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歌を作ってみた
内緒話:貴増参の場合
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長い廊下に面したドアを、颯茄は叩いた。
「どうぞ」
中からやんわりとした貴増参の声が返ってきた。
颯茄がドアを開けると、色とりどりの小さなものが所狭しと並んでいた。
「お邪魔しま――うわ~、すごい! 車の模型だらけだ」
「僕の趣味ですからね」
「この中に持ってる車ってあるんですか?」
「これとこれがそうです」
二台のスポーツカーを、貴増参は指差した。
「子供を乗せたりするんですか?」
「時々乗せますよ。乗りたがりますから」
「いいなあ。子供とドライブ。素敵です」
「君も乗りませんか?」
まるで王子様がお姫様を舞踏会に誘うように言われたが、颯茄はそんなことより、このスピードがかなり出るであろう車に夢中だった。
「今度お願いしていいですか。どんな乗り心地なのか感じたいです」
「えぇ、構いません。それで今日はどうしたんですか?」
三十センチ差の背丈で見下ろされ、颯茄は携帯電話を差し出した。
「実は、貴増参さんのモデルにした曲を作ってきたました」
「僕のためにしてくれたんですか。ありがとうございます」
貴増参は目をキラキラと輝かせる。
「早速再生しますね」
ひとひねり、ふたひねりした独特の曲が流れ出した。
【内緒話】
内緒話 聞こえてしまって
僕のことだった 浮気していると
色あせたわけでもなく 愛してるのは変わりなく
それでも 誰かを好きになりました
割と平気で 気にしない方で
噂は噂でしょ
僕は僕で 人は人で
愛してると伝えたい
人の口に 戸は立てられない
噂話も四十五日 そろそろ
結婚しているのに 愛は保たれたままで
それでも 同性を好きになりました
修羅場にならず 円満解決
ハッピーばかりでしよ
君は君で 彼は彼で
好きなら問題ない
僕の心に 真実がある
誰が奪えるのか
割と平気で 気にしない方で
噂は噂でしょ
僕は僕で 人は人で
愛してると伝えたい
「こんなふうに噂話になったことはありませんか?」
颯茄が聞くと、貴増参はキッパリを否定した。
「ありません」
「明引呼さんは職種が違うのでないと思いますが、独健さんとは職場が部署は違えどもあったのでは?」
「僕はこう見えても慎重派なのでありませんでした」
「そうですか」
噂になるような大人は、大人とは言えないのだ。貴増参は傍らに置いてあったカップを取り、コーヒーを一口飲んだ。
「ですが、もしこうなったら、僕はこの詩の通り気にしません」
「やっぱりそうなんですね」
「あそこの詩が特に僕の心に響きました」
「どこですか?」
颯茄は興味津々で聞き返した。
「『僕の心に 真実がある 誰が奪えるのか』これは真理だと思います」
「ありがとうございます。神様のおかげで思いついたいい詩だと私も思います。誰にも心は動かせないんです。あ、神様は別ですけど」
「好きな気持ちが生まれたら、この世界では変わりません。ですから、想っていていいのだと僕は信じます」
「心が強いですね」
さすが我が夫――颯茄は感心した。
「君こそ。十四年間も思い続けたのだから、すごいです」
「ありがとうございます」
「曲は持ち出し禁止ですか?」
颯茄の表情が曇った。
「そうです。申し訳ないんですが、発売日が過ぎてからでないと、情報漏洩になってしまうので」
「残念です。こんな素敵な歌を誰かに紹介できないなんて」
くすぐったそうに、颯茄は笑う。
「ふふっ。ありがとうございます。でも、これを作ったのは私ではなく、神様なんですよ。それを私は聞かせてもらっただけです」
「そういう謙虚なところが、とても君らしいです」
夫婦仲睦まじく、外に広がる空をしばらく眺めていた。
「どうぞ」
中からやんわりとした貴増参の声が返ってきた。
颯茄がドアを開けると、色とりどりの小さなものが所狭しと並んでいた。
「お邪魔しま――うわ~、すごい! 車の模型だらけだ」
「僕の趣味ですからね」
「この中に持ってる車ってあるんですか?」
「これとこれがそうです」
二台のスポーツカーを、貴増参は指差した。
「子供を乗せたりするんですか?」
「時々乗せますよ。乗りたがりますから」
「いいなあ。子供とドライブ。素敵です」
「君も乗りませんか?」
まるで王子様がお姫様を舞踏会に誘うように言われたが、颯茄はそんなことより、このスピードがかなり出るであろう車に夢中だった。
「今度お願いしていいですか。どんな乗り心地なのか感じたいです」
「えぇ、構いません。それで今日はどうしたんですか?」
三十センチ差の背丈で見下ろされ、颯茄は携帯電話を差し出した。
「実は、貴増参さんのモデルにした曲を作ってきたました」
「僕のためにしてくれたんですか。ありがとうございます」
貴増参は目をキラキラと輝かせる。
「早速再生しますね」
ひとひねり、ふたひねりした独特の曲が流れ出した。
【内緒話】
内緒話 聞こえてしまって
僕のことだった 浮気していると
色あせたわけでもなく 愛してるのは変わりなく
それでも 誰かを好きになりました
割と平気で 気にしない方で
噂は噂でしょ
僕は僕で 人は人で
愛してると伝えたい
人の口に 戸は立てられない
噂話も四十五日 そろそろ
結婚しているのに 愛は保たれたままで
それでも 同性を好きになりました
修羅場にならず 円満解決
ハッピーばかりでしよ
君は君で 彼は彼で
好きなら問題ない
僕の心に 真実がある
誰が奪えるのか
割と平気で 気にしない方で
噂は噂でしょ
僕は僕で 人は人で
愛してると伝えたい
「こんなふうに噂話になったことはありませんか?」
颯茄が聞くと、貴増参はキッパリを否定した。
「ありません」
「明引呼さんは職種が違うのでないと思いますが、独健さんとは職場が部署は違えどもあったのでは?」
「僕はこう見えても慎重派なのでありませんでした」
「そうですか」
噂になるような大人は、大人とは言えないのだ。貴増参は傍らに置いてあったカップを取り、コーヒーを一口飲んだ。
「ですが、もしこうなったら、僕はこの詩の通り気にしません」
「やっぱりそうなんですね」
「あそこの詩が特に僕の心に響きました」
「どこですか?」
颯茄は興味津々で聞き返した。
「『僕の心に 真実がある 誰が奪えるのか』これは真理だと思います」
「ありがとうございます。神様のおかげで思いついたいい詩だと私も思います。誰にも心は動かせないんです。あ、神様は別ですけど」
「好きな気持ちが生まれたら、この世界では変わりません。ですから、想っていていいのだと僕は信じます」
「心が強いですね」
さすが我が夫――颯茄は感心した。
「君こそ。十四年間も思い続けたのだから、すごいです」
「ありがとうございます」
「曲は持ち出し禁止ですか?」
颯茄の表情が曇った。
「そうです。申し訳ないんですが、発売日が過ぎてからでないと、情報漏洩になってしまうので」
「残念です。こんな素敵な歌を誰かに紹介できないなんて」
くすぐったそうに、颯茄は笑う。
「ふふっ。ありがとうございます。でも、これを作ったのは私ではなく、神様なんですよ。それを私は聞かせてもらっただけです」
「そういう謙虚なところが、とても君らしいです」
夫婦仲睦まじく、外に広がる空をしばらく眺めていた。
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