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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
優雅な主人は罠がお好き/5
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万事休す。涼介は思い出した。五歳の息子は十三時から十五時までは昼寝をするのが日課。男ふたりでこの格好で大人の話……。想像するだけで、執事の胸はバクバクと早鐘を打ち出した。
触れている手首から伝わる脈拍が早くなっているのを知ると、主人は心の中で至福の時を迎えた。
(あなたが困るところを見たいのです。そちらが私の趣味ですからね)
悪戯が過ぎる主人はそのままかがみ込んで、涼介が言葉に突っかかりやすい体勢――キスができそうな距離へわざと迫った。
執事は頭の中が真っ白になりそうになる。
(っていうか、どうしてお前が俺を押し倒してるみたいになってるんだ!)
そこで、涼介はやっと気づいた、今までの会話が罠だったと。策略家神父によって、BL要素満載で、懺悔タイムがさりげなくやってきてしまっていた。
そうとわかれば、怖いものなどない。押し倒されているみたいな涼介は劣勢ながらも、主人を見上げてため息をついた。
「お前さっき嘘ついただろう? だから俺に罠を仕掛けるな。策略してくるって、どんな神父だ!」
時刻を秒単位まで記憶できる頭脳を持つ、主人は流暢に説明を始めた。
「嘘ではありませんよ。みたいとかもしれないと言いましたからね。これらの言葉は確定ではなく、不確定要素を含むものです。ですから、嘘ではありません。それとも違うというのですか? それならば、涼介そちらの意味を体を交わらせて、私に教えていただけませんか?」
言葉を自由自在に操り、自分の逃げ道を作る。それなのに、相手を着実にチェックメイトへ陥れ、平然と罠を張ってくる策略家神父を前にして、正直な涼介はあきれた顔をした。
「お前また、理論武装とBLの両方を使ってきて……。今日は何の懺悔だ?」
「なぜ、ブランデーを使ったのですか――?」
策略的な主人が執事の不手際を、相手を困らせながら叱るの図として見事に完成していた。さっきまでとは違って、崇剛は涼介の瞳を真摯に見下ろす。
「二年前の七月十一日、金曜日にあなたには説明しましたよ。神父である私は過剰な飲酒はできないと。四十度以上もあるアルコールは口にしません」
「大人の話って、何かと思ったら酒の話だったのか?」
「他にどのような話があるのですか?」
「そうだな……?」
よからぬ妄想を考えていた執事は言葉につまり、主人はくすりと笑った。
「そちらはもうよいですから、なぜブランデーを使ったのですか?」
次々に落ちてくる主人の長い髪を、涼介は顔を左右に傾けて払いながら、
「……プリンの香りづけに使ってたんだ」
ふわふわと暖かな春風が入り込む窓を背にして、崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められた。
おかしい――
いくら正直で感覚的な執事でも、一度注意したことをたったひとつの理由で破ってくるのは可能性として低いと踏んだ。そうなると、
「理由はそちらだけですか?」
会話を交わしながらも、数字で計算ができてしまうほど、崇剛の頭脳はデジタルだった。対する涼介は正直で、策略的な主人が欲しがっていた情報をすぐに渡してしまった。
「輸送の馬車が事故に遭ったらしくて、夕方までないんだ。前にもあったよな? いつだったか忘れたけど……」
そう言う執事の上で、主人はどこまでも正確だった。うなずきだけを返しつつ、
「そうですか」
一回目。先月、三月二十五日、金曜日、十五時三分五十六秒。
二回目。先週、四月十五日、金曜日、十五時四分十七秒。
これらの日時で、涼介は先ほどと同じことを、私に言いましたよ――。
人は偶然だと思って、気にせず過ぎていってしまうが、幽霊や天使を見ることができる千里眼の持ち主――崇剛は懸念を覚えた。
――何かが起きているという可能性が出てくる。
同時に優雅な策略家は反対の可能性もあると思う。あごに手を当て物思いにふける。必然だとしたら、そこにどんな事実があるのかと、土砂降りの雨のように、今までの記憶を脳裏に降らせる。
触れている手首から伝わる脈拍が早くなっているのを知ると、主人は心の中で至福の時を迎えた。
(あなたが困るところを見たいのです。そちらが私の趣味ですからね)
悪戯が過ぎる主人はそのままかがみ込んで、涼介が言葉に突っかかりやすい体勢――キスができそうな距離へわざと迫った。
執事は頭の中が真っ白になりそうになる。
(っていうか、どうしてお前が俺を押し倒してるみたいになってるんだ!)
そこで、涼介はやっと気づいた、今までの会話が罠だったと。策略家神父によって、BL要素満載で、懺悔タイムがさりげなくやってきてしまっていた。
そうとわかれば、怖いものなどない。押し倒されているみたいな涼介は劣勢ながらも、主人を見上げてため息をついた。
「お前さっき嘘ついただろう? だから俺に罠を仕掛けるな。策略してくるって、どんな神父だ!」
時刻を秒単位まで記憶できる頭脳を持つ、主人は流暢に説明を始めた。
「嘘ではありませんよ。みたいとかもしれないと言いましたからね。これらの言葉は確定ではなく、不確定要素を含むものです。ですから、嘘ではありません。それとも違うというのですか? それならば、涼介そちらの意味を体を交わらせて、私に教えていただけませんか?」
言葉を自由自在に操り、自分の逃げ道を作る。それなのに、相手を着実にチェックメイトへ陥れ、平然と罠を張ってくる策略家神父を前にして、正直な涼介はあきれた顔をした。
「お前また、理論武装とBLの両方を使ってきて……。今日は何の懺悔だ?」
「なぜ、ブランデーを使ったのですか――?」
策略的な主人が執事の不手際を、相手を困らせながら叱るの図として見事に完成していた。さっきまでとは違って、崇剛は涼介の瞳を真摯に見下ろす。
「二年前の七月十一日、金曜日にあなたには説明しましたよ。神父である私は過剰な飲酒はできないと。四十度以上もあるアルコールは口にしません」
「大人の話って、何かと思ったら酒の話だったのか?」
「他にどのような話があるのですか?」
「そうだな……?」
よからぬ妄想を考えていた執事は言葉につまり、主人はくすりと笑った。
「そちらはもうよいですから、なぜブランデーを使ったのですか?」
次々に落ちてくる主人の長い髪を、涼介は顔を左右に傾けて払いながら、
「……プリンの香りづけに使ってたんだ」
ふわふわと暖かな春風が入り込む窓を背にして、崇剛の冷静な水色の瞳はついっと細められた。
おかしい――
いくら正直で感覚的な執事でも、一度注意したことをたったひとつの理由で破ってくるのは可能性として低いと踏んだ。そうなると、
「理由はそちらだけですか?」
会話を交わしながらも、数字で計算ができてしまうほど、崇剛の頭脳はデジタルだった。対する涼介は正直で、策略的な主人が欲しがっていた情報をすぐに渡してしまった。
「輸送の馬車が事故に遭ったらしくて、夕方までないんだ。前にもあったよな? いつだったか忘れたけど……」
そう言う執事の上で、主人はどこまでも正確だった。うなずきだけを返しつつ、
「そうですか」
一回目。先月、三月二十五日、金曜日、十五時三分五十六秒。
二回目。先週、四月十五日、金曜日、十五時四分十七秒。
これらの日時で、涼介は先ほどと同じことを、私に言いましたよ――。
人は偶然だと思って、気にせず過ぎていってしまうが、幽霊や天使を見ることができる千里眼の持ち主――崇剛は懸念を覚えた。
――何かが起きているという可能性が出てくる。
同時に優雅な策略家は反対の可能性もあると思う。あごに手を当て物思いにふける。必然だとしたら、そこにどんな事実があるのかと、土砂降りの雨のように、今までの記憶を脳裏に降らせる。
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