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最後の恋は神さまとでした
神が空から降りてきた/5
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ただ普通の暮らしをしたいだけなのに、政治情勢に左右されてしまう民。それを見ているだけで、何もしないような人間は神代に招かれるはずがなかった。
「でも、陛下はその辺の対策も十分されてる。特別任務を行う、聖獣隊。メンバーを調べてみたけど、神さまでも上層部にいた優れた人材ばかり。忠誠心もきちんとあって、うまくできた組織」
せっかくの城へ訪れた機会だ。情報を得るにはうってつけ。孔明は間違った振りをして、あちこちの部署に行っては、人々に罠を仕掛けて、政治体制を調べてきていた。抜かりなし。
仰いでいた手を止め、扇子を手のひらで綺麗に畳んだ。
「というわけで、陛下の元でのボクの仕事はない。平和である限り、戦争もないし、軍師もいらない」
生きている間の仕事は、好きでなった職業ではなかった。だからこそ今、陛下がおっしゃってくださった通り、本当に望む仕事をと思い、孔明はサッと立ち上がった。
「ボク、ずっとやりたかったことがある。だからそれをやる!」
大きく右手を上げて、ススキ畑に響き渡るように大声で言った。
「私塾を開こう!」
すると、孔明の姿はすうっと消え去り、今度は屋根の上に寝転がっていた。天井も柱も視界をさえぎるものがない青空を見上げる。
「ん~? まずは何が必要かなあ~? それを考えなくちゃ!」
城の廊下を歩いている間に、他の人々が手にしていたものや、聞こえてきた話からピックアップする。
「携帯電話。パソコンが操作できるようにならないと、難しいかも? 車が欲しい。ボク乗ってみたかったんだあ」
片肘で頭を支え、手持ちぶたさを感じる。
「それから、せんべい! とびっきり硬いやつ! これはデパートかな?」
中心街には、高級品を扱う大きな店があった。人々がそこを指差して、デパートと呼んでいたのを、孔明はもうすでに覚えていた。
新参者の自分を売り込む方法が必要不可欠の事業。自分を知らない人など数え切れないほどいる神界。それでも、孔明には多少の勝算はあった。
「宣伝は陛下がボクを呼んだことで、効果はもう大きく出てると思う。足りなかったら、やっぱりネットかな? それとも、どこかに宣伝する組織とかあるかな?」
行政に関しての総合案内所が設置されているのは確認してきた。向上心をもっている人ばかりが暮らす世界では、誰かの役に立つために何をすべきか常に考えられていて、その対策も人間界よりはるかに早かった。
孔明は屋根の上に力なくくたっと寝転がった。さっきまでそばにいた人々には今は会うことも叶わず、一人きりきてしまった世界で、少しだけ疲れが出た。
「でもまずは、眠くなっちゃっから、ふわぁ~! 寝よう。お休み~。むにゃむにゃ……」
ススキの間を駆け抜けてくる秋風に、健やかな寝息がにじんだ。太陽がないのに、西の空がオレンジ色に染まってゆく。
*
配偶者が会社役員をしていた事業は失敗し、都心のマンションから田舎へ引っ越すこととなった。澄藍は段ボール箱に荷物を詰めながら、掃除機をかけている。
「孔明が見つかったぞ!」
コウの嬉しそうな声が響きたが、澄藍は興味なさそうに手を休めない。
「はぁ? 誰それ?」
初めて聞いた名前だ。コウは小さな手で、澄藍の頭をぽかんと叩いた。
「歴史をやってこなかったから、今ごろつまずくんだ!」
「歴史上の人物ってことか……」
彼女は痛みも感じることなく、掃除機を止めた。
「諸葛亮だ! 頭が飛び切り切れる軍師だ!」
「ん~? 日本人じゃないね、その響きからして」
ますますわからない。どれが苗字でどれが名前だと、澄藍は思った。
「お前がさけた、刀でバッサバサ切るゲームによく出てるやつだ」
買っていないものを後悔しても仕方がない。澄藍はデジタルに対処して、名前も聞いたことがない人――いや、コウが話しているのだから、
「細かいことは置いておいて、神さまになれたってことは、みんなの幸せを祈った人だってことだよね?」
心の澄んだ素晴らしい人なのだろうと、澄藍は思った。コウは何も乗っていない机の上に座り、短い足を組んだ。
「当たり前だ! 頭のよさだけで、神さまになれるわけがないだろう」
「なるほどね。ネットで調べてみるか、どんな人か」
ポケットから携帯電話を取り出し、澄藍は手で操作する。出てきた記事を適当にタッチして、スクロールしてゆく。
「ん~? 何だかよくわからないけど、いろんな作戦を考えたんだ。オッケー」
どんな作戦名だったとか、そんなことを見ずに、ゲームの画像を視界の端でチェックして、ポケットに携帯電話をしまった。
恋愛シミレーションゲームに出ていたモデルの神に対しては、ウキウキで調べていたのに、この態度の変わりようったらなかった。
「お前、孔明に興味ないな?」
「かなり頭がいいのはわかった」
澄藍は掃除機のスイッチを再び入れて、作業を始めた。コウはどれだけ頭がいいのかを、彼女が感嘆するように伝える。
「光命や月主命と基本的には同じだが、レベルが違うぞ。神さまたちが絶賛したくらいだからな」
「うんうん」
振り向きもせず、引越しの作業をしている女に、コウは神さま代表として威厳を持って宣言した。
「でも、陛下はその辺の対策も十分されてる。特別任務を行う、聖獣隊。メンバーを調べてみたけど、神さまでも上層部にいた優れた人材ばかり。忠誠心もきちんとあって、うまくできた組織」
せっかくの城へ訪れた機会だ。情報を得るにはうってつけ。孔明は間違った振りをして、あちこちの部署に行っては、人々に罠を仕掛けて、政治体制を調べてきていた。抜かりなし。
仰いでいた手を止め、扇子を手のひらで綺麗に畳んだ。
「というわけで、陛下の元でのボクの仕事はない。平和である限り、戦争もないし、軍師もいらない」
生きている間の仕事は、好きでなった職業ではなかった。だからこそ今、陛下がおっしゃってくださった通り、本当に望む仕事をと思い、孔明はサッと立ち上がった。
「ボク、ずっとやりたかったことがある。だからそれをやる!」
大きく右手を上げて、ススキ畑に響き渡るように大声で言った。
「私塾を開こう!」
すると、孔明の姿はすうっと消え去り、今度は屋根の上に寝転がっていた。天井も柱も視界をさえぎるものがない青空を見上げる。
「ん~? まずは何が必要かなあ~? それを考えなくちゃ!」
城の廊下を歩いている間に、他の人々が手にしていたものや、聞こえてきた話からピックアップする。
「携帯電話。パソコンが操作できるようにならないと、難しいかも? 車が欲しい。ボク乗ってみたかったんだあ」
片肘で頭を支え、手持ちぶたさを感じる。
「それから、せんべい! とびっきり硬いやつ! これはデパートかな?」
中心街には、高級品を扱う大きな店があった。人々がそこを指差して、デパートと呼んでいたのを、孔明はもうすでに覚えていた。
新参者の自分を売り込む方法が必要不可欠の事業。自分を知らない人など数え切れないほどいる神界。それでも、孔明には多少の勝算はあった。
「宣伝は陛下がボクを呼んだことで、効果はもう大きく出てると思う。足りなかったら、やっぱりネットかな? それとも、どこかに宣伝する組織とかあるかな?」
行政に関しての総合案内所が設置されているのは確認してきた。向上心をもっている人ばかりが暮らす世界では、誰かの役に立つために何をすべきか常に考えられていて、その対策も人間界よりはるかに早かった。
孔明は屋根の上に力なくくたっと寝転がった。さっきまでそばにいた人々には今は会うことも叶わず、一人きりきてしまった世界で、少しだけ疲れが出た。
「でもまずは、眠くなっちゃっから、ふわぁ~! 寝よう。お休み~。むにゃむにゃ……」
ススキの間を駆け抜けてくる秋風に、健やかな寝息がにじんだ。太陽がないのに、西の空がオレンジ色に染まってゆく。
*
配偶者が会社役員をしていた事業は失敗し、都心のマンションから田舎へ引っ越すこととなった。澄藍は段ボール箱に荷物を詰めながら、掃除機をかけている。
「孔明が見つかったぞ!」
コウの嬉しそうな声が響きたが、澄藍は興味なさそうに手を休めない。
「はぁ? 誰それ?」
初めて聞いた名前だ。コウは小さな手で、澄藍の頭をぽかんと叩いた。
「歴史をやってこなかったから、今ごろつまずくんだ!」
「歴史上の人物ってことか……」
彼女は痛みも感じることなく、掃除機を止めた。
「諸葛亮だ! 頭が飛び切り切れる軍師だ!」
「ん~? 日本人じゃないね、その響きからして」
ますますわからない。どれが苗字でどれが名前だと、澄藍は思った。
「お前がさけた、刀でバッサバサ切るゲームによく出てるやつだ」
買っていないものを後悔しても仕方がない。澄藍はデジタルに対処して、名前も聞いたことがない人――いや、コウが話しているのだから、
「細かいことは置いておいて、神さまになれたってことは、みんなの幸せを祈った人だってことだよね?」
心の澄んだ素晴らしい人なのだろうと、澄藍は思った。コウは何も乗っていない机の上に座り、短い足を組んだ。
「当たり前だ! 頭のよさだけで、神さまになれるわけがないだろう」
「なるほどね。ネットで調べてみるか、どんな人か」
ポケットから携帯電話を取り出し、澄藍は手で操作する。出てきた記事を適当にタッチして、スクロールしてゆく。
「ん~? 何だかよくわからないけど、いろんな作戦を考えたんだ。オッケー」
どんな作戦名だったとか、そんなことを見ずに、ゲームの画像を視界の端でチェックして、ポケットに携帯電話をしまった。
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「お前、孔明に興味ないな?」
「かなり頭がいいのはわかった」
澄藍は掃除機のスイッチを再び入れて、作業を始めた。コウはどれだけ頭がいいのかを、彼女が感嘆するように伝える。
「光命や月主命と基本的には同じだが、レベルが違うぞ。神さまたちが絶賛したくらいだからな」
「うんうん」
振り向きもせず、引越しの作業をしている女に、コウは神さま代表として威厳を持って宣言した。
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