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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/6
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聞きたいことがあったのに、はぐらかされる。素直で正直な執事ならば、さらに聞きたい気持ちになるものだ。
「教えて欲しいのですか?」
崇剛から罠の一番最初の言葉が、涼介にかけられた。ソファーへと戻ってゆく主人の神経質な横顔を、純粋なベビーブルーの瞳で追いながら、涼介は違和感を覚える。
(教える……? お前が? 素直すぎないか、今日は。もっと回りくどいことしてくるぞ、いつもなら)
どこへ事実が転がっても、打つ手は全て計算し尽くされていて、質問をした崇剛は、涼介の視線などどこ吹く風で、ただ返事を待った。
「…………」
デジタルなまでに冷静な頭脳では、
待ったほうが涼介が聞き返してくるという可能性が77.82%――
私が罠を張っていると、涼介が気づくという可能性が12.58%――
別のことが起きるという可能性が9.60%――
どちらをしてくるのでしょう?
遊びの部分を残したまま、最後まで絞めないネジのような思考回路で、崇剛は優雅な笑みで真意を隠した。
「教えてくれるのか?」
涼介は聞き返しながら、主人のワイングラスが満たされたのを心配した。まだ飲むのかと思って。
「えぇ、構いませんが、その代わり、私もあなたに聞きたいことがあります。そちらを教えていただけませんか?」
交換条件へと導いた。執事にしてみれば、自分が自然と聞いたから物事が起きているように思えるのだった。
涼介はソファーにどさっと腰掛けて、バルブレアを一杯引っかける。
「あぁ、わかった」
心優しい執事なら、教えてもらう代わりに、自分も答えないといけないと思う可能性が非常に高い。が、策略家の計算だった。
崇剛はワインのグラスの足を持って、弄ぶようにゆらゆらと不規則な縁を描き始めた。
「それでは、お教えしますよ」
「あぁ」
さっきから気づくのを待っていたが一向に、感覚的な執事はスルーしまくっているのを前にして、崇剛はくすりと笑った。
「涼介はひとつ情報を見逃しているみたいですよ」
「見逃す?」
涼介は聞き返しながら、主人の言動にまた違和感を抱いた。
(お前、やっぱりおかしい。真っ直ぐすぎる気がする、何でだ?)
執事は思う。いつもの主人なら、右に左に餌をばらまいて、相手をヘトヘトになるまで引っ張り回し、最後に綺麗にトドメを刺すのに、今日はやけに親切なのだ。
ただ言葉を繰り返してきた涼介の前で、崇剛は優雅に微笑んで短く先を促す。
「えぇ」
しかし、こっちもこっちで、別の思惑が同時進行していた。
おかしいふりをしているのですから、あなたがそのように思って当然です。
罠は何重にも仕掛けてあります。
ですが、全て最後には辻褄が合うように計算してあります。
従って、罠が終了しても、涼介が気づかないという可能性99.99%――
主人の返事はいつも回りくどい。さっきからある違和感を正直に聞いても答えてくれないだろう。ましてや、それが罠ならばなおさらだ。
「何をだ?」
同時進行でいくつもデジタルにこなせない涼介は、表面上のダーツの話にとにかく集中した。
崇剛はサングリアを飲み、ダーツボードを冷静な瞳に映しながら、
「私は目を閉じた状態で矢を投げましたよ」
「……?」
「こちらのヒントでも気づきませんか? 先ほどわかりやすいように、あなたのいるほうへ顔をわざと向けて、そのようにしましたよ」
ランプのような形をしたグラスを手につかんで、涼介は口元へ持ってゆく途中で、やっとカラクリに気づいた。
「目を閉じてるのに、見えてる……!!」
崇剛がどうやって、正確にダーツの矢で的を射た――必ず勝てる方法を使ったのか。
「千里眼!? メシアを使って見てたのか!?」
純粋なベビーブルーの瞳を神経質な頬で受け止めて、崇剛はわざともたつかせてワインを一口飲んだ。
「えぇ、ですから、ダーツの矢の軌跡が見えるのです」
見せつけるようにサングリアを飲んでいる主人の心のうちは、
(見えてしまうものは仕方がありません。普段のゲームでは使っていませんよ。面白くありませんからね)
「教えて欲しいのですか?」
崇剛から罠の一番最初の言葉が、涼介にかけられた。ソファーへと戻ってゆく主人の神経質な横顔を、純粋なベビーブルーの瞳で追いながら、涼介は違和感を覚える。
(教える……? お前が? 素直すぎないか、今日は。もっと回りくどいことしてくるぞ、いつもなら)
どこへ事実が転がっても、打つ手は全て計算し尽くされていて、質問をした崇剛は、涼介の視線などどこ吹く風で、ただ返事を待った。
「…………」
デジタルなまでに冷静な頭脳では、
待ったほうが涼介が聞き返してくるという可能性が77.82%――
私が罠を張っていると、涼介が気づくという可能性が12.58%――
別のことが起きるという可能性が9.60%――
どちらをしてくるのでしょう?
遊びの部分を残したまま、最後まで絞めないネジのような思考回路で、崇剛は優雅な笑みで真意を隠した。
「教えてくれるのか?」
涼介は聞き返しながら、主人のワイングラスが満たされたのを心配した。まだ飲むのかと思って。
「えぇ、構いませんが、その代わり、私もあなたに聞きたいことがあります。そちらを教えていただけませんか?」
交換条件へと導いた。執事にしてみれば、自分が自然と聞いたから物事が起きているように思えるのだった。
涼介はソファーにどさっと腰掛けて、バルブレアを一杯引っかける。
「あぁ、わかった」
心優しい執事なら、教えてもらう代わりに、自分も答えないといけないと思う可能性が非常に高い。が、策略家の計算だった。
崇剛はワインのグラスの足を持って、弄ぶようにゆらゆらと不規則な縁を描き始めた。
「それでは、お教えしますよ」
「あぁ」
さっきから気づくのを待っていたが一向に、感覚的な執事はスルーしまくっているのを前にして、崇剛はくすりと笑った。
「涼介はひとつ情報を見逃しているみたいですよ」
「見逃す?」
涼介は聞き返しながら、主人の言動にまた違和感を抱いた。
(お前、やっぱりおかしい。真っ直ぐすぎる気がする、何でだ?)
執事は思う。いつもの主人なら、右に左に餌をばらまいて、相手をヘトヘトになるまで引っ張り回し、最後に綺麗にトドメを刺すのに、今日はやけに親切なのだ。
ただ言葉を繰り返してきた涼介の前で、崇剛は優雅に微笑んで短く先を促す。
「えぇ」
しかし、こっちもこっちで、別の思惑が同時進行していた。
おかしいふりをしているのですから、あなたがそのように思って当然です。
罠は何重にも仕掛けてあります。
ですが、全て最後には辻褄が合うように計算してあります。
従って、罠が終了しても、涼介が気づかないという可能性99.99%――
主人の返事はいつも回りくどい。さっきからある違和感を正直に聞いても答えてくれないだろう。ましてや、それが罠ならばなおさらだ。
「何をだ?」
同時進行でいくつもデジタルにこなせない涼介は、表面上のダーツの話にとにかく集中した。
崇剛はサングリアを飲み、ダーツボードを冷静な瞳に映しながら、
「私は目を閉じた状態で矢を投げましたよ」
「……?」
「こちらのヒントでも気づきませんか? 先ほどわかりやすいように、あなたのいるほうへ顔をわざと向けて、そのようにしましたよ」
ランプのような形をしたグラスを手につかんで、涼介は口元へ持ってゆく途中で、やっとカラクリに気づいた。
「目を閉じてるのに、見えてる……!!」
崇剛がどうやって、正確にダーツの矢で的を射た――必ず勝てる方法を使ったのか。
「千里眼!? メシアを使って見てたのか!?」
純粋なベビーブルーの瞳を神経質な頬で受け止めて、崇剛はわざともたつかせてワインを一口飲んだ。
「えぇ、ですから、ダーツの矢の軌跡が見えるのです」
見せつけるようにサングリアを飲んでいる主人の心のうちは、
(見えてしまうものは仕方がありません。普段のゲームでは使っていませんよ。面白くありませんからね)
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