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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
優雅な主人は罠がお好き/10
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回春の香りがショパンを奏でるような、寝室とはまた違った趣の自室。
東に面した開き窓の前には、落ち着いた木々の緑を思わせるような深碧色の大きなソファーを引き立たせるように、床にのんびりと横たわる艶のある暗い赤銅色の絨毯。
アンティークという匂いが漂い出ている大きな楕円形のローテーブル。その上にガラスの食器が召使の手で手際よくセットされてゆく。
もうひとつの窓辺には、赤みがかった茶色の曲線がモーションをかけるような足を持つ書斎机。羽ペンが風になびくたび、風見鶏のようにクルクルと回る。
神世を思わせるような青を基調とした、抽象的な絵画が壁一面を覆うようにかけられていた。
茶色に近い黄色のゴシックなカーテンの間から、白波のように寄せては引いてを繰り返すレースのカーテン。
瑠璃色の上着を椅子の背もたれにかけ、召使がハーブティーを用意している間、崇剛は両開きの窓枠に両手をつき、庭の一角にある家庭菜園を眺めていた。
時折吹く春風で会話は途切れてしまうが、涼介のそばに伊勢崎が寄り、あれこれ話しては笑顔をお互い見せているのがよく見えた。
街を一望できる遠くへ視線をやり、頬にかかってしまった後れ毛を神経質な指先で耳にかける。心が波立つ。
大きな湾の向こうで海面がキラキラと乱反射を見せ、どっしりとした山肌が霞む背景に、小さな家々が並ぶ街並みを眺めながら、策略家はいつもと違うことをあぐねいていた。
「――崇剛様、準備が整いました」
女の声で我に返った、館の主人は少しだけ振り返る。
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
丁寧に頭を下げ、メイド服は部屋から出て行った。
ルビー色のガラスでできたティーカップが、テーブルの上で貴婦人のように、背筋をピンと伸ばして横座りしているようだった。
優雅な貴公子と彼女が戯れようとした時、庭から伊勢崎の声が漂ってきた。
「――それでは、失礼いたします」
冷静な水色の瞳に陽光のシャワーが再び降り注ぐと、長話を終えたシックな女物の洋服が門へ向かって歩いてゆく後ろ姿があった。
それを見送って、家庭菜園に残ったふたつの影を観察する。一人はさっきの涼介。もうひとつはとても小さく子供のもの。
不意に吹き込んできた風で乱れた紺の髪を、神経質な手で耳にかけた。窓に背を向けて、聖なるダガーの鞘が巻きついている腰で寄りかかり、静かに目を閉じる。
真っ暗になった視界で、優雅な聖霊師は物憂げに言葉を紡いだ。
「涼介も、いつかは誰かを再び愛し、こちらの館から出ていくのかもしれませんね。私は一人のまま……」
違和感を抱いて、崇剛はくすりと笑う。すうっと開けたまぶたの向こうに、空色をした聖書から慈愛の光があふれ出ていた。
「……では、ありませんね。神――主がいらっしゃるのですから」
艶かしいほどの曲線美を持つロッキングチェアへ座る。全身を心地よく揺られながら、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンと、恋人の細く神経質な手をティーカップへ優雅に伸ばした。
東に面した開き窓の前には、落ち着いた木々の緑を思わせるような深碧色の大きなソファーを引き立たせるように、床にのんびりと横たわる艶のある暗い赤銅色の絨毯。
アンティークという匂いが漂い出ている大きな楕円形のローテーブル。その上にガラスの食器が召使の手で手際よくセットされてゆく。
もうひとつの窓辺には、赤みがかった茶色の曲線がモーションをかけるような足を持つ書斎机。羽ペンが風になびくたび、風見鶏のようにクルクルと回る。
神世を思わせるような青を基調とした、抽象的な絵画が壁一面を覆うようにかけられていた。
茶色に近い黄色のゴシックなカーテンの間から、白波のように寄せては引いてを繰り返すレースのカーテン。
瑠璃色の上着を椅子の背もたれにかけ、召使がハーブティーを用意している間、崇剛は両開きの窓枠に両手をつき、庭の一角にある家庭菜園を眺めていた。
時折吹く春風で会話は途切れてしまうが、涼介のそばに伊勢崎が寄り、あれこれ話しては笑顔をお互い見せているのがよく見えた。
街を一望できる遠くへ視線をやり、頬にかかってしまった後れ毛を神経質な指先で耳にかける。心が波立つ。
大きな湾の向こうで海面がキラキラと乱反射を見せ、どっしりとした山肌が霞む背景に、小さな家々が並ぶ街並みを眺めながら、策略家はいつもと違うことをあぐねいていた。
「――崇剛様、準備が整いました」
女の声で我に返った、館の主人は少しだけ振り返る。
「ありがとうございます」
「失礼いたします」
丁寧に頭を下げ、メイド服は部屋から出て行った。
ルビー色のガラスでできたティーカップが、テーブルの上で貴婦人のように、背筋をピンと伸ばして横座りしているようだった。
優雅な貴公子と彼女が戯れようとした時、庭から伊勢崎の声が漂ってきた。
「――それでは、失礼いたします」
冷静な水色の瞳に陽光のシャワーが再び降り注ぐと、長話を終えたシックな女物の洋服が門へ向かって歩いてゆく後ろ姿があった。
それを見送って、家庭菜園に残ったふたつの影を観察する。一人はさっきの涼介。もうひとつはとても小さく子供のもの。
不意に吹き込んできた風で乱れた紺の髪を、神経質な手で耳にかけた。窓に背を向けて、聖なるダガーの鞘が巻きついている腰で寄りかかり、静かに目を閉じる。
真っ暗になった視界で、優雅な聖霊師は物憂げに言葉を紡いだ。
「涼介も、いつかは誰かを再び愛し、こちらの館から出ていくのかもしれませんね。私は一人のまま……」
違和感を抱いて、崇剛はくすりと笑う。すうっと開けたまぶたの向こうに、空色をした聖書から慈愛の光があふれ出ていた。
「……では、ありませんね。神――主がいらっしゃるのですから」
艶かしいほどの曲線美を持つロッキングチェアへ座る。全身を心地よく揺られながら、ロイヤルブルーサファイアのカフスボタンと、恋人の細く神経質な手をティーカップへ優雅に伸ばした。
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