471 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜
Sacred Dagger/6
しおりを挟む
天使という人を守護する立場で、正体不明になっている人間――崇剛の紺色をした髪が頬に絡みついているのを指先で払おうとしたがすり抜けた。
「人とは弱い者ですね。過去の記憶ですか。たった数十年前のことなんですが、そちらに心を囚われるのも……」
出生不明の崇剛。ここから少し離れた場所にあるベルダージュ荘に、以前住んでいた故ラハイアット夫妻にこの聖堂で拾われた。
その時、ダガー以外に何もなかった。自身の起源を知りたくて、彼はここへと足を運んでしまうのだ。
「一度成仏して、生まれ変わるという手もありますよ。このまま魂を引き抜いて、神の元へ導きましょうか~? そちらで、崇剛の心の呪縛は拭い去れます~」
死神みたいなことを平然と言う天使。ラジュはにっこり微笑んで、わざと見当違いな打開策を模索し始めた。
「そうですね……? 国立 彰彦にしましょうか? 私のことも見えませんし、時間もかかりますしね~」
そうして、この無慈悲で残酷な天使の本音が告げられた。
「やはり失敗してしまいましたか~、と久々に言ってみたいんです~。崇剛の守護をするようになってから、一度も言ってませんからね~?」
別の街にいて、刑事の仕事をしている、霊感のほとんどない国立をわざわざ呼ぼうとする、負けることが好きなラジュ。
だが、堕天使と言ってもおかしくない彼のお遊びはここまでだった。
「――お前、真面目にやって」
マダラ模様みたいな男の声が聞こえると同時に、祭壇を背にして身廊をこっちへ堂々たる態度で歩いてくる、背中で両翼を広げ、頭には光る輪っかを持つ天使がいた。
ニコニコの笑顔のままだったが、サファイアブルーの瞳は隙なく、ルビーのように異様に輝く赤目を見つめ返した。
「おや? 君ですか。地上で会うとは何を企んでいるんですか?」
倒れたままの崇剛を見下ろして、山吹色のボブ髪を持つ天使は足音もさせず、ラジュへ向かって足早に歩いてくる。
「お前、いいから仕事しちゃって。こいつのこと消滅させないよ?」
「おや? バレてしまいましたか~」
「ほら、ちゃんとして」
神からの叱りが落ちてきたように、ラジュはローブの肩をくすめ、守護の仕事をやっとし始めた。
「天啓という形で、乙葉 涼介にきていただきましょうか?」
手のひらで何かを空へ投げるような仕草をすると、一筋の金の光が打ち上げ花火のように上がる。ある方向を目指して、すうっと尾を横に引いて飛んでいった。
ラジュよりも背の高い男は、参列席に浅く腰掛けて、手のひらにいきなり出てきたリンゴを、皮ごとシャクっとかじる。
「神様からお前に伝えたいことがあんの」
「おや? 神から呼び出しですか」
さっきの放置は度が過ぎたのか。それとも別のことなのか。
神の使いが役目の男は、甘くさわやか香りをふんわり広がらせるが、口調はさっきから変わらずかなり砕けたタメ口だった。
「お前じゃないと困んの」
「うふふふふふふっ……」
不気味な含み笑いをもらす、腹黒天使とも噂されている同僚が、何をしようとしているのか、赤目の男はすぐさま察知して、螺旋階段を突き落とされたみたいなぐるぐる感のある声で、笑い声を強制終了させた。
「お前、失敗すんの好きだからって、他のやつにバラすのなしね」
「おや、釘を刺されてしまいましたか~?」
おどけた振りで、ネタバラシをするラジュに、男は戦車か何かで強引に踏みつぶすように話をまとめた。
「いいから、崇剛のこと終わったら神殿にきて」
「えぇ」
ラジュがうなずくと、男はリンゴをかじったまま、すうっと消え去った。
ニコニコ笑顔のまま、ラジュはその場に立ち尽くすが心の中は、暗雲が立ち込めていた。
「彼がここへきた……」
あの男は天使という格好をしているが、素性を誰も知らない。話を聞けば、守護の担当をする人間が長い間いないと言う。
神出鬼没。罠を張って行方を探ろうとするが、誰があとをつけて行っても必ず巻かれてしまう。
「黄霧四塞……」
凛とした澄んだ女性的な声が響いた。はかなげな陽光は、時折吹いてくる風で葉でゆらゆらと揺れると、明暗を繰り返す。今はただの落ちぶれた聖堂だった。
「人とは弱い者ですね。過去の記憶ですか。たった数十年前のことなんですが、そちらに心を囚われるのも……」
出生不明の崇剛。ここから少し離れた場所にあるベルダージュ荘に、以前住んでいた故ラハイアット夫妻にこの聖堂で拾われた。
その時、ダガー以外に何もなかった。自身の起源を知りたくて、彼はここへと足を運んでしまうのだ。
「一度成仏して、生まれ変わるという手もありますよ。このまま魂を引き抜いて、神の元へ導きましょうか~? そちらで、崇剛の心の呪縛は拭い去れます~」
死神みたいなことを平然と言う天使。ラジュはにっこり微笑んで、わざと見当違いな打開策を模索し始めた。
「そうですね……? 国立 彰彦にしましょうか? 私のことも見えませんし、時間もかかりますしね~」
そうして、この無慈悲で残酷な天使の本音が告げられた。
「やはり失敗してしまいましたか~、と久々に言ってみたいんです~。崇剛の守護をするようになってから、一度も言ってませんからね~?」
別の街にいて、刑事の仕事をしている、霊感のほとんどない国立をわざわざ呼ぼうとする、負けることが好きなラジュ。
だが、堕天使と言ってもおかしくない彼のお遊びはここまでだった。
「――お前、真面目にやって」
マダラ模様みたいな男の声が聞こえると同時に、祭壇を背にして身廊をこっちへ堂々たる態度で歩いてくる、背中で両翼を広げ、頭には光る輪っかを持つ天使がいた。
ニコニコの笑顔のままだったが、サファイアブルーの瞳は隙なく、ルビーのように異様に輝く赤目を見つめ返した。
「おや? 君ですか。地上で会うとは何を企んでいるんですか?」
倒れたままの崇剛を見下ろして、山吹色のボブ髪を持つ天使は足音もさせず、ラジュへ向かって足早に歩いてくる。
「お前、いいから仕事しちゃって。こいつのこと消滅させないよ?」
「おや? バレてしまいましたか~」
「ほら、ちゃんとして」
神からの叱りが落ちてきたように、ラジュはローブの肩をくすめ、守護の仕事をやっとし始めた。
「天啓という形で、乙葉 涼介にきていただきましょうか?」
手のひらで何かを空へ投げるような仕草をすると、一筋の金の光が打ち上げ花火のように上がる。ある方向を目指して、すうっと尾を横に引いて飛んでいった。
ラジュよりも背の高い男は、参列席に浅く腰掛けて、手のひらにいきなり出てきたリンゴを、皮ごとシャクっとかじる。
「神様からお前に伝えたいことがあんの」
「おや? 神から呼び出しですか」
さっきの放置は度が過ぎたのか。それとも別のことなのか。
神の使いが役目の男は、甘くさわやか香りをふんわり広がらせるが、口調はさっきから変わらずかなり砕けたタメ口だった。
「お前じゃないと困んの」
「うふふふふふふっ……」
不気味な含み笑いをもらす、腹黒天使とも噂されている同僚が、何をしようとしているのか、赤目の男はすぐさま察知して、螺旋階段を突き落とされたみたいなぐるぐる感のある声で、笑い声を強制終了させた。
「お前、失敗すんの好きだからって、他のやつにバラすのなしね」
「おや、釘を刺されてしまいましたか~?」
おどけた振りで、ネタバラシをするラジュに、男は戦車か何かで強引に踏みつぶすように話をまとめた。
「いいから、崇剛のこと終わったら神殿にきて」
「えぇ」
ラジュがうなずくと、男はリンゴをかじったまま、すうっと消え去った。
ニコニコ笑顔のまま、ラジュはその場に立ち尽くすが心の中は、暗雲が立ち込めていた。
「彼がここへきた……」
あの男は天使という格好をしているが、素性を誰も知らない。話を聞けば、守護の担当をする人間が長い間いないと言う。
神出鬼没。罠を張って行方を探ろうとするが、誰があとをつけて行っても必ず巻かれてしまう。
「黄霧四塞……」
凛とした澄んだ女性的な声が響いた。はかなげな陽光は、時折吹いてくる風で葉でゆらゆらと揺れると、明暗を繰り返す。今はただの落ちぶれた聖堂だった。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?
さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。
私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。
見た目は、まあ正直、好みなんだけど……
「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」
そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。
「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」
はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。
こんなんじゃ絶対にフラれる!
仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの!
実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる