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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
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乾いた土の上を、手のひらよりも小さい、白い紙人形みたいなものがひらひらと進んでゆく。
中心街から少し離れた歩道で、まわりを歩いている人々は、そんな得体の知らないものがいることなど見えていないかのように、普通に通り過ぎてゆく。
紙人形が右に左に蛇行しながら、人々に踏みつぶされないように動いてゆくのを、ブルーグレーの鋭い眼光がさっきからずっと追っていたが、不意に紙人形は道を左へ曲がった。
大通りから横へはずれた細道を、赤茶のウェスタンブーツが砂埃を上げながら進んでゆく。かかとについている、小さなギザギザの丸い金属部分――スパーをかちゃかちゃと鳴らす後ろから、同じように地面を踏み、ついてくる靴音が複数響いていた。
先頭をいく男はジーパンに両手を突っ込み、左右の肩を怒らせながら、白い紙人形を追ってゆく。
両脇に立ち並ぶ建物には人気はなく、風が通り過ぎると、壊れ傾いたドアがギギーッと開いては、バタンと大きな音を脅かすかのように立てて閉じるを繰り返す。
にわかに吹き荒れた強風に、砂埃が横滑りしてゆき、小枝の絡まった丸いタンブルウィードがウェスタンブーツの前をコロコロと横切ってゆく。
西部劇さながらに、背が高くガタイのいい男は、じりじりと砂を踏む音を巻き起こしながら、一歩一歩着実に歩いていった。
しばらく行くと、案内するように動いていた紙人形はふと立ち止まり、地面にくたっと平伏した。ウェスタンブーツがザザっとブレーキ音を立てて、人気のない細い路地に居残った。
「ご苦労さん」
ガサツな男の声が響くと同時に、紙人形は地面から拾われた。手のひらでサラサラと粉になり、役目を終えたというように消え去った。
男はトレードマークのカウボーイハットのツバを上げ、鋭いブルーグレーの眼光を店の看板へやる。
「ここか」
軒先を凝視している横顔から、くわえタバコではなく、葉巻が顔をのぞかせていた。
「てめぇら、ここで、待機だ」
「おっす!」
粋の良い若い男たちの声が大勢応えて、ミニシガリロの柔らかい灰が地面へぽろっと落ちた。
藤色をした前髪の間から現れた、ブルーグレーの鋭い眼光の先には、日に焼けた薄緑のペンキが剥がれ落ちた、お世辞にも綺麗とは言えない店舗が建っていた。
白い扉は昔の物件らしくサイズがやけに小さめ。屋根の下できた三角部分――妻には、ひび割れた板の上に『恩田堂』と、筆で書いたような看板が吊るされていた。
どこからどう見ても、儲ける努力を怠り、やる気の感じられないひなびた骨董店だった。
男らしいごつい指にはめた太めのシルバーリングが三つ。それが白いドアへ伸ばされ、ぐっと中へ押すと、くくりつけてあったベルがカランカランと鳴った。
「邪魔するぜ」
店の奥にあるカウンターの中で、新聞を読んでいた人のよさそうな、店の主人が顔を少しだけ上げる。
「いらっしゃい」
そう言ったきり、誌面を視線を落としたままになった。入ってきた客が何をしようとも、気にするどころか、手元に置いてある時計ばかりをうかがっていた。
(二時三十分過ぎ……。ラハイアット先生のところに行くにはまだ時間がある。この客が帰ったら店を閉めて……)
ウェスタンブーツの足が、店の床をギシギシと鳴らしてゆく。何かに忍び寄るように。ブルーグレーの鋭い瞳には、壁掛けのろうそくの炎が赤々と映っていた。
店全体はくすんだ茶色――セピア色で染め上げられた空間だった。大きな古い時計や重厚なチェストが時を止めてしまったようにどっしりと鎮座する。
くすんだアクセサリー類と、無造作に積み上げられた色とりどりの食器たち。あちこちに置かれた統一感のない椅子と、どんな意味があるのかわからないような陶器の置物。
所狭しと売り物が置かれ、カビ臭い独特の匂いが漂っていた。店の通路はぐるっと回るようにできている。
しかし、入ってきた客はそのまま真っ直ぐカウンターへとやってきた。
中心街から少し離れた歩道で、まわりを歩いている人々は、そんな得体の知らないものがいることなど見えていないかのように、普通に通り過ぎてゆく。
紙人形が右に左に蛇行しながら、人々に踏みつぶされないように動いてゆくのを、ブルーグレーの鋭い眼光がさっきからずっと追っていたが、不意に紙人形は道を左へ曲がった。
大通りから横へはずれた細道を、赤茶のウェスタンブーツが砂埃を上げながら進んでゆく。かかとについている、小さなギザギザの丸い金属部分――スパーをかちゃかちゃと鳴らす後ろから、同じように地面を踏み、ついてくる靴音が複数響いていた。
先頭をいく男はジーパンに両手を突っ込み、左右の肩を怒らせながら、白い紙人形を追ってゆく。
両脇に立ち並ぶ建物には人気はなく、風が通り過ぎると、壊れ傾いたドアがギギーッと開いては、バタンと大きな音を脅かすかのように立てて閉じるを繰り返す。
にわかに吹き荒れた強風に、砂埃が横滑りしてゆき、小枝の絡まった丸いタンブルウィードがウェスタンブーツの前をコロコロと横切ってゆく。
西部劇さながらに、背が高くガタイのいい男は、じりじりと砂を踏む音を巻き起こしながら、一歩一歩着実に歩いていった。
しばらく行くと、案内するように動いていた紙人形はふと立ち止まり、地面にくたっと平伏した。ウェスタンブーツがザザっとブレーキ音を立てて、人気のない細い路地に居残った。
「ご苦労さん」
ガサツな男の声が響くと同時に、紙人形は地面から拾われた。手のひらでサラサラと粉になり、役目を終えたというように消え去った。
男はトレードマークのカウボーイハットのツバを上げ、鋭いブルーグレーの眼光を店の看板へやる。
「ここか」
軒先を凝視している横顔から、くわえタバコではなく、葉巻が顔をのぞかせていた。
「てめぇら、ここで、待機だ」
「おっす!」
粋の良い若い男たちの声が大勢応えて、ミニシガリロの柔らかい灰が地面へぽろっと落ちた。
藤色をした前髪の間から現れた、ブルーグレーの鋭い眼光の先には、日に焼けた薄緑のペンキが剥がれ落ちた、お世辞にも綺麗とは言えない店舗が建っていた。
白い扉は昔の物件らしくサイズがやけに小さめ。屋根の下できた三角部分――妻には、ひび割れた板の上に『恩田堂』と、筆で書いたような看板が吊るされていた。
どこからどう見ても、儲ける努力を怠り、やる気の感じられないひなびた骨董店だった。
男らしいごつい指にはめた太めのシルバーリングが三つ。それが白いドアへ伸ばされ、ぐっと中へ押すと、くくりつけてあったベルがカランカランと鳴った。
「邪魔するぜ」
店の奥にあるカウンターの中で、新聞を読んでいた人のよさそうな、店の主人が顔を少しだけ上げる。
「いらっしゃい」
そう言ったきり、誌面を視線を落としたままになった。入ってきた客が何をしようとも、気にするどころか、手元に置いてある時計ばかりをうかがっていた。
(二時三十分過ぎ……。ラハイアット先生のところに行くにはまだ時間がある。この客が帰ったら店を閉めて……)
ウェスタンブーツの足が、店の床をギシギシと鳴らしてゆく。何かに忍び寄るように。ブルーグレーの鋭い瞳には、壁掛けのろうそくの炎が赤々と映っていた。
店全体はくすんだ茶色――セピア色で染め上げられた空間だった。大きな古い時計や重厚なチェストが時を止めてしまったようにどっしりと鎮座する。
くすんだアクセサリー類と、無造作に積み上げられた色とりどりの食器たち。あちこちに置かれた統一感のない椅子と、どんな意味があるのかわからないような陶器の置物。
所狭しと売り物が置かれ、カビ臭い独特の匂いが漂っていた。店の通路はぐるっと回るようにできている。
しかし、入ってきた客はそのまま真っ直ぐカウンターへとやってきた。
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