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最後の恋は神さまとでした

敵の大将は結婚なり/4

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 扇子は未だにトントンと叩きつけられ、

(みんなが傷つかない可能性はゼロに近い。だから、ボクは張飛に好きって言わないし、態度にも出さない)

 孔明の視界は涙でにじみ始める。かと思いきや、膝の上で頬杖をついて、春風みたいに柔らかく微笑んだ。

「あきらめるかも?」

 ベンチからさっと立ち上がって、

「な~んちゃって!」

 悪戯が成功した少年みたいに、ぺろっと舌を出してはにかんだ。踵を返して空港の出口へ向かって、白いモード系の服は歩いてゆく、漆黒の長い髪を揺らしながら。

「可能性はゼロじゃない。だから、叶える方法を導き出す。ボクはあきらめない。今はだた成功する可能性が低いから言動には現さない。だから、この気持ちはボクの心の中にしまっておく」

 扇子はポケットに入れて、滑るように人混みを抜けてゆく、感情をデジタルに切り捨てる孔明の頭の中はこれと同じ仕組みだった。

 朝の天気予報で雨の降水確率が0%でも、0.01%は可能性がある。
 天気予報がはずれて雨が降れば、一気に可能性は100%に上がるのだ。

 恋する軍師はそんなことが世の中にはたくさん起きるとよく知っていた。だからこそ、自分の勝手な判断で切り捨ててはいけないのだ。最後まであきらめずに、可能性を持ち続けるのだ。

(さて、どうやって、張飛と結婚しようかな?)

 孔明の最終目的はそこだ。命がけの戦争よりもある意味難しい。だからこそ、天才軍師はどうやっても攻略したくなるのだ。

 ルールはひとつ。
 みんな仲良くという法律。

 そして、戦法は……。
 永遠に続く結婚なのだから、その後の関係を良好に築ける方法となる。切り捨てられるコマとして、人を無理やり動かせない。

 神の領域へと上がった、天才軍師は知っている、恋愛の罠を張る時の第一条件を。

 それは、自分の気持ちが相手にあるのか――。孔明の場合は、あの大男とともにターミナルへと去っていった、絆という女を愛せるのか。

 しかし、それはもう答えが出ている。一ヶ月前に写メを見せてもらった時に、綺麗だと思った気持ちは本物で、最初のパーセンテージは出た。ゼロではない。あとは可能性の数値を上げてゆく方法をしてゆくだけ。

 自動ドアから外へ出て、路肩に止めた自分の車へと速足で歩いてゆく。欲望にまみれた地上で生きていた孔明は、戸惑うことなく考えをめぐらす。

(同性愛って、神さまの世界にあるのかな? ボクと張飛――男性と男性。紅朱凛と絆――女性と女性。そして、男性と女性が複数で結婚する?)

 宇宙空間という全てを記憶する頭脳の中から、孔明は必要な星――データを取り出した。

 陛下のお宅はハーレム――。

 幸先さいさきの良いスタートで、孔明は思わず声に乗せた。

「うん、女性と女性はあるのかも?」

 まさか女王陛下の性生活が暴露されることなどないのだから、不確定になるが、法律という点から考えると、十分にあり得る。ということで、孔明の中では、女性同士の性的な関係は成立するが、99.99%と弾き出した。

「ボクだけなのかな? まずはそこを調べようかな?」

 夏空に銀の宇宙船が斜め上に向かって飛び立ってゆく。輸送技術は目覚ましい発展をしていて、今は一週間弱の宇宙でも、たった一日で行けるようになる日も近いかもしれない。

 白いオープンカーのドアを開けて乗り込むと、助手席に座っていた女に声をかけた。

「紅朱凛? お待たせ。アイス食べて帰ろう?」
「スピードの出し過ぎに注意してよ?」

 車の運転は本人の性格が浮き彫りになるというが、この好青年で春風みたいな穏やかな笑みをする青年の本性は、ジェットコースターのように猛スピードで走り抜けてゆくのだ。

「今日は飛ばしたいの!」
「またそんなことを言って、子供なんだから」

 他の人が聞いたら文句に思えたが、それは頭のいい女の罠で、言葉の裏は、

 ――どうして飛ばしたいのか知ってるわよ。

 すんなり自分の考えを理解する彼女の肩に大きな手を乗せて、孔明が近づくと、服に焚きつけておいたエキゾチックな香が、女を酔わせるように漂った。

 性別関係なく相手を愛する孔明は、女が長い髪を解いたような色香を深く匂わせて、凛々しい眉と整った顔立ちで、彼女にだけ聞こえるように甘くささやいた。

お前・・の前では、子供でいいの――」

 世界が認めなくても、目の前にいる女は同性愛を認めている。

 恋する軍師の最初の作戦は、自身の彼女を大切にして、愛し続けること。つまりそれが、敵の大将――結婚へと近づける近道なのだ。

 軽くキスをして、車は急発進したかと思うと、ジェット機が離陸するように斜め上へ向かって浮かび上がり、空中道路を猛スピードで走り出した。
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