510 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
ダーツの軌跡/4
しおりを挟む
崇剛がこのあとどこかはずさない限り、涼介の負けは決定してしまう。素直に感情を表に出している執事の姿を、主人はあごに手を当てたまま冷静に見つめていた。
(涼介のやり方では、今の私には勝てませんよ)
ワイングラスの中にあるルビー色の海を、水色の瞳でクルージングしている主人は優雅ではなく、今は余裕の笑みを見せていた。
涼介は残りのツースローは確実に仕留め、何とか崇剛に食らいついた。ふたりはスローライン上で交代。
崇剛は人差し指と中指で矢を挟み、今度はダーツボートとは真正面にならず、体の右側を正面へ向けて半身でスローラインへ立った。
矢を頭の上へ持ち上げて、手の甲は相変わらず的に向け、
(こちらですね)
ドアを軽くノックするように少しだけ押し出し、最も簡単に矢を放ち、三ラウンドも全て命中。
そうやって、ゲームは進み、崇剛は完全勝利で、涼介は一ラウンドを落としてしまった。
「私の勝ちですね」
主人は思う。勝てる可能性は限りなく百パーセントに近かったと。つまりは、99.99%――。
策略家と純粋な青年は同じソファーへ一旦戻った。崇剛は足を優雅に組み、ルビー色に染まるワイングラスの細い足を神経質な指先でつまみ、柑橘系の香りで勝利を祝福する。
ワインを飲んでいる主人の隣で、執事はチーズスティックパイをカクテルグラスから一本抜き取り、歯でサクサクと噛み砕く。
(バーストはまぬれたが……。おかしい……どうして、崇剛が全部当たるんだ?)
ダーツといえば、自分の十八番だったのにいつもと違うと、涼介は思う。ソファーの背もたれの上に両腕を広げて乗せ、執事はさらに考える。
(練習した……? 見たことないぞ。なのに、当たるようになってる……)
崇剛にわからないように涼介は正面に顔を向けたまま、視線を主人の腰元へと落とし、聖なるダガーの柄を捉えた。
(それと同じ持ち方だから、当たる……?)
フォームを変えただけで、すぐに腕が上がるとは思えなかった。涼介の頭の中が疑問だらけになる。
幽霊の探偵と言ってもいい、聖霊師をしている崇剛。性格は几帳面で、当然、執事の心のうちなど予測できていた。
涼介は何かを考えているように見える。
そちらはなぜ、私が的をはずさないかであるという可能性が98.87%――
こちらから判断して、涼介の次の言葉は以下のふたつ。
なぜ、私がはずさないのかの質問をしてくるしてくるという可能性65.34%――
次のゲームをやらないかと誘ってくるという可能性が34.63%――
前者の時は……。
崇剛の冷静な頭脳の中に天文学的数字の膨大なデータが流れ始めた。
(罠へと誘いましょうか。後者の時は、先ほどと同じ方法で勝負を受けましょう)
罠に引っかかるかと思いきや、涼介はパイ生地で汚れた手をナプキンで乱暴に拭いた。
「今度はカウントアップだ」
別のルールでゲームに誘った、執事の勝算はこうだった。
ダブルブル狙い。
五十かける二十四の、千二百点で勝てる――。
バルブレアをグイッと煽って、涼介はソファーからさっと立ち上がった。ブルーグレーの瞳にはダーツボードの中心が映っていた。
刺さった部分の数字を足していき、得点が高いほうが勝利という、至ってシンプルなルールだ。
ポーカフェイスのまま、崇剛はグラスに残っていたサングリアを全て口に含み、優雅に組んでいた足を解き、エレガントに立ち上がった。
「えぇ、構いませんよ」
返事を返した、主人の勝算はこうだった。
二十トリプル、八ラウンド。
二十かける三かける二十四の、千四百四十点です。
この時点で、涼介はすでに崇剛に負けていた。数字に強い主人は一番得点が稼げるところを見抜いていた。
(涼介のやり方では、今の私には勝てませんよ)
ワイングラスの中にあるルビー色の海を、水色の瞳でクルージングしている主人は優雅ではなく、今は余裕の笑みを見せていた。
涼介は残りのツースローは確実に仕留め、何とか崇剛に食らいついた。ふたりはスローライン上で交代。
崇剛は人差し指と中指で矢を挟み、今度はダーツボートとは真正面にならず、体の右側を正面へ向けて半身でスローラインへ立った。
矢を頭の上へ持ち上げて、手の甲は相変わらず的に向け、
(こちらですね)
ドアを軽くノックするように少しだけ押し出し、最も簡単に矢を放ち、三ラウンドも全て命中。
そうやって、ゲームは進み、崇剛は完全勝利で、涼介は一ラウンドを落としてしまった。
「私の勝ちですね」
主人は思う。勝てる可能性は限りなく百パーセントに近かったと。つまりは、99.99%――。
策略家と純粋な青年は同じソファーへ一旦戻った。崇剛は足を優雅に組み、ルビー色に染まるワイングラスの細い足を神経質な指先でつまみ、柑橘系の香りで勝利を祝福する。
ワインを飲んでいる主人の隣で、執事はチーズスティックパイをカクテルグラスから一本抜き取り、歯でサクサクと噛み砕く。
(バーストはまぬれたが……。おかしい……どうして、崇剛が全部当たるんだ?)
ダーツといえば、自分の十八番だったのにいつもと違うと、涼介は思う。ソファーの背もたれの上に両腕を広げて乗せ、執事はさらに考える。
(練習した……? 見たことないぞ。なのに、当たるようになってる……)
崇剛にわからないように涼介は正面に顔を向けたまま、視線を主人の腰元へと落とし、聖なるダガーの柄を捉えた。
(それと同じ持ち方だから、当たる……?)
フォームを変えただけで、すぐに腕が上がるとは思えなかった。涼介の頭の中が疑問だらけになる。
幽霊の探偵と言ってもいい、聖霊師をしている崇剛。性格は几帳面で、当然、執事の心のうちなど予測できていた。
涼介は何かを考えているように見える。
そちらはなぜ、私が的をはずさないかであるという可能性が98.87%――
こちらから判断して、涼介の次の言葉は以下のふたつ。
なぜ、私がはずさないのかの質問をしてくるしてくるという可能性65.34%――
次のゲームをやらないかと誘ってくるという可能性が34.63%――
前者の時は……。
崇剛の冷静な頭脳の中に天文学的数字の膨大なデータが流れ始めた。
(罠へと誘いましょうか。後者の時は、先ほどと同じ方法で勝負を受けましょう)
罠に引っかかるかと思いきや、涼介はパイ生地で汚れた手をナプキンで乱暴に拭いた。
「今度はカウントアップだ」
別のルールでゲームに誘った、執事の勝算はこうだった。
ダブルブル狙い。
五十かける二十四の、千二百点で勝てる――。
バルブレアをグイッと煽って、涼介はソファーからさっと立ち上がった。ブルーグレーの瞳にはダーツボードの中心が映っていた。
刺さった部分の数字を足していき、得点が高いほうが勝利という、至ってシンプルなルールだ。
ポーカフェイスのまま、崇剛はグラスに残っていたサングリアを全て口に含み、優雅に組んでいた足を解き、エレガントに立ち上がった。
「えぇ、構いませんよ」
返事を返した、主人の勝算はこうだった。
二十トリプル、八ラウンド。
二十かける三かける二十四の、千四百四十点です。
この時点で、涼介はすでに崇剛に負けていた。数字に強い主人は一番得点が稼げるところを見抜いていた。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる