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最後の恋は神さまとでした
思い出すたび増えてゆく/3
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新しく子供が生まれたり。一緒にどこかで出かけたり。一人ひとりの性格や癖が見え隠れしたりしながら、家族の絆は深まってゆく。
長い夏休みも終えて、十月になったある日。
「お前の守護するために、俺、非常勤になったから」
「え……?」
教師の仕事を削ってまで、守護の役目を果たしたい。そんな夫を前にして、倫礼は少し驚いて目を点にした。
「守護の資格取りに行ったでしょ? この間」
「行きましたね。ただ、子供が倒れたので途中で戻ってきましたけど」
三百億年も生きている彼だ。守護の資格は持ってはいたのだが、古い体験で新しい法則に当てはまれらないことが多く、研修期間に行った。しかし、子供に何かあった時には連絡が欲しいと、あらかじめ言っていた教師二人は、二日を待たずして家へ戻ることとなった。審査がなされ、研修終了とみなされ、特別に資格を二日で取ってきたのである。
「けど、一応、資格は取ったから」
「そうでした」
「だから、俺も守護神やるから」
「ありがとうございます」
感謝するばかりだ。地球という場所で一人きりでいる、おまけの倫礼をバックアップしてくれるのだから。そこへ、凛とした澄んだ女性的な響きでありながら、男の声がかかった。
「僕も守護の仕事をするために、非常勤になりました」
「え……?」
妻は一瞬聞き間違えかと思ったが、ニコニコの笑みは健在だった。生徒のためにカエルを被っていくような教師に、おまけの倫礼は食ってかかった。
「どうして、月さんはあんなに子供が好きで仕事してたじゃないですか?」
「僕には君の守護の仕事も大切なんです」
「いや、消えてゆく私のために、自分のことは犠牲にしないでください」
おまけの倫礼は、いつも怯えて生きている。いつかは、倫礼の本体に吸収され、自分はいなくなる運命にあるのだと。仮の魂であって、肉体が滅びれた消えてくなくなるのだ。
「犠牲になどしていません。僕の意思で決めたことです」
「え、でも――」
おまけの妻は必死で止めた。好きなことをやって欲しいのだ。おかしな結婚の仕方はしたけれども、愛する夫であるのは今は何ら変わりないのだから。
それなのに、月命は地をえぐるような低い声でピシャリと言った。
「僕はもうこれ以上この件は取り合いません」
「…………」
ニコニコの笑みはどこにもなかく、おまけの倫礼は目も合わせてもらえなかった。この夫の気の流れを、夕霧命の師匠から教えてもらって日のことを思い返す。感情はない。肝が座っている。人を惑わす気の流れを持っている。そこから計算すると、彼女は深くため息をついた。
(怒らせちゃった。月さんって言い出したら聞かない人なんだ。初めて知った)
月命は浮ついた気持ちで言っているのではないのだ。他の様々なことを考えて、守護神を名乗り出てくれているのだ。それならば、妻としてすることはひとつ。倫礼は素直に頭を下げた。
「ありがとうございます。守護してくださって」
「どうしたしまして」
霊感が戻ってから、おまけの倫礼のまわりには守護をしてくれる神様が増えて、賑やかになった。いつか終わってしまう生活でも、今この時をと彼女は懸命に生きてゆく。
*
トイレに立った瞬間、フラッシュバックするように、倫礼に頭の中に文字が浮かび上がった。頭を抱えながら、パソコンのある部屋へ戻ってきた。
「ああ、もう思い出したくない」
「なぜですか?」
そばで優雅に紅茶を飲んでいた光命が聞いた。
「だって、増えていっちゃうんですもん。配偶者が細胞分裂並みに」
結婚する相手は、シングルではなく、彼女がいるか、妻がいるかいなる。そうなると、二人ずつ増えていってしまうのである。光命と結婚してから、配偶者の数は全部で十人となっていた。
細胞分裂という微妙にずれた言葉を聞いて、光命は手の甲を唇に当ててくすくす笑い出した。
「おかしな人ですね、あなたは」
「思い浮かんだ~」
テーブルにおでこをこすりつけて、倫礼は頭をふるふるする。
「どなたですか?」
「孔雀大明王さんです」
「おや、彼と結婚するかもしれないのですか」
光命は先日友人になったばかりの男と結婚する運命にあったが、彼は事実は事実の神さまで、特に驚いたりはしないのだった。
「また蓮が好きになったてたのかな?」
「そちらでは少々おかしいではありませんか。子供が同じクラスではなかったのですから」
理論派の光命に諭され、倫礼は首を傾げた。
「ということは、他の誰かが、光さんが夕霧さんを好きだったように好きなのかな?」
「そうかもしれませんね」
「誰だろう?」
他に好きな人がいたとしても、結婚したばかりで、名前を口にするような自分勝手な人はここにはいない。知られるような素振りをしてるはずがなければ、余計にわからないものだ。
そして、次の結婚で一波乱起きるのである。
長い夏休みも終えて、十月になったある日。
「お前の守護するために、俺、非常勤になったから」
「え……?」
教師の仕事を削ってまで、守護の役目を果たしたい。そんな夫を前にして、倫礼は少し驚いて目を点にした。
「守護の資格取りに行ったでしょ? この間」
「行きましたね。ただ、子供が倒れたので途中で戻ってきましたけど」
三百億年も生きている彼だ。守護の資格は持ってはいたのだが、古い体験で新しい法則に当てはまれらないことが多く、研修期間に行った。しかし、子供に何かあった時には連絡が欲しいと、あらかじめ言っていた教師二人は、二日を待たずして家へ戻ることとなった。審査がなされ、研修終了とみなされ、特別に資格を二日で取ってきたのである。
「けど、一応、資格は取ったから」
「そうでした」
「だから、俺も守護神やるから」
「ありがとうございます」
感謝するばかりだ。地球という場所で一人きりでいる、おまけの倫礼をバックアップしてくれるのだから。そこへ、凛とした澄んだ女性的な響きでありながら、男の声がかかった。
「僕も守護の仕事をするために、非常勤になりました」
「え……?」
妻は一瞬聞き間違えかと思ったが、ニコニコの笑みは健在だった。生徒のためにカエルを被っていくような教師に、おまけの倫礼は食ってかかった。
「どうして、月さんはあんなに子供が好きで仕事してたじゃないですか?」
「僕には君の守護の仕事も大切なんです」
「いや、消えてゆく私のために、自分のことは犠牲にしないでください」
おまけの倫礼は、いつも怯えて生きている。いつかは、倫礼の本体に吸収され、自分はいなくなる運命にあるのだと。仮の魂であって、肉体が滅びれた消えてくなくなるのだ。
「犠牲になどしていません。僕の意思で決めたことです」
「え、でも――」
おまけの妻は必死で止めた。好きなことをやって欲しいのだ。おかしな結婚の仕方はしたけれども、愛する夫であるのは今は何ら変わりないのだから。
それなのに、月命は地をえぐるような低い声でピシャリと言った。
「僕はもうこれ以上この件は取り合いません」
「…………」
ニコニコの笑みはどこにもなかく、おまけの倫礼は目も合わせてもらえなかった。この夫の気の流れを、夕霧命の師匠から教えてもらって日のことを思い返す。感情はない。肝が座っている。人を惑わす気の流れを持っている。そこから計算すると、彼女は深くため息をついた。
(怒らせちゃった。月さんって言い出したら聞かない人なんだ。初めて知った)
月命は浮ついた気持ちで言っているのではないのだ。他の様々なことを考えて、守護神を名乗り出てくれているのだ。それならば、妻としてすることはひとつ。倫礼は素直に頭を下げた。
「ありがとうございます。守護してくださって」
「どうしたしまして」
霊感が戻ってから、おまけの倫礼のまわりには守護をしてくれる神様が増えて、賑やかになった。いつか終わってしまう生活でも、今この時をと彼女は懸命に生きてゆく。
*
トイレに立った瞬間、フラッシュバックするように、倫礼に頭の中に文字が浮かび上がった。頭を抱えながら、パソコンのある部屋へ戻ってきた。
「ああ、もう思い出したくない」
「なぜですか?」
そばで優雅に紅茶を飲んでいた光命が聞いた。
「だって、増えていっちゃうんですもん。配偶者が細胞分裂並みに」
結婚する相手は、シングルではなく、彼女がいるか、妻がいるかいなる。そうなると、二人ずつ増えていってしまうのである。光命と結婚してから、配偶者の数は全部で十人となっていた。
細胞分裂という微妙にずれた言葉を聞いて、光命は手の甲を唇に当ててくすくす笑い出した。
「おかしな人ですね、あなたは」
「思い浮かんだ~」
テーブルにおでこをこすりつけて、倫礼は頭をふるふるする。
「どなたですか?」
「孔雀大明王さんです」
「おや、彼と結婚するかもしれないのですか」
光命は先日友人になったばかりの男と結婚する運命にあったが、彼は事実は事実の神さまで、特に驚いたりはしないのだった。
「また蓮が好きになったてたのかな?」
「そちらでは少々おかしいではありませんか。子供が同じクラスではなかったのですから」
理論派の光命に諭され、倫礼は首を傾げた。
「ということは、他の誰かが、光さんが夕霧さんを好きだったように好きなのかな?」
「そうかもしれませんね」
「誰だろう?」
他に好きな人がいたとしても、結婚したばかりで、名前を口にするような自分勝手な人はここにはいない。知られるような素振りをしてるはずがなければ、余計にわからないものだ。
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