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最後の恋は神さまとでした

青の王子は大人のメルヘン/2

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 ある日の夜。蓮はおまけの倫礼の本棚から、また別のファイルを見つけた。

「何だ? これは」

 今回は名簿ではなく、

「小説。おまけも文章を書くとは知らなかった」

 パラパラとページをめくって、さらっと読んでゆく。

「一章が陛下をモデルにしている?」

 ファイルの色が違うのを見つけ、また読んでゆく。

「二章は皇子の一人だ」

 大作のようで、次の色のファイルを開いて、しばらく読むと、滅多に驚かない蓮は大きく目を見開いた。

「三章は……!」

 イライラが募って、ファイルを持つ手が震える。

「どういうつもりでこれを書いた?」

 次の章も残っていたが、ひとまずはこの章で蓮はしばらく手を止めることとなった。

 そして、翌日。陛下との約束どおり、光命はまたやってきた。おまけの倫礼がパソコンでDVDを見ているのを横目に、蓮が話を切り出す。

「これを読め」

 差し出されたのは青いファイルだった。光命は冷静な瞳に映しながら、

「こちらは何ですか?」
「おまけがお前をモデルにして書いた小説だ」
「そのように大切なものを読んでもよいのですか?」

 光命は思った。オリジナル作品はとても思い入れのあるものだ。守護神でもない自分が読んでもよいものなのかと。

 それでも、蓮はファイルを押し出した。

「お前に確かめたいことがある」
「そうですか。失礼」

 光命はソファーに腰を下ろして、優雅に足を組み読み出した。

 しばらくすると、独特の文章が走り出し、光命は物語に見入った。

(理論の思考回路がよく描かれています。私の恋愛の仕方も載っている。しかしながら、こちらの書き方では、頭のよい方でないと理解できない可能性が非常に高いです。それから……)

 最後まで読む前に、光命は顔を上げ、蓮に質問した。

「……こちらはアダルト作品なのですか?」

「違う」と蓮は首を横にふり、本棚にある別のファイルにちらっと視線をやった。「六章まであるが、四章までしか書いていない。他を読んだが、お前の三章だけがそういう内容だ。何か教えたのか?」

 アダルト作品に出てくるモデル。光命には身に覚えがなかった。

「このような作品を描かれるようなことはしていませんよ」

 蓮は鋭利なスミレ色の瞳で真面目な顔をする。

「一度接触したことがあると聞いたが、詳しくはどういうことがあったんだ?」

 おまけの倫礼が、別の女だった時のことだ。もう十数年前の古い話だ。光命は優雅に降参のポーズを取った。

「そちらの時は、彼女ではなく、奇跡来という女性でした。私もまだ生まれて数ヶ月しか経っていませんでしたから、若かったのですよ」
「悪戯をしたのか?」
 
 蓮からのまっすぐな問いかけに、光命は「えぇ」とうなずいて、

「母とよく似た女性でしたから、気づかれないように後ろから近づいて、名前を読んだだけです」

 感情を抜きにすると、ただこれだけの事実で、悪戯でもなんでもないのだが、蓮の鋭い視線は光命を逃さなかった。

「後ろから声をかけられたら驚くってわかっていてやったんだな?」
「えぇ。私の導き出した通り、一メートルほど飛び上がって驚いていましたよ」

 あの驚きようと言ったら、今でもはっきりと覚えているほどで、光命は手の甲を唇に当ててくすくす笑い始めた。

「今みたいに笑って、楽しむとは……」
 
 さすがの蓮もあきれた顔をした。脱線してしまった話を光命が戻す。

「ですから、アダルト作品を描かれるようなことはしていませんよ」

 後ろから驚かされたぐらいで、アダルト作品ではいくら何でも話が飛躍しすぎている。蓮はDVDを見て笑っているおまけの倫礼の後ろ姿を眺めた。

「いつもの勘か? それもおかしい。光がそんな話をしたところなど、俺は聞いたことがない。どうなっている?」
「私に聞かれても困りますよ。彼女の発想なのですから」

 蓮は苦虫を潰したような顔になり、倫礼を思いっきりにらんだ。

「おまけのやつ、神に対してこんなことを書くとは!」
「書いてしまったものは、怒っても仕方がないではありませんか」

 当の本人――光命は特に気にした様子もなかったが、蓮は鼻でバカにしたように笑って、倫礼の頭をパシンと殴った。

「ふんっ! 光をこんなふうに書いて!」

 光命が目に触れない場所と言っているだけあって、おまけの倫礼が霊視できないようになっていて、彼女は衝撃を受けるどころか、殴られたことさえ気づかなかった。

 光命はポケットから鈴色の懐中時計を取り出して、

「おや? もう一時間経ちます。それでは、明日またきます。失礼」
「ん」

 蓮が最低限の言葉を返すと、光命は神界の自分の家へと帰っていった。
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