上 下
455 / 967
心霊探偵はエレガントに〜karma〜

魔除の香りはローズマリー/3

しおりを挟む
「どのように証明されるのですか?」

 うなずくか認めるかをするはずだった教祖に、まさか聞き返されるとは思っていなくて、騎士団員たちは毒気を抜かれた顔をした。

「え……?」

 猊下はあきれたようにため息をついて、もう一発言葉のパンチをお見舞いしてやった。

「犯人を見つけられないことを、陛下は目に見えない存在に委ねられる……。ということでしょうか?」

 これ以上王家をなじられるのは屈辱だと言わんばかりに、騎士から反論が上がった。

「陛下は聖職者ではない。しかし、猊下は教祖でございませんか? 信じていらっしゃらないとおっしゃるのですか?」
「私は自身の目で確認していないものについては、信じてはおりません。神がいるとも思っていません――」

 さっきから余裕で椅子にひとり座っている若い男は、変わり者の教祖だった。ある意味異端者な男に、教団の部下たちが今度は目を大きく開き、素っ頓狂な声を上げた。

「猊下っ!?」

 前代未聞。空前絶後。そんな珍事を前にして、執務室に押しかけていた騎士団たちは、お互い顔を見合わせてざわついた。

「ど、どういうことだ?」
「神を信じていない教祖?」

 白いローブを着た男は悪戯が成功したみたいなはにかむ笑みをしていた。

 猊下はさっきからイラッときていた。土足へ踏み込んでくるみたいな、礼儀にかけた騎士団たちに、だからしてやったのだ。

 涼しい顔をしてお怒りだった猊下に近寄って、初老の男が頭が痛いと言うように額を押さえる。

「はぁ~、猊下、他の方の前ではあれほどおっしゃってはいけないと申しましたのに……」

 現実主義の猊下は組んでいた手を解いて、大勢で押しかけても相手にもならないというように、止まっていた仕事を再び始めようとした。

「それでは、お引き取り――」

 このまま帰っては、王家の名誉が落ちてしまう。完全武装をして、丸腰の教祖へ押しかけたなどと国民に知れ渡ったら、騎士としての誇り失ってしまう。ひとりが何とか食らいついた。

「しかし、ご自身の能力については、そのように言い逃れできないのではございませんか?」
「そうかもしれませんね。目の前で起き、体験しているものですからね」

 何かを待つように、ラピスラズリをはめ込んだ金の腕輪を、猊下は手で軽く触れた。

「それでは、そちらで犯行が可能になるのではございませんか?」
「おや、陛下は見えないものを事実に置き換えて、証拠になさるのでしょうか?」
「もちろんそちらの理由だけではございません」
「何か証拠となるものでもございましたか?」

 猊下は返事を返しながら、待ちに待った機会がめぐってきたのではと思った。騎士のひとりが白い袋を手に乗せて差し出す。

「ローズマリーを入れた布袋がそばに落ちているのが新たに見つかりました。魔除としてお使いになっていらっしゃる方が大勢いると聞いています」

 昨日の晩、部下が報告した話を猊下は思い出す。ローズマリーの魔除まよけをなくした信者がひとりいたと。以前から何か少しでも変わったことがあれば、報告しろとの命令は出していた。

 それをどう使うつもりなのか。猊下は相手の言葉を待った――。

「どなたのものかを調べさせて頂いてもよいのですが……」
「どのような方法でお調べになるおつもりですか?」

 猊下は素知らぬふりで密かに狙う。相手の望みが何なのかと。

「前国王の暗殺の罪ですから、手段は問わないと、陛下から仰せつかっています」
「そうですか」

 つまりは信者全員――いや国民のほとんどを人質に取ったということだ。
 すなわち、自分――教祖の身柄と交換して拘束。
 従って、陛下の最終目的はこの宗教団体――ミズリー教の廃止――

 である可能性が非常に高い。ただうなずいただけの、猊下の頭はここまで、国王の思惑を察知していたのだった。

おさでいらっしゃる猊下からまずは、調べさせていただきます。ご同行願えますか?」

 猊下は全て読みきったのに、涼しい顔をして春風のような穏やかな笑みを見せた。

「えぇ、構いませんよ」

 そばに控えていた部下たちはびっくりして、黒いローブの裾を大きく揺らした。

「猊下っ!?」
「私が留守の間、よろしくお願いしますよ」

 若い男は椅子からさっと立ち上がって机を回り込み、敵地へと連れて行かれるように、騎士たちに取り囲まれた。

 重厚感のある靴音が響く背後で、残された部下たちは表情を歪め、力なくうなだれる。

「前国王の暗殺が罪状です。それでは、お戻りになられないではございませんか……」
「骨ぐらいは戻してやる」

 最後に部屋の外へ出た騎士が捨てゼリフを吐くと、ドアはパタリと閉まり、鉄のスレる足音が遠ざかっていった――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...