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最後の恋は神さまとでした
天才軍師の結婚/2
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中心街にきたついでに、孔明は紅朱凛と雑誌に載っていた流行のレストランへとやってきていた。冬へと向かいゆく大通りの景色を眺めながら、さっきから孔明の説明が続いていたが今終わった。
「というわけで、紅朱凛にはアシスタントとしてついてきてほしいと思ってるから、結婚しよう」
孔明は婚約指輪を差し出したが、紅朱凛はただそれを見ているだけで、手を伸ばそうとしなかった。
「それだけ?」
「それだけって、どういう意味?」
「焉貴とは結婚しないの?」
「どうして、焉貴なの?」
張飛と言う可能性が高かったのに、焉貴と言ってきた。孔明は心の中で微笑む。相変わらず頭のいい女だと。紅朱凛の理論が始まる。
「この間の休みの日、あなたの部屋へ行った。文机の位置が横に少しずれてた」
「うん」
孔明の漆黒の長い髪はつうっとすくように伸ばされ弄ばれる。
「張飛があなたの部屋をたまに訪れるのは知ってる。でも、張飛は縁側に対して直角に寝転がる」
「うん」
「だとしたら、文机を動かすのはおかしい。そうなると、もう一人……」何気ないふりをして、恐ろしいほどしっかりと話を聞いている孔明の瞳を、紅朱凛はじっと見つめた。「焉貴がきた可能性が出てくる。彼とはどうしてるか知らないけど、縁側と並行――つまり、横向きに寝転がる。それって、あなたが膝枕してるってことじゃないの?」
孔明は漆黒の髪をサラサラと落とした。
「さすが紅朱凛」
ばれてもいいのだ。紅朱凛に隠し事など、そうそうできるはずもないのだから。紅朱凛は珍しく少しだけ怒った。
「さすがじゃないわよ。どうしたの? 私、バイセクシャルの複数婚してみたかったのに」
紅朱凛としては願ってもないチャンスだった。それは、孔明も同じだったはずだ。張飛との結婚の本陣はまだ落としていないのだから。
「それがね……」
孔明はこう言って、数日前の自宅での話をし出した。
*
もう十四年目の秋がやってきて、黄金色のススキ畑が最盛期を見せる縁側で、孔明は焉貴を膝枕していた。
「焉貴、また結婚するの?」
差し出された招待状を確認すると、式の日取りが書いてあった。焉貴はコロンと寝返りを打って、
「そう。同僚だったやつが他に好きなやつがいたって言ってさ。とんとん拍子ってわけ」
焉貴はもう三度も結婚している。他にも好きな男がいたことは驚きもしなかったが、ほんの少し複雑の気持ちを孔明にもたらした。
「ボクのことは?」
焉貴は孔明の腕を両手で大切そうにつかんで、ゆらゆらと揺らした。
「それがさ、これ以上結婚するのはダメって、パパに言われちゃってさ。お前のこと言いそびれちゃったよ」
「そう」
男ふたりの縁側で、甘い時間は過ぎてゆくのに、している話は切ないものだった。
「おまけの倫礼はお前のこと思い出さないし、まだ時期じゃないのかもね」
「そう。じゃあ、次の人が最後の結婚相手ってこと?」
「そうね」
寝耳に水。というか、光秀にしてみれば、当然の対応だったと言える。あの男は思慮深い。娘が次々に結婚しているのを、放ってみておくような人でないのだ。
*
孔明は最後のステーキの切れ端を口の中へ押し込んで、紅朱凛に身を乗り出した。
「というわけ」
「そう。それで諦めるの?」
孔明の凛々しい眉は横へ揺れた。
「ううん」
「そうこなくっちゃね。で、どうやって攻め落とすわけ?」
自分の作戦はあるが、恋人の作戦も聞いてみたい。孔明は聞き返した。
「紅朱凛だったらどうする?」
「そうね?」紅朱凛はデザートの小さいスプーンを器に中に立てた。「私だったら、娘の倫礼を口説き落とすかしら?」
「どうして?」
「実の父親の意見を変えられる可能性が一番高いのは、彼女でしょ?」
「普通ならそれが勝率が高い」
「普通じゃないわけ?」
紅朱凛はアイスクリームをスプーンですくおうとしていた手を止めた。孔明は数年前に焉貴から聞いた話を言って聞かせる。
「倫礼は地球に分身を置いてて、それはおまけとか呼ばれてるんだけど、そこに本当に人がいるようにみんな重きを置いてるんだ」
「人間の女ね……」
遠い記憶が蘇る。紅朱凛が地球でいた頃のことだ。あの感覚を今まさに体験している女が相手の中にいるのだ。
孔明はチョコレートパフェを一口頬張って、
「彼女、霊感や直感に優れてて、思いついた神様――この世界の人間のことね。それが次の結婚相手になってきてたんだって」
「孔明は思いついてもらえなかったってこと?」
「そう」
思いついてもらえないのならば、会いにいくまでだが、家長からの禁止令は絶対で、どうにもそこを崩さないと、結婚へはこぎつけない。
「そもそも、彼女はあなたのことを知ってるの?」
「焉貴の話では知ってるって。でも、忘れてるって」
「ふーん。そうなると、別の方法ってことね。孔明はどうすることにしたの?」
「ふふっ。あのね……」
テーブルを挟んで、孔明の顔に紅朱凛は近づいた。誰にも聞こえない声で内緒話をされて、
「きゃあ、それいいわね。それが手堅く行ける方法よ!」
紅朱凛が喜んだ作戦は、画期的なものだった。
「というわけで、紅朱凛にはアシスタントとしてついてきてほしいと思ってるから、結婚しよう」
孔明は婚約指輪を差し出したが、紅朱凛はただそれを見ているだけで、手を伸ばそうとしなかった。
「それだけ?」
「それだけって、どういう意味?」
「焉貴とは結婚しないの?」
「どうして、焉貴なの?」
張飛と言う可能性が高かったのに、焉貴と言ってきた。孔明は心の中で微笑む。相変わらず頭のいい女だと。紅朱凛の理論が始まる。
「この間の休みの日、あなたの部屋へ行った。文机の位置が横に少しずれてた」
「うん」
孔明の漆黒の長い髪はつうっとすくように伸ばされ弄ばれる。
「張飛があなたの部屋をたまに訪れるのは知ってる。でも、張飛は縁側に対して直角に寝転がる」
「うん」
「だとしたら、文机を動かすのはおかしい。そうなると、もう一人……」何気ないふりをして、恐ろしいほどしっかりと話を聞いている孔明の瞳を、紅朱凛はじっと見つめた。「焉貴がきた可能性が出てくる。彼とはどうしてるか知らないけど、縁側と並行――つまり、横向きに寝転がる。それって、あなたが膝枕してるってことじゃないの?」
孔明は漆黒の髪をサラサラと落とした。
「さすが紅朱凛」
ばれてもいいのだ。紅朱凛に隠し事など、そうそうできるはずもないのだから。紅朱凛は珍しく少しだけ怒った。
「さすがじゃないわよ。どうしたの? 私、バイセクシャルの複数婚してみたかったのに」
紅朱凛としては願ってもないチャンスだった。それは、孔明も同じだったはずだ。張飛との結婚の本陣はまだ落としていないのだから。
「それがね……」
孔明はこう言って、数日前の自宅での話をし出した。
*
もう十四年目の秋がやってきて、黄金色のススキ畑が最盛期を見せる縁側で、孔明は焉貴を膝枕していた。
「焉貴、また結婚するの?」
差し出された招待状を確認すると、式の日取りが書いてあった。焉貴はコロンと寝返りを打って、
「そう。同僚だったやつが他に好きなやつがいたって言ってさ。とんとん拍子ってわけ」
焉貴はもう三度も結婚している。他にも好きな男がいたことは驚きもしなかったが、ほんの少し複雑の気持ちを孔明にもたらした。
「ボクのことは?」
焉貴は孔明の腕を両手で大切そうにつかんで、ゆらゆらと揺らした。
「それがさ、これ以上結婚するのはダメって、パパに言われちゃってさ。お前のこと言いそびれちゃったよ」
「そう」
男ふたりの縁側で、甘い時間は過ぎてゆくのに、している話は切ないものだった。
「おまけの倫礼はお前のこと思い出さないし、まだ時期じゃないのかもね」
「そう。じゃあ、次の人が最後の結婚相手ってこと?」
「そうね」
寝耳に水。というか、光秀にしてみれば、当然の対応だったと言える。あの男は思慮深い。娘が次々に結婚しているのを、放ってみておくような人でないのだ。
*
孔明は最後のステーキの切れ端を口の中へ押し込んで、紅朱凛に身を乗り出した。
「というわけ」
「そう。それで諦めるの?」
孔明の凛々しい眉は横へ揺れた。
「ううん」
「そうこなくっちゃね。で、どうやって攻め落とすわけ?」
自分の作戦はあるが、恋人の作戦も聞いてみたい。孔明は聞き返した。
「紅朱凛だったらどうする?」
「そうね?」紅朱凛はデザートの小さいスプーンを器に中に立てた。「私だったら、娘の倫礼を口説き落とすかしら?」
「どうして?」
「実の父親の意見を変えられる可能性が一番高いのは、彼女でしょ?」
「普通ならそれが勝率が高い」
「普通じゃないわけ?」
紅朱凛はアイスクリームをスプーンですくおうとしていた手を止めた。孔明は数年前に焉貴から聞いた話を言って聞かせる。
「倫礼は地球に分身を置いてて、それはおまけとか呼ばれてるんだけど、そこに本当に人がいるようにみんな重きを置いてるんだ」
「人間の女ね……」
遠い記憶が蘇る。紅朱凛が地球でいた頃のことだ。あの感覚を今まさに体験している女が相手の中にいるのだ。
孔明はチョコレートパフェを一口頬張って、
「彼女、霊感や直感に優れてて、思いついた神様――この世界の人間のことね。それが次の結婚相手になってきてたんだって」
「孔明は思いついてもらえなかったってこと?」
「そう」
思いついてもらえないのならば、会いにいくまでだが、家長からの禁止令は絶対で、どうにもそこを崩さないと、結婚へはこぎつけない。
「そもそも、彼女はあなたのことを知ってるの?」
「焉貴の話では知ってるって。でも、忘れてるって」
「ふーん。そうなると、別の方法ってことね。孔明はどうすることにしたの?」
「ふふっ。あのね……」
テーブルを挟んで、孔明の顔に紅朱凛は近づいた。誰にも聞こえない声で内緒話をされて、
「きゃあ、それいいわね。それが手堅く行ける方法よ!」
紅朱凛が喜んだ作戦は、画期的なものだった。
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