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最後の恋は神さまとでした

神が空から降りてきた/6

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「お前のために、朗報を伝えてやる」
「何?」
「こんなこともあるかと思って、お前が買った恋愛シミレーションゲームに、孔明がモデルのキャラが出てる」

 ピタリと手を止めて、まだ封をしていない段ボール箱へ移動して、澄藍は入れたゲームソフトを片っ端から取り、床に並べた。

「どれどれ?」
「これとこれだ」

 コウの小さな手が、ジャゲットのイラストを指差す。無精ひげを生やして、四十代ぐらいに見える男はどこにもいなかった。

「あれ? ひげはやしてないし、こう男っぽい感じしないね」

 生きていた頃の肖像画ともまったく違う、さわやかに微笑む十代の青年がいた。コウは恋愛シミレーションゲームの絵に本人はよく似ていると、理由を説明する。

「それは、地上で生きていた時の見た目だろう。魂だけになったら、見た目が違うのは当たり前だ!」
「好青年で、柔らかい笑顔をしてる……」

 ピンクの前髪が長めで、若草色の純真な瞳。しかも、どうやらオタクキャラだった。コウはその見た目こそが、罠なのだと明かす。

「そうじゃないと、人が疑って、罠がきちんと張れないだろう」

 木を隠すなら森の中。好青年だからこそ、策士には見えないと言うことだ。澄藍はパッケージを裏返して、

「でもさ、軍師だったんでしょ? 恋愛に軍師は関係なくない?」

 決めつけたら負ける。相手は決めつけないプロなのだから。

「お前のその考え方じゃ、孔明のキャラが話してくる会話は全部普通に聞こえるだろうな?」

 死ぬことのない神界では、相手にわかるように罠を仕掛ける月主命がみたいな人物がいても構わないが、孔明は命という再生不可能なものがある、この世界で死と隣り合わせで生きてきた人物である。わかるように罠を仕掛けてくるはずがない。

 澄藍は孔明がモデルになっているキャラクターをじっと見つめる。

「え……? 恋愛を命がけの戦争と同じに考える……? 感情を数字にする? どうなるんだろう?」

 恋愛シミレーションゲームみたいに数値化できれば、世の中片思いで悩む人はいないだろう。それができないから、人は悲しんだり失敗したりするのだ。

 この時点で思いつかないということは、数字に強いはずの澄藍の頭脳でもついていけないこと間違いなし。コウはダンボール箱の中に子供が遊ぶように入る。

「いいから、やってみろ」
「そうしよう」
「じゃあ、また――」

 銀の長い髪と青と赤のくりっとした瞳が消えかけた時、澄藍は手を大きく上げた。

「ちょっと待って! 大人は一人で神界に暮らせるけど、子供も上がってくるよね? そうなったらどうするの?」

 霊層とは年齢に関係ない。心の透明度は年齢ではない。有名だから、神さまになれるということもなく、名が世に知れぬ子供がすでにどうなっているかを、コウはすんなり言った。

「大人の神さまの子供になる」
「え? 養子ってこと?」

 物質界の感覚ならばそうなる。しかし、コウは少し声を張り上げた。

「違う! 結婚の儀式については話しただろう?」
「あぁ~、魂を入れ替えるから、夫婦でも血がつながってるのと同じだって」
「そうだ。養子の子供にも、親の魂を入れる。だから、本当の子供だ」
「素晴らしいね。神界は」

 机の上の埃を指先で拭って、ふっと息を吹きかけ、日差しの中でキラキラと舞うのを眺めながら、澄藍は珍しく微笑んだ。

 幸せがたくさん詰まった神さまの世界。たとえ、養子であろうと、差別をしない神さまなら、同じように接するのだろう。しかし存在さえも平等にしてしまうところが、やはり神の仕業だ。

 コウの上にホコリが降り注ぐが、全て彼を素通りして、現実世界の机の上に降り積もる。 

「地上での親子関係にいつまでもこだわってるやつは、神界には上がれない。そっちは修業の場なんだからな。本当に合うやつが家族とは限らない。もちろん、本当に合ってるやつもいるけどな」

 明日には、澄藍の見上げる空は、ビルに囲まれたものではなく、遠くまで見渡せて、山脈が見えるようになる。自分たちは飛行機で移動するが、荷物は貨物列車に乗せられるため、三日後にならないと再会できないのだった。
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