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最後の恋は神さまとでした

たどり着いたのは閉鎖病棟/3

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 病状が悪化してしまい、倫礼は霊能師の仕事をやめた。そして、霊感も失ってしまい、彼女を形作っていたものが崩壊してゆく。

 いつも最初は小さな違和感から始まる。のどが乾いているのに、トイレに頻繁に行くようになった。

「おかしいな。三十分に一回トイレに行くなんて、前にあったあれと同じかな?」

 初めて病院へ行く半年ほど前に体験したことを思い出した。

「熱気のあるたくさんの人がいるところで、トイレに行くことができないって状態になるとすると、怖くなってトイレに何度も行ったのと一緒?」

 家から滅多に出なくなった倫礼は、薄暗い家の中で首を傾げる。

「でも、のどが乾いてるのに、トイレに行くのって理論的におかしいよね? 緊張してるから?」

 新しい家に引っ越してから、もうすぐで一年経とうとしている。それなのに、慣れないのはどうもおかしかったが、彼女は以前にもよくあったことだと思って、そのままにしていた。

 たまに出かける買い物。両手に荷物を抱えて、三階まで階段で登る。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 体が鈍りみたいに重く、泣きたくなるほど辛くなってしまった。

「おかしいな。四十二歳にもう少しでなるけど、急にこんなに体力って落ちる? 一年前まで、ペットボトル二十四本入りの箱をふたつも同時に抱えて運んでたくらい、体力あったけど……」

 そうやって、彼女は家から出る回数がさらに減っていった。朝起きて、ご飯を食べて、パジャマのまままた眠ってしまう。

 気づくと昼前で、ご飯を食べてぼんやりした。

「一日中起きてるのが辛い。ずっと布団に横になってる。いけないと思うのに、体と心が辛い。起き上がれない」

 おまけの倫礼は病院にはなんとか行っていて、二週間ごとの診察時には必ず、点滴を打つようになっていた。

 体調を戻すとか、気力を戻すとかの問題ではなく、とにかく一日が無駄に過ぎてゆくのだ。そして、おまけの倫礼はとうとう大きな違和感に気づいてしまった。

「お風呂に入りたくない……」

 ここ数ヶ月一度も畳んでいない布団の中で、倫礼は起き上がろうと何度もするが、体は一ミリとも動いてくれなかった。

「おかしい。自分はどんなにお酒を飲んでも、どんなに遅く帰ってきても、お風呂だけは絶対に入るくらい好きだった。好きだったことが辛くなるなんて……」

 薬を飲んでも効かない日々。意識は朦朧として、霊感どころの騒ぎでもなく、倫礼は守護神の蓮ともはぐれてしまった。

 本体の倫礼ともつながることはなく、父の光秀もこない。自身の子供や兄弟もこない。

 神の名も全て忘れ、美しい世界から切り離された、魂の入っていない肉体として生き始めた。

 彼女はそれどころか、神の元から遠く離れていった。毎日していた感謝もなくなり、青の王子――光命名前さえも思い出せず、小説を書いていたことも忘れるほど、おかしくなっていた。

 それでも、歯を食いしばって、おまけの倫礼は無理にでもお風呂に入るという生活を送っていた。

 そして、立っているのが苦しいほどだったが、また結婚をして、役所への手続きは、忙しい彼に代わって、倫礼が全て行った。

 しかし、三ヶ月も経たないうちに、相手には他に好きな女ができたと言われてしまうのだった。

 年齢があってないような神世を見て、夢見心地で生きてきた十二年間。鏡の前に映っている自分は、生活も精神もズタボロな、どこからどう見ても四十代半ばのおばさんだった。

 それにもショックを受けたが、そんな見た目に左右されるような男を好きになっていたのかと思うと、倫礼はずいぶんと自分も心を大切にできない、見た目にばかりこだわる人間になっていたのだなと思った。

 霊感を使って神と話している時の、あの心を大切にする美しさは、自身の心の中から薄れていた。その証拠に、離婚を言い渡された彼女は、

(私は嫉妬してる……。昔、コウが言ってた。嫉妬するのは、その人のことを本当に愛していないんだって。だから、私は――)

 倫礼は先行きの見えない人生の中で、相手をしっかりと見据えて言った。

「わかった。離婚するよ」

 こうして、四十三歳になる前の夏に、二度目の離婚をした。
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