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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Sacred Dagger/6

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 天使という人を守護する立場で、正体不明になっている人間――崇剛の紺色をした髪が頬に絡みついているのを指先で払おうとしたがすり抜けた。

「人とは弱い者ですね。過去の記憶ですか。たった数十年前のことなんですが、そちらに心を囚われるのも……」

 出生不明の崇剛。ここから少し離れた場所にあるベルダージュ荘に、以前住んでいた故ラハイアット夫妻にこの聖堂で拾われた。

 その時、ダガー以外に何もなかった。自身の起源を知りたくて、彼はここへと足を運んでしまうのだ。

「一度成仏して、生まれ変わるという手もありますよ。このまま魂を引き抜いて、神の元へ導きましょうか~? そちらで、崇剛の心の呪縛は拭い去れます~」

 死神みたいなことを平然と言う天使。ラジュはにっこり微笑んで、わざと見当違いな打開策を模索し始めた。

「そうですね……? 国立 彰彦にしましょうか? 私のことも見えませんし、時間もかかりますしね~」

 そうして、この無慈悲で残酷な天使の本音が告げられた。

「やはり失敗してしまいましたか~、と久々に言ってみたいんです~。崇剛の守護をするようになってから、一度も言ってませんからね~?」

 別の街にいて、刑事の仕事をしている、霊感のほとんどない国立をわざわざ呼ぼうとする、負けることが好きなラジュ。

 だが、堕天使と言ってもおかしくない彼のお遊びはここまでだった。

「――お前、真面目にやって」

 マダラ模様みたいな男の声が聞こえると同時に、祭壇を背にして身廊をこっちへ堂々たる態度で歩いてくる、背中で両翼を広げ、頭には光る輪っかを持つ天使がいた。

 ニコニコの笑顔のままだったが、サファイアブルーの瞳は隙なく、ルビーのように異様に輝く赤目を見つめ返した。

「おや? 君ですか。地上で会うとは何を企んでいるんですか?」

 倒れたままの崇剛を見下ろして、山吹色のボブ髪を持つ天使は足音もさせず、ラジュへ向かって足早に歩いてくる。

「お前、いいから仕事しちゃって。こいつのこと消滅させないよ?」
「おや? バレてしまいましたか~」
「ほら、ちゃんとして」

 神からの叱りが落ちてきたように、ラジュはローブの肩をくすめ、守護の仕事をやっとし始めた。

「天啓という形で、乙葉 涼介にきていただきましょうか?」

 手のひらで何かを空へ投げるような仕草をすると、一筋の金の光が打ち上げ花火のように上がる。ある方向を目指して、すうっと尾を横に引いて飛んでいった。

 ラジュよりも背の高い男は、参列席に浅く腰掛けて、手のひらにいきなり出てきたリンゴを、皮ごとシャクっとかじる。

「神様からお前に伝えたいことがあんの」
「おや? 神から呼び出しですか」

 さっきの放置は度が過ぎたのか。それとも別のことなのか。

 神の使いが役目の男は、甘くさわやか香りをふんわり広がらせるが、口調はさっきから変わらずかなり砕けたタメ口だった。

「お前じゃないと困んの」
「うふふふふふふっ……」

 不気味な含み笑いをもらす、腹黒はらぐろ天使とも噂されている同僚が、何をしようとしているのか、赤目の男はすぐさま察知して、螺旋階段を突き落とされたみたいなぐるぐる感のある声で、笑い声を強制終了させた。

「お前、失敗すんの好きだからって、他のやつにバラすのなしね」
「おや、釘を刺されてしまいましたか~?」

 おどけた振りで、ネタバラシをするラジュに、男は戦車か何かで強引に踏みつぶすように話をまとめた。

「いいから、崇剛のこと終わったら神殿にきて」
「えぇ」

 ラジュがうなずくと、男はリンゴをかじったまま、すうっと消え去った。

 ニコニコ笑顔のまま、ラジュはその場に立ち尽くすが心の中は、暗雲が立ち込めていた。

「彼がここへきた……」

 あの男は天使という格好をしているが、素性を誰も知らない。話を聞けば、守護の担当をする人間が長い間いないと言う。

 神出鬼没しんしゅつきぼつ。罠を張って行方ゆくえを探ろうとするが、誰があとをつけて行っても必ず巻かれてしまう。

黄霧四塞こうむしそく……」

 凛とした澄んだ女性的な声が響いた。はかなげな陽光は、時折吹いてくる風で葉でゆらゆらと揺れると、明暗を繰り返す。今はただの落ちぶれた聖堂だった。
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