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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

ダーツの軌跡/13

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「わかった」

 少し落ち着きを取り戻してきた執事を、惑わせようと崇剛は今までの情報を的確に脳裏の浅い部分に引き上げた。

(本日、十四時三十八分二十五秒過ぎ――。私のリボンが解け、あなたの頬に私の髪が落ちた。そちらの時、あなたは戸惑っているように見えた。ですから、このようにしましょう)

 崇剛は髪を縛っていたターコイズブルーのリボンを、慣れた感じで抜き取った。急に女性的な雰囲気に変わった崇剛は、残り三つでスズランの毒についての懺悔を行う。

「私のほうへかがみ込んで、目を閉じてください」

 同性同士なのに、なぜか異性を感じさせられる神秘的な主人へ近づいて、さらには視界の自由が奪われる。正直な執事は緊張で口の中が一気に乾いた。

(ど、どうして、髪をおろしたんだ? 何をする気だ?)

 いつもは自分が上から見下ろす背丈なのに、椅子に座らされてしまって景色は逆転。

 主人の冷静な水色の瞳は猛吹雪を感じさせるほど冷たく、自分の瞳へ視線は降り注がれていたが、思いっきり上目遣いで見ていたが、崇剛の優雅な声で注意が告げられた。

「もう一度言います。私のほうへかがみ込んで、目を閉じてください。こちらは同じことですから、カウントはしません」
「わ、わかった」

 執事がかがみ込むと、涼介の顔がちょうど、崇剛の腰前のあたりになった。主人のズボンのチャックを間近で見ながら、執事は想像する。

 今までの崇剛の言葉――。
 私をあなたの中へ入れてもよろしいですか?
 私自身をです。
 目を閉じてください。

 策略的な主人と違って、物事の順番がめちゃくちゃの執事は、今思い出さなくていいものまで思い出してしまった。主人の寝室で、優雅な声でささやかれた言葉――。

『私が愛しているのは、あなたかもしれませんよ』

 主人には一度注意された。その腰元の前で目をつむることは、拒否ができない。まださっきの十戒とやらの拘束は効力を発揮しているのだから。

 涼介はゴクリ生唾を飲んで、素直にまぶたを閉じた。ガス灯の燃える音が遠くで微かに聞こえる。バクバクと自分の心臓の鼓動がやけにうるさい。

 自身が予想しているようなことが起きないように、執事は祈っていたが、真っ暗な視界で、かちゃかちゃという金属音が耳の中に入り込んできた。

(何の音だ?)

 よく思い出す。金属のありかを。距離感を。そうして、涼介は音の出どころを突き止めた。

(ベルトのバックル!? それって、服ぬいで……!?!?)

 衝撃的すぎて、執事の頭の中は真っ白になりそうだったが、主人の優雅な声が現実へ引き戻した。

「触りますよ。それでは失礼」
「んんっ、んん!」

 崇剛の神経質な指先で、涼介の口は無防備に開かれ、そこへ向かって長い棒状のものが入ってきた。

(これって、まさか、お前の!)

 女性的な雰囲気なのに、口の中に入っているものは男性を感じさせる。両性具有みたいなアブノーマルな世界へ強制的に連れていかれたが、涼介に抵抗するすべがなかった。

(な、何をして……!)

 さらに、屈辱的な要求が、遊線が螺旋を描く優雅で芯のある声で下された。

「それでは、こちらを舐めて味わってください」

 約束してしまった以上、主人に執事は逆えず、舌を動かしたが、涼介は違和感を抱いた。

(ん? これってどっかで……?)

 そこで、崇剛が何かを堪能するような、悩ましげな吐息が頭上から降り注いだ。

「ん~! あぁ~、はぁ……。癖になるかもしれません、ね」

 ロングブーツのかかとの音が遠ざかってゆき、止まると同時にギシっとソファーの鳴る音がした。主人はもう近くにはいない。それなのに、涼介の口の中には相変わらず長いものが入っていた。

(この匂いと味って……さっき……?)

 真っ暗な視界のままで、妙な沈黙が部屋に広がったあと、だいぶ離れたところから、主人の優雅な声が浮き立った。

「十個終りましたから……」

 そこまでは、いつもの冷静な崇剛の物言いだったが、その後、笑い過ぎてどうしようもなく、声が途切れ途切れになってしまった。

「もう……自由にして……いただいても……構いませんよ。数えて……いなかったのですか?」
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