上 下
424 / 967
最後の恋は神さまとでした

愛する人の前から消えないで

しおりを挟む
 おまけの倫礼はふとした瞬間に思う。自分は人よりも何倍も幸せだと。たくさんの人の愛を受けている。これ以上幸福なことはない。しかし、いつも影が心の片隅に落ちていて、それが次第に大きくなってきているのだった。

 神界の家と、地上にあるおまけの倫礼の部屋はつながっている。子供たちは地球に遊びにくる感覚でやってきては、とびきりの笑顔を振りまいて帰ってゆく。

「ママ、ありがとう!」
「どういたしまして」

 子供の笑顔を見るたび、おまけの倫礼は胸が痛んだ。

「私はいつかみんなの前からいなくなる。この肉体が滅んだら、仮の魂は倫礼さんに吸収されて、記憶は彼女の一部となる。いつかみんなの前から消えてなくなる」

 今ある幸せが、無になってしまう。死んだ後も残ると思うから、生きる希望が持てるのに、おまけの倫礼にはそれがないのだ。

「普通は死んでも、魂は永遠だからと思って、安心できるけど、消滅してしまうんだから、本当に貴重で、儚い運命だな」

 何のために生きているのかと思っても、倫礼という神のために生きている。慎ましやかに感謝をすることで心を鎮める日々だ。

 そんなある日、夕霧命がそばへやってきた。

「光が好きなのは、本体ではなく、お前だ」

 言い残していった。こんな嬉しい言葉はないが、それも無になるのだ。心の声が聞こえているおまけの倫礼は、また誰にも知られずに一人で悲しみに耐える日が多くなった。

 青の王子はあいも変わらず、おまけの倫礼が目を覚ます前に起きていて、彼女が眠った後に眠りにつく生活を送っている。どこへ出掛けるにも、何をするにも一緒で、まさしく守護神だった。

 寂しさを感じて抱きしめてくれる時にも、倫礼は光命のことを思うと、余計に悲しくなるのだ。この人はどんな想いで、自分と接しているのだろう。いなくなる自分との一日一日を宝物のように大切に、その全てを記憶する脳に焼き付けているのかもしれない。忘れることのできない頭脳に。

 ある日、おまけの倫礼はとうとう耐えきれなくなって、光命に噛みつくように言った。

「どうして、光さんは倫礼さんではなく、私を好きになったんですか?」

 光命は神の威厳を持って、優雅に微笑んで見せる。

「仕方がないではありませんか。あなたを好きになってしまったのですから」
「私は消えてなくなる身です。そんな私を好きになるなんて……」

 一緒にいれなくなったとしても、どうか幸せで生きていてほしい。だから、他の人を好きになってほしいのだ。それでも、光命の愛は決して変わらないのだった。

「彼女の中に吸収されたあなたの部分だけを見て、私は永遠を生きていきます」
「どうして、そんな辛い人の想い方をするんですか!」

 悲痛に叫びそうになるのを、おまけの倫礼はなんとか堪えた。

 本体を好きになっていたなら、こんな悲しい人の愛し方を、愛しい人がする必要もなかったと、おまけの倫礼は思うと、涙がこぼれそうになったが、何とか必死で止めた。泣いても何も変わらないのだ。

「消えてゆく運命だとしても、私が愛しているのはあなたなのです」
「…………」

 運命は残酷だ。おまけの倫礼はもう何も言うことができなかった。自分の意識が全てなくなったあと、光命はこの世に存在しないおまけを想って、永遠の時を生きてゆく。なんて切ない生き方だ。

 でも、それならば、せめて生きることが許されている今を、笑顔で生きて、彼の心に残れるようにしよう。おまけの倫礼は肉体が滅ぶその日を、誰よりも静かに受け止めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...