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最後の恋は神さまとでした

おまけの打ち上げ/4

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 ステーキの切れ端をまた一切口の中へ入れて、颯茄は十分味わったところで、さっきから銀の長い前髪を不機嫌に揺らしていた夫を見つめる。

「じゃあ、最後、蓮。どうだった?」

 蓮は食べるのをやめて顔を上げたが、視線をあちこちに動かしているだけだった。

「…………」

 颯茄はフォークとナイフをガチャンと皿の上に置いて、ツッコミを入れる。

「いや、ノーリアクションじゃ困るんだけど……」そこまで言って、彼女は何とか話を続けようとする。「まあ、何ですか……光さんと初めて会った時の一目惚れの仕方ね。あれはすごかった」

「綺麗だ――でしょ」

 焉貴は寂しがりやの子供みたいに、椅子の上で両膝を抱えた。

「そう」妻は短くうなずいて、「本当にそう思ったのかはわからないけど、とにかく、恋愛だと思ってないから、後から気付いてプロポーズに急いで行ってくるの繰り返しが面白かった」

 妻が相手を思い浮かべるたび、あれは好きという気持ちだったのかと気づき、蓮は結婚を申し込みに行った。その相手の一人――焉貴はナルシスト的に微笑む。

「そうね。俺もその口」
「僕もです」

 上品に口元をナプキンで拭った月命は、幸せそうに微笑んだ。

「でも、バイセクシャルの複数婚に一番貢献してるのは、蓮なんですよ。三回プロポーズしてますからね」

 颯茄は同意を求めたが、蓮の綺麗な唇は子供が無邪気に笑うように上向きになった。

「…………」
「今は喜んでます」

 話はしないが、わかりやすい反応で、妻は可愛いと思ってしまうのだ。彼女は居住まいを正して、残りのステーキに集中しようとする。

「じゃあ、こんなところで、終わりに――」

「あれあれあれ?」孔明が割って入ってきた。「最後の一人出てきそうになってたけど、あの人はどうしたの?」

 フォークとナイフを持つ手が空振り終わり、颯茄は膝の上に両手を乗せる。

「ああ、ゲームの中の登場人物の人ですか?」
「そうそう」
「広い宇宙には、ゲームのモデルになった人も実在する。という理論の元での話ですからして……」

 言い訳がましいことを言っている妻の斜め前で、パンをちぎっていた手で、明引呼は部屋の隅を指さした。

「っつうか、そこの端っこに立ってんだろ」

 颯茄は大慌てする。

「ああ! 写ってない人を引っ張り出さないでくださいよ」

 一応、撮影もしたカメラで撮ってもらっているのに、スタッフが立っている位置にいる人を持ち出されそうになっていた。旦那たちは顔を突き合わせる。

「あれ、誰?」

 颯茄はあきれた顔をする。

「わざとらしいなあ。誰じゃないです。もう知ってるじゃないですか。〇〇さんです」
「ここまできて、名前伏せるんだ」

 全員の視線は一点集中していたが、その人は映らない。颯茄はカメラを食卓へ引っ張り戻した。

「今はダメです。この後、登場していただこうとしているので、今は待機です」
「は~い!」

 みんなが返事をすると、颯茄は膝の上に乗せていた台本をテーブルの上に取り出して、パラパラと落ち着きなくめくった。

「ここからは人数が増えて、新しくなって進んでいきます。次は『歌を作ってみた』という企画です。新しい試みです。それではお楽しみに」

 孔明が抗議の声を上げる。

「何やらせるの~?」
「みんなは何もしません。大丈夫です」

 颯茄はキッパリ言って、ステーキ肉を口の中へ放り込んで、堪能でまぶたを閉じる。

「夕飯、今日もおいしいね」
「最高!」

 旦那たちから賛成の声が上がると、颯茄はワイングラスをかかげて、

「じゃあ、改めて、『最後の恋は神さまとでした』の完成を祝して、乾杯!」
「乾杯!」

 カツンとグラスが鳴ると、ぐびっと飲んだ颯茄が大声を上げた。

「うわー、ワインうまっ! いつもと違くない?」
「学校の正門を出たところで、最高級のワインをどうしても、僕に渡したいとおっしゃる方がいて……」

 月命が言うと、いつも通り光命が聞き返した。

「面識のある方なのですか?」
「それがどちらでも会ったことがないんです」

 月命はこめかみに人差し指を当てて、困った表情をする。

「お前また……」

 旦那たちはあきれたため息をついた。ルナスマジックの名残は健在だった。颯茄は気にしな様子もなく、ワインでステーキ肉を流し込む。

「女性を気絶させなくなっだけでもいいじゃないですか。世界は平和だ~」

 様々な人々が集まった明智分家の夜は静かにゆったり更けてゆくのだった。
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