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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

優雅な主人は罠がお好き/2

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 春の訪れを告げる渡り鳥が飛び去っていった窓枠の内側では、サイドテーブルに独特のボディーラインをした瓶がサイドテーブルに乗っていた。

 香水か何かと勘違いするようなシルバーの曲線が織りなすエレガントなそれに、形作られる三日月型を琥珀色がでていた。

 味覚と臭覚が現実へと引き戻され、アルコールの気化がのどをえぐるように襲ってきた。

「……ゴホッ!」

 次に聴覚が目覚め、毎日聞いているはつらとしているが、少し鼻にかかる青年の声がすぐそばに近づいた。

「目が覚めたかっ?!」
「ゴホッ!」

 強いアルコールが空気中へ蒸発してゆく過程で起こるのどのじりじり感。苦味と甘みの混じった芳香な液体が、器官というトンネルを急降下し、灼熱を体のあちこちへ放射する。

「ゴホッ! ゴホッ!」

 止められない咳の苦痛の中で、閉じているまぶたの裏で、静音という闇から戻ってきた頭脳を使い、崇剛は今の状況をいち早く解析し始めた――。

 十三時七分五十九秒、私は旧聖堂へ行った。
 祈りを捧げていると、浮遊霊が集まってきた。
 十三時四十三分二十六秒、それらと対峙し始めた。
 ラジュ天使によって、悪霊が浄化され――

「……ゴホッ!」

 そちらのあとの記憶がありません。
 従って――

 真っ暗な視界のまま、触覚が最後に戻り、手に伝わるさらっとした感触を見つけた。

 自分の体を包み込む柔らかなもの。あごや頬で感じながら、咳をし続ける崇剛の中で、脳裏で導き出した可能性と事実がどんどん合致してゆく。

「ゴホッ!」

 気つけ薬として、ブランデーを私に飲ませたという可能性が76.43%。
 彼は別のことでもそちらを使いますからね――

 アルコールがやっとのどから引き、誰がそばにいるのか予測しながら、崇剛のまぶたはピクピクと微動していたかと思うと、冷静な水色の瞳が正体をゆっくりと現した。

 その視線の先には、ひまわり色の少し硬めの短髪。ベビーブルーのはつらつとし、正直という代名詞がよく似合う瞳。

 線の細い崇剛など軽々と運べてしまう、主人よりもガタイいのいい百九十センチ越えの長身を持つ執事が、心配そうな顔でこっちをのぞき込んでいた。

 その顔立ちは主人に負けず劣らず整っていた。男らしくスポーツマンタイプなところが違うが。

 横たわるベッドの上に、紺の長い髪が淫らに枕元にもつれ込んでいた。それに構うことなく、アルコールで熱せられたひどくかすれた声で、崇剛は執事の名を口にした。

「……涼介」

 主人はそう言いながらも、執事を注意したい――叱りたいことが出てきた。弄び感が生活の全てに出ている崇剛はすぐには言わず、ターゲット――執事に悟られないよう、ポーカフェイスで機会をうかがう。

 瞳の焦点が近すぎたり、遠すぎたりしながら見渡し確認してゆく。はっきりと輪郭を持たないまま、窓の位置からカーテンの色。天井の汚れやベッドの上……自室の寝室だと崇剛はすぐに弾き出した。

 部屋の調度品の位置は全て覚えている、感覚が何センチ何ミリなのかまで。右側にサイドテーブルがあり、その上には少しくすんだ金色のバラの装飾を持つ置き時計があった。

 主人のいつもの癖が出るが、執事にわからないように寝返りを打つ振りをして、しっかりと時刻を確認。

(十四時三十七分五十六秒)

 気を失う前に確認した最後の時刻は、十三時四十三分二十六秒。
 経過した時間――五十四分三十秒。
 その後悪霊と戦闘した。
 これらから導き出せること、そちらは……。

 優雅な策略家の異名を持つ主人は、数字という美しい規律がある世界の住人らしく、

 ラジュ天使が涼介に天啓を与え、私を助けにきた可能性が94.24%――

 そうして、さっきの可能性の数値を確実に変化させた。

 涼介が私にブランデーを飲ませたという可能性が先ほどから上がり、96.43%――

 それは、一秒もかからなほどのほんの一瞬の出来事だった。執事は無防備に主人を心配する。

「また倒れてたぞ、あの教会で。もう行くなって」
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