのはソウルだ。肉体は不必要ナッシング。れってことでよ――)

 金属の指輪を見せつけるように、心霊刑事はボクサーのように両腕を構えた。百九十七センチの長身を生かして、ブルーグレーの鋭い眼光を刺し殺すように、元へ浴びせかける。

「殴ってでも連れてくぜ」
「ひゃっ、ひゃあ~!」

 逮捕されそうになっている元は、顔を真っ青にして震え上がり、声を裏返させながら悲鳴を上げた。店へと続いている座敷の出入り口へ腰を抜かしながらも逃げようとする。

 その時だった、のれんのかかった店の奥から、足を引きずりながら人が近づいてくる音がしたのは。綺麗な顔立ちをした、三十代前半の女が顔を出した。

「あなた、どうかしたんですか?」
「い、いや、わからん……」

 元は妻の足にしがみついて、すがるような目を女にやった。怯え切っている気弱な旦那から視線を上げ、女は国立に気丈に聞き返した。

「どのようなご用件でしょうか?」

 国立の射殺しそうな鋭いブルーグレーの眼光と、揺るぎない焦げ茶色の女の瞳が、一歩も引けない感じで絡まった。

「そいつの、コロシの件だ」
「逮捕されるおつもりですか?」

 ウェスタンスタイルで決めている、心霊刑事は何かを待つようにドアへ振り返り
、女に背中を見せた。カウンターに両手を後ろ向きにして乗せ、彼女の視線を横顔で受け止める。

「ずいぶん察しがいいな」

 前置きも聞いていないのに、旦那と違って頭の切れる女だと、国立は思った。
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