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最後の恋は神さまとでした

彗星の如く現れて/4

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 粉雪でも舞うように桜の花びらが、星空の下でゆらゆらと落ちてゆく日本庭園。獅子落としがカコーンと気を引き締めるように遠くから聞こえてくる。

 紫の綺麗な顔を見せる月は、南の高い位置に座して、首都の中心街の明かりにほのかに色を添える様が風流で、縁側に座って見上げている女は感動のため息をもらした。

「はぁ~、静かな夜」

 首都の喧騒ははるか遠く。段々畑のようになっている住宅街の一角。まだ発展途上で、お隣さんがいなくて、家々も少ない場所。

 コの字を描く縁側に並ぶ障子戸は乱れがなくきちんと閉められている。部屋はたくさんあるが、人の気配がしない家。

「今日も縁側から中庭を一人で眺めて、一日の大半は終わっちゃったわね」

 少し前が懐かしい。池の鯉を眺めたり、夕涼みをしたり、庭の草木をめでたり、家族で過ごすことが多かった。

「霊界から上がってきて、他の兄弟はあっという間に結婚して、この家に残ったのは私だけ」

 永遠の世界で真実の愛に出会い、独立した兄弟たち。一人残されたこの家の娘は足を組み替えて、胸に落ちてきてしまったブラウンの髪を後ろへ払う。

「家族が全員そろったのはよかったわね。死んでバラバラになってしまったから」

 自害という死に方だったが、それを悔やんでいるわけでもなく、誰かを恨んでいるわけでもなかった。だからこそ、消滅をまぬがれるだけの霊層があり、全員神の領域へと無事に上がったのだ。

 幸せだ。これ以上の幸せはない。それは神さまや家族のお陰だ。それでも、一人きりの縁側で女はため息をついた。

「でも、こんなこと言いたくないけど、寂しいわね。みんないないなんて」

 足をきちんとそろえて、夢見る少女のように頬杖をつく。縁側へ上がるための大きな石の上で、かかとを軸にして爪先を上げて下ろすと、視界が縦にガクガクと激しく揺れた。

「私の運命の出会いはどこにあるのかしら?」

 流れ星が横切り、思わず祈りそうになったが、四百年近くも生きている女ははたと気づいて、自分の幼さっぷりに恥ずかしくなった。

「いやね、私ったら暇なのかしら? 結婚しなくても生きていけるのよ、人生なんて」

 女らしさはあるのだが、サバサバとした性格で、基本的に恋愛や結婚に興味がないのが彼女だった。

 しかも、この世界へきたばかり。働かなくても生きていけるが、誰かのために何かをしたい人たちが暮らす神世。女は当面の心配を口にしようとしたが、途中で玄関のほうから男の声がした。

「それよりも仕事をどうするか考えな――」
「――戻った」

 台所で夕食の支度をしていた母が、待っていたというように幸せそうに廊下を急ぎ足で進んでゆくのがわかった。

「は~い、お帰りなさい。あなた」

 両親はいつも仲が良く、お互いを信頼しあっている。どんなことがあっても出迎えるのが母の信念でいつものことだった。

 しっかりとしたクルミ色の瞳で、女は壁にかけてある時計を見上げて、

「父上、今日遅かったわね。何かあったのかしら?」

 珍しいことが起きていた。父は非常に真面目な性格で、仕事で遅くなる時はきちんと家に連絡をしてくる。友人とどこかへ行くにもきちんと告げてゆく。何も言わずに遅くなるなど、初めてのことだった。

 ブラウンの長い髪が肩からサラッと落ちると、玄関のほうで母の歓喜が上がった。

「あらまぁ~! さぁ、上がってください」

 女は縁側から立ち上がって、障子戸に手をかけようとした。

りんちゃん、お客様よ!」
「は~い。今お茶用意します」

 母からの呼びかけで、娘はいつも通り台所へ行って、おもてなしの準備をしようとしたが、父の落ち着き払った声が待ったをかけた。

「いやいい、お前は座敷にいなさい」
「はい、わかりました」

 少し開けていた戸を閉めて、客間へと急いで縁側を歩いてゆく。障子に人影が二つ映り、

「どうぞ、そちらへお座りください」
「失礼いたします」
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