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心霊探偵はエレガントに〜karma〜
魔除の香りはローズマリー/3
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「どのように証明されるのですか?」
うなずくか認めるかをするはずだった教祖に、まさか聞き返されるとは思っていなくて、騎士団員たちは毒気を抜かれた顔をした。
「え……?」
猊下はあきれたようにため息をついて、もう一発言葉のパンチをお見舞いしてやった。
「犯人を見つけられないことを、陛下は目に見えない存在に委ねられる……。ということでしょうか?」
これ以上王家をなじられるのは屈辱だと言わんばかりに、騎士から反論が上がった。
「陛下は聖職者ではない。しかし、猊下は教祖でございませんか? 信じていらっしゃらないとおっしゃるのですか?」
「私は自身の目で確認していないものについては、信じてはおりません。神がいるとも思っていません――」
さっきから余裕で椅子にひとり座っている若い男は、変わり者の教祖だった。ある意味異端者な男に、教団の部下たちが今度は目を大きく開き、素っ頓狂な声を上げた。
「猊下っ!?」
前代未聞。空前絶後。そんな珍事を前にして、執務室に押しかけていた騎士団たちは、お互い顔を見合わせてざわついた。
「ど、どういうことだ?」
「神を信じていない教祖?」
白いローブを着た男は悪戯が成功したみたいなはにかむ笑みをしていた。
猊下はさっきからイラッときていた。土足へ踏み込んでくるみたいな、礼儀にかけた騎士団たちに、だからしてやったのだ。
涼しい顔をしてお怒りだった猊下に近寄って、初老の男が頭が痛いと言うように額を押さえる。
「はぁ~、猊下、他の方の前ではあれほどおっしゃってはいけないと申しましたのに……」
現実主義の猊下は組んでいた手を解いて、大勢で押しかけても相手にもならないというように、止まっていた仕事を再び始めようとした。
「それでは、お引き取り――」
このまま帰っては、王家の名誉が落ちてしまう。完全武装をして、丸腰の教祖へ押しかけたなどと国民に知れ渡ったら、騎士としての誇り失ってしまう。ひとりが何とか食らいついた。
「しかし、ご自身の能力については、そのように言い逃れできないのではございませんか?」
「そうかもしれませんね。目の前で起き、体験しているものですからね」
何かを待つように、ラピスラズリをはめ込んだ金の腕輪を、猊下は手で軽く触れた。
「それでは、そちらで犯行が可能になるのではございませんか?」
「おや、陛下は見えないものを事実に置き換えて、証拠になさるのでしょうか?」
「もちろんそちらの理由だけではございません」
「何か証拠となるものでもございましたか?」
猊下は返事を返しながら、待ちに待った機会がめぐってきたのではと思った。騎士のひとりが白い袋を手に乗せて差し出す。
「ローズマリーを入れた布袋がそばに落ちているのが新たに見つかりました。魔除としてお使いになっていらっしゃる方が大勢いると聞いています」
昨日の晩、部下が報告した話を猊下は思い出す。ローズマリーの魔除をなくした信者がひとりいたと。以前から何か少しでも変わったことがあれば、報告しろとの命令は出していた。
それをどう使うつもりなのか。猊下は相手の言葉を待った――。
「どなたのものかを調べさせて頂いてもよいのですが……」
「どのような方法でお調べになるおつもりですか?」
猊下は素知らぬふりで密かに狙う。相手の望みが何なのかと。
「前国王の暗殺の罪ですから、手段は問わないと、陛下から仰せつかっています」
「そうですか」
つまりは信者全員――いや国民のほとんどを人質に取ったということだ。
すなわち、自分――教祖の身柄と交換して拘束。
従って、陛下の最終目的はこの宗教団体――ミズリー教の廃止――
である可能性が非常に高い。ただうなずいただけの、猊下の頭はここまで、国王の思惑を察知していたのだった。
「長でいらっしゃる猊下からまずは、調べさせていただきます。ご同行願えますか?」
猊下は全て読みきったのに、涼しい顔をして春風のような穏やかな笑みを見せた。
「えぇ、構いませんよ」
そばに控えていた部下たちはびっくりして、黒いローブの裾を大きく揺らした。
「猊下っ!?」
「私が留守の間、よろしくお願いしますよ」
若い男は椅子からさっと立ち上がって机を回り込み、敵地へと連れて行かれるように、騎士たちに取り囲まれた。
重厚感のある靴音が響く背後で、残された部下たちは表情を歪め、力なくうなだれる。
「前国王の暗殺が罪状です。それでは、お戻りになられないではございませんか……」
「骨ぐらいは戻してやる」
最後に部屋の外へ出た騎士が捨てゼリフを吐くと、ドアはパタリと閉まり、鉄のスレる足音が遠ざかっていった――
うなずくか認めるかをするはずだった教祖に、まさか聞き返されるとは思っていなくて、騎士団員たちは毒気を抜かれた顔をした。
「え……?」
猊下はあきれたようにため息をついて、もう一発言葉のパンチをお見舞いしてやった。
「犯人を見つけられないことを、陛下は目に見えない存在に委ねられる……。ということでしょうか?」
これ以上王家をなじられるのは屈辱だと言わんばかりに、騎士から反論が上がった。
「陛下は聖職者ではない。しかし、猊下は教祖でございませんか? 信じていらっしゃらないとおっしゃるのですか?」
「私は自身の目で確認していないものについては、信じてはおりません。神がいるとも思っていません――」
さっきから余裕で椅子にひとり座っている若い男は、変わり者の教祖だった。ある意味異端者な男に、教団の部下たちが今度は目を大きく開き、素っ頓狂な声を上げた。
「猊下っ!?」
前代未聞。空前絶後。そんな珍事を前にして、執務室に押しかけていた騎士団たちは、お互い顔を見合わせてざわついた。
「ど、どういうことだ?」
「神を信じていない教祖?」
白いローブを着た男は悪戯が成功したみたいなはにかむ笑みをしていた。
猊下はさっきからイラッときていた。土足へ踏み込んでくるみたいな、礼儀にかけた騎士団たちに、だからしてやったのだ。
涼しい顔をしてお怒りだった猊下に近寄って、初老の男が頭が痛いと言うように額を押さえる。
「はぁ~、猊下、他の方の前ではあれほどおっしゃってはいけないと申しましたのに……」
現実主義の猊下は組んでいた手を解いて、大勢で押しかけても相手にもならないというように、止まっていた仕事を再び始めようとした。
「それでは、お引き取り――」
このまま帰っては、王家の名誉が落ちてしまう。完全武装をして、丸腰の教祖へ押しかけたなどと国民に知れ渡ったら、騎士としての誇り失ってしまう。ひとりが何とか食らいついた。
「しかし、ご自身の能力については、そのように言い逃れできないのではございませんか?」
「そうかもしれませんね。目の前で起き、体験しているものですからね」
何かを待つように、ラピスラズリをはめ込んだ金の腕輪を、猊下は手で軽く触れた。
「それでは、そちらで犯行が可能になるのではございませんか?」
「おや、陛下は見えないものを事実に置き換えて、証拠になさるのでしょうか?」
「もちろんそちらの理由だけではございません」
「何か証拠となるものでもございましたか?」
猊下は返事を返しながら、待ちに待った機会がめぐってきたのではと思った。騎士のひとりが白い袋を手に乗せて差し出す。
「ローズマリーを入れた布袋がそばに落ちているのが新たに見つかりました。魔除としてお使いになっていらっしゃる方が大勢いると聞いています」
昨日の晩、部下が報告した話を猊下は思い出す。ローズマリーの魔除をなくした信者がひとりいたと。以前から何か少しでも変わったことがあれば、報告しろとの命令は出していた。
それをどう使うつもりなのか。猊下は相手の言葉を待った――。
「どなたのものかを調べさせて頂いてもよいのですが……」
「どのような方法でお調べになるおつもりですか?」
猊下は素知らぬふりで密かに狙う。相手の望みが何なのかと。
「前国王の暗殺の罪ですから、手段は問わないと、陛下から仰せつかっています」
「そうですか」
つまりは信者全員――いや国民のほとんどを人質に取ったということだ。
すなわち、自分――教祖の身柄と交換して拘束。
従って、陛下の最終目的はこの宗教団体――ミズリー教の廃止――
である可能性が非常に高い。ただうなずいただけの、猊下の頭はここまで、国王の思惑を察知していたのだった。
「長でいらっしゃる猊下からまずは、調べさせていただきます。ご同行願えますか?」
猊下は全て読みきったのに、涼しい顔をして春風のような穏やかな笑みを見せた。
「えぇ、構いませんよ」
そばに控えていた部下たちはびっくりして、黒いローブの裾を大きく揺らした。
「猊下っ!?」
「私が留守の間、よろしくお願いしますよ」
若い男は椅子からさっと立ち上がって机を回り込み、敵地へと連れて行かれるように、騎士たちに取り囲まれた。
重厚感のある靴音が響く背後で、残された部下たちは表情を歪め、力なくうなだれる。
「前国王の暗殺が罪状です。それでは、お戻りになられないではございませんか……」
「骨ぐらいは戻してやる」
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