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最後の恋は神さまとでした

夏休みのパパたちは三角関係/4

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 国家機関に勤めている貴増参は、あごに手を当てて「ふむ」とうなずき、

「みんな仲良く、という法律違反が起きて、謁見の間に呼び出し、アンド地獄という独房に入れられちゃいます」

 明引呼は太いシルバーリングで、柵を叩くと、カツンカツンと冷えた音が響いた。

「っつうことは、別のとこから肉はきてるっつうことになんだろ?」
「どこからきちゃってるんでしょう?」
「調べたんだよ」
「えぇ」

 まわりに聞こえないように、カーキ色の髪に頬を寄せて、明引呼の声がしゃがれた。

「肉の生る木があって、実を取って卸してるってよ」
「そういうことだったんですね。僕たちが食べていたお肉の正体は植物だった」

 貴増参も声のトーンをいつもよりもさらに低くして、綺麗にまとめ上げた。明引呼はつめた距離を空け、子供たちが夢中になって遊んでいる姿を眺める。

「これから人口も増えてくんだろ? まだ世の中にはあんまし知られてねえってなると、そこついたほうがでっかく当てられるんじゃねえかって思ってよ。惑星ひとつ農場用に買ったぜ」

 タフで瞬発力のある兄貴に、個性的な天然ボケをする貴増参からこんな言葉がプレゼントされる。

「さすが君も、手が早い・・・・です」
「から、手は出してねえんだよ」

 明引呼は手の甲で、貴増参の素肌の腕をパシンと叩いた。

「ということは、野郎どものみんさんと一緒に、肉の生産農家をやっていくってことですね?」
「まぁ、そういうことだ。平坦な道じゃねえけどよ、がむしゃらにやりゃ、何とか見えてくんだろ」

 明引呼が見上げた先には、まるで未来を明るく照らすように、一番星が夕闇に輝いていた。

「兄貴はやはりかっこいいです」

 この男が海賊船の船長か何かで、男たちを熱く引き連れている後ろ姿を思い浮かべる。優男の自分とは違って、ずいぶん絵になるものだと貴増参は感心した。

 羽みたいに柔らかで、王子様でもおかしくない優男が言う言葉としては、妙に違和感があり、明引呼はしゃがれた声で注意した。

「貴は兄貴って呼ぶなよ」
「僕の名前は貴増参です。省略しないで呼んでくださいね♪」

 語尾がスキップするように飛び跳ねる。もう何度聞いたのかわからない言葉を、明引呼はわざと引き出させて、もうひとつの悩みは心の奥底にしまった。

「から、笑いのバリエーション増やせや」

 夕暮れとパークに灯り始めた明かりに照らし出された、パパふたりのもとに子供たちが嬉しそうに駆け寄ってきた。

    *

 激しい雨の中に一人立ち尽くしているような、テーマパークの夜のイベントを貴増参は眺めながら、物思いに窓にあるブラインドを下すような仕草をした。

 それは、完全プライベートを守るための、この世界の決まり。瞬間移動をしてくる人々。自分も含めて、相手に失礼がないよう、移動する前に心の目を相手に飛ばして、相手が何をしているのかをうかがうことができる。

 それを見られなくする方法。たとえ配偶者でも家族でも、自分の居場所を探せない。この世界の人々から完全に孤立する。神さましか知り得ない。

 貴増参はあごに手を当て、何の障害もなく今も見えるイベントをぼんやりと見つめ、一人きりでつぶやく。

「僕は独健が好きです――。友人としてではなく、奥さんを愛しているのと同じ気持ちです」

 子供たちを何人か間に挟んで、ひまわり色の短髪を持ち、はつらつとした若草色の瞳をした男の横顔をうかがった。独健は指さして、子供と一緒に笑顔を見せる。

「僕は明引呼も好きです――。しかし、彼らは奥さんもいて子供もいます。妻帯者というやつです」

 反対側へ振り返る。子供を肩車したアッシュグレーの瞳は鋭く真正面に向けられている。藤色の長めの短髪が耳元を隠すようで隠していない、チラ見せのセクシーさが、男っぽいのに誘惑する。

 貴増参はあごに手を当て、足をクロスさせて、さらに独り言を言う。

「二人のことは以前から好きではいましたが、そういう好きではありませんでした。しかし、宇宙全体が変わって、いつの間にかそういう好きになっていたんです」

 夏風が髪を柔らかくかき上げ、額の汗を拭い去ってくれる。

「僕にも奥さんと子供がいます。愛している気持ちは今も変わりません――。地上では不倫、不誠実という言葉が存在します。しかし、この世界にはそんな言葉もありませんし、概念もありません」

 自分のまわりにいる八人の子供たちと、お見合いで知り合った時から、自分へ微笑み続ける妻。幸せな家庭の中に入り込んできた、別の愛たち。

 貴増参はあごに手を当てたまま、足を軽くクロスさせた。

「僕のこの気持ちは何と言ったらいいんでしょう? 人生の哲学です」

 前代未聞の事件に巻き込まれてはいるが、優男の心は見た目と違ってとても強く、星空を見上げて問いかける。

「神さまやっちゃってる僕の、守護をしてくださってる神さまはどう思っていらっしゃるんでしょう?」

 楽し気な音楽の中で、一人きり耳を澄ます。答えを知りたくて。しかし、無情にも返事は返ってこず、貴増参はため息をついた。

「僕には霊感がないので神さまの声が聞こえません。僕はどういう運命になっちゃったんでしょう? やはり哲学です」

 人間の守護をしている神々も、人として生きている以上悩みはあり、答えの出ないものに会い、立ち止まることもあるのだった。
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