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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
優雅な主人は罠がお好き/7
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館の一階にある診療室。白いレースのカーテンが、穏やかな陽光の夢想曲を踊るようにそよ風に揺れる。
優雅でありながら人を惑わすような男の声と、晴れやかな女の声が、きちんと距離を取りながら交わされていた。
「……となったんです」
「そうですか」
庭の樫の木に巻きつくように咲くクレマチスの、青やピンクの花びらたちが、四角く切り取られた窓の外からのぞいている。
「……もあったんです」
本の並びの手前で、紺の長い髪を後ろでわざともたつかせて、リボンで束ねている崇剛が優雅に微笑んでいた。
「えぇ」
スマートに椅子の上で足を組み、そこへ置かれた両手首にあるカフスボタンは、高貴な地位の象徴と言われる、ロイヤルブルーサファイアが気品高く輝いていた。
神に選ばれし者を表すような、神秘へと導く魅了的な紫がかった青。
崇剛の水色の瞳には四十代半ばのシックな服装を着た女が映っていた。春らしさを感じさせるピンクの透けるようなスカーフを首に巻き、清々しい表情だった。
「先生、本当にありがとうございました」
頭を丁寧に下げられた崇剛の背後にある机の上には、様々な本がブックエンドの間てひしめき合っていた。
白魔術、召喚魔法、呪術、魔道具、アロマ、などなど……。世界各地から取り寄せたもので、言語は全てバラバラ。
それでも、人の会話を鮮明に思い出せるほどの記憶力の持ち主には、辞書も丸覚えで、一度見れば本は仕事の効果的な背景――小道具として使われる。
人に対する態度もきちんとしていて、今はヒーラーとして、崇剛はにこやかに微笑んでいた。
「いいえ、ご自身のお力です」
机の上にあらかじめ用意したあった透明な袋を手に取った。その中には、茶緑を下地として、ところどころにマゼンダやカナリア色の花びらが入っていた。
「こちらは伊勢崎さんに合わせて、調合したハーブティーです」
「あら、まあ! ありがとうございます」
崇剛からの突然のプレゼントを、女は嬉しそうに受け取った。
それが診療終了と言うように、崇剛は組んでいたロングブーツの足を戻し、椅子から優雅に立ち上がった。
伊勢崎もつられるように椅子から離れ、ドアへ向かって歩き出す。
人の心を癒す仕事――。
患者に恋愛感情を持たれるという事故が、ヒーラーのまわりでは多発する。雰囲気は貴族的で中性的ながら、少しだけ男性寄りの崇剛。
人混みを歩けば、老若男女が振り返るほど絶美な男。時には同性にまで好意を持たれることもある。
もちろん、女性の患者は例外なく彼に魅了される。伊勢崎ももれることなく、ドアへと一緒に歩き出した崇剛の物腰を瞳の端で捉えて、頬を赤らめた。
崇剛はドアの横に立ち、神経質で綺麗な手で扉を開けて横へよけ、患者を先に通した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
舞い上がっている四十代半ばの女からすると、ヒーラーの言動はレディーファーストに見えるのだ。
伊勢崎が頭を下げると、瑠璃色の貴族服の内ポケットに忍ばせている魔除のローズマリーの香りが、女にまとわりつくように広がった。
ヒーラーは患者を見送るために廊下へ出て、後ろ手でドアを閉めながら、この場所で患者によく言われる言葉に備えた。
予想を裏切らず、伊勢崎は問いかける。
「先生、結婚されていらっしゃるんですか?」
「いいえ、していませんよ」
結婚歴のない綺麗な男が目の前にいる――。伊勢崎は戸惑い気味に質問を重ねる。
「あのぅ……どなたか、いい方はいらっしゃるんですか?」
「いいえ、いませんよ」
優雅でありながら人を惑わすような男の声と、晴れやかな女の声が、きちんと距離を取りながら交わされていた。
「……となったんです」
「そうですか」
庭の樫の木に巻きつくように咲くクレマチスの、青やピンクの花びらたちが、四角く切り取られた窓の外からのぞいている。
「……もあったんです」
本の並びの手前で、紺の長い髪を後ろでわざともたつかせて、リボンで束ねている崇剛が優雅に微笑んでいた。
「えぇ」
スマートに椅子の上で足を組み、そこへ置かれた両手首にあるカフスボタンは、高貴な地位の象徴と言われる、ロイヤルブルーサファイアが気品高く輝いていた。
神に選ばれし者を表すような、神秘へと導く魅了的な紫がかった青。
崇剛の水色の瞳には四十代半ばのシックな服装を着た女が映っていた。春らしさを感じさせるピンクの透けるようなスカーフを首に巻き、清々しい表情だった。
「先生、本当にありがとうございました」
頭を丁寧に下げられた崇剛の背後にある机の上には、様々な本がブックエンドの間てひしめき合っていた。
白魔術、召喚魔法、呪術、魔道具、アロマ、などなど……。世界各地から取り寄せたもので、言語は全てバラバラ。
それでも、人の会話を鮮明に思い出せるほどの記憶力の持ち主には、辞書も丸覚えで、一度見れば本は仕事の効果的な背景――小道具として使われる。
人に対する態度もきちんとしていて、今はヒーラーとして、崇剛はにこやかに微笑んでいた。
「いいえ、ご自身のお力です」
机の上にあらかじめ用意したあった透明な袋を手に取った。その中には、茶緑を下地として、ところどころにマゼンダやカナリア色の花びらが入っていた。
「こちらは伊勢崎さんに合わせて、調合したハーブティーです」
「あら、まあ! ありがとうございます」
崇剛からの突然のプレゼントを、女は嬉しそうに受け取った。
それが診療終了と言うように、崇剛は組んでいたロングブーツの足を戻し、椅子から優雅に立ち上がった。
伊勢崎もつられるように椅子から離れ、ドアへ向かって歩き出す。
人の心を癒す仕事――。
患者に恋愛感情を持たれるという事故が、ヒーラーのまわりでは多発する。雰囲気は貴族的で中性的ながら、少しだけ男性寄りの崇剛。
人混みを歩けば、老若男女が振り返るほど絶美な男。時には同性にまで好意を持たれることもある。
もちろん、女性の患者は例外なく彼に魅了される。伊勢崎ももれることなく、ドアへと一緒に歩き出した崇剛の物腰を瞳の端で捉えて、頬を赤らめた。
崇剛はドアの横に立ち、神経質で綺麗な手で扉を開けて横へよけ、患者を先に通した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
舞い上がっている四十代半ばの女からすると、ヒーラーの言動はレディーファーストに見えるのだ。
伊勢崎が頭を下げると、瑠璃色の貴族服の内ポケットに忍ばせている魔除のローズマリーの香りが、女にまとわりつくように広がった。
ヒーラーは患者を見送るために廊下へ出て、後ろ手でドアを閉めながら、この場所で患者によく言われる言葉に備えた。
予想を裏切らず、伊勢崎は問いかける。
「先生、結婚されていらっしゃるんですか?」
「いいえ、していませんよ」
結婚歴のない綺麗な男が目の前にいる――。伊勢崎は戸惑い気味に質問を重ねる。
「あのぅ……どなたか、いい方はいらっしゃるんですか?」
「いいえ、いませんよ」
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