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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

夕闇を翔る死装束/1

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 精神浄化カルタシスの森深くから漂ってくるような、ハイビスカスの美麗な甘い香り。ロッキングチェアに身を委ねる瑠璃色の貴族服が立てるのは羽音のような振動。

 春情の精霊が描く、幾重の柔らかな螺旋スパイラルに包み隠され、主人が自室で非現実シュールな逢瀬を重ねている頃――

 庭先の家庭菜園では、季節を鮮やかに染め上げる、野菜たちが慈光じこうを惜しげなく与えられていた。

 しなやかで艶のある鮮緑のベルベットで、大切に包まれたようなキャベツと乳白色の顔を見せるカリフラワー。

 ぬくぬくした土のベッドから起こされ、春陽しゅんようの斜傾の中で夢うつつな、マゼンダ色をした曲線美のラディッシュたち。

 エネルギーと栄光をもたらす太陽をつかもうと、手を空へ元気一杯伸ばすようなアスパラガスの竹林。

 それらに囲まれながら動いている人影がふたつあった。

 ひとつはガタイがいい男――涼介のもの。小さなシャベルで腐葉土を慎重に掘り起こしながら、さっきの策略的な主人のBL罠発動に、執事は文句ダラダラだった。

「普通に、どうしてブランデーを使ったのかって聞いてくればいいだろう」

 何をどう計算しているのかさっぱりわからないが、菜園から屋敷を見上げると、大抵あの猛吹雪を感じさせるような冷たい視線が、自分をうかがっている。

 じっとしていつもうかがっているのかといえば、そうではない。主人の落ち着きのなさは自分といい勝負だ。さっきだって、いつの間にか教会へと行ってしまっていたのだから。

 そう思うと、涼介は手元を見ているしかないのだった。

「前置きいらないだろう。この間だって……」

 すぐ近くで、イチゴを摘んでいた小さな人が不思議そうに振り返った。

「パパ、せんせいにイタズラされたの?」
「悪戯された……」

 土色の地面から、はつらつとしたベビーブルーの瞳が素早く上げられると、涼介と同じひまわり色の柔らかなウェーブ髪を愛らしく持つ男の子が立っていた。

 それは肩につくかつかないかの長さ。同じベビーブルーの純真無垢という宇宙が広がる瞳が、パチパチとまぶたをしばたかせていた。

 乙葉 瞬、五歳。涼介と亡き妻との間にもうけた愛の結晶。性格はしっかりしていて、明るく元気。

 父親に似て正直で素直。霊を見ることができ、純粋であるがゆえに、輪廻転生という魂の人生たちから紡がれる悲哀に心を痛めることがよくある。天使であるラジュは見ることはできない。

 息子からのイタズラ・・・・という絶妙なチョイスの言葉に、父――涼介の背筋はぞぞっと凍りついた。

「別の意味に聞こえる……」

 春の柔らかな白日の中で堂々と、大人の脳裏に懊悩おんのうという妄想が再生されてしまった。
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