上 下
248 / 967
最後の恋は神さまとでした

神が空から降りてきた/3

しおりを挟む
「記憶が定着してからの、全ての物事を覚えており、そこから可能性を導き出して、世のため人のために策を投じ、人々に幸せをもたらした。そなたの策は完璧だった」

 孔明の功績を全て知っていると言うことだ。しかもそれは、純粋に策だけを見ればの話をしている。孔明は食い下がった。

「しかし、私の戦略ははずれ、戦いの全てに勝利はしていません。なぜ、このようなことが起こったのでしょう?」

 知りたかった、孔明は長い月日知りたかった。それでも原因は死んで突き止めた。神である陛下には、人間である自身の心の声は今も聞こえているだろう。

 陛下が予測した通り、孔明はそこを知りたがった。今の態度からして、本人は未だ対策が生み出せない。頭脳の人間には頭脳を持って制する。忠誠心を得るには、孔明の求めている答えを告げることだ。

 陛下は少しだけ珍しく微笑む。

「そなたのその考え方ならば、人間同士では十分通用する。右に出るものはおるまい。しかし、そなたは大切なことをひとつ忘れていた」
「どのようなことですか?」

 孔明はそう聞いて、ゴクリと生唾を飲み込んだ。自分がずっと考えてきたことだ、あの策が破られ、それに対してどんな対策をするべきだったのかが未だにわからないのだ。ここへ話を仕向けた陛下ならご存知だろう。

「この世界で大切なことは策ではない。心だ。人間のそなたが思ったこと考えたことは、そなたよりも霊層が上の霊や神の域のものには筒抜けだ。人を幸せにしたいと望んでいるそなたを、邪神界のものが邪魔するのは当然だ。そなたの作戦が失敗に終わるように、地上にいる人間を動かした。それは、この世界の者とっては簡単だ。つまり、そなたは考えていることを隠すべきだった――」

 自分の中で考えて、勝つ可能性の高いものを選び取れば、それは霊的な存在には次に取る言動が筒抜けなのだ。思考回路を隠す。それでは思案できないのでは?

 会いたいと思っていた人物は陛下だった。聞きたかった答えを持っているのも陛下だ。孔明は恐れ多くも正直に質問した。

「陛下は私と同じように、地上で生きていたとうかがっています。戦争を指揮する王として生きていらっしゃったとも聞いております。しかし、私のように負けることはございませんでした。邪神界に知られないために、どのような方法を用いたのですか? 神としてのお力を使われたのですか?」
「肉体を持った神はどこにも存在しない。私はそなたと同じ条件で指揮を取った」

 輪廻転生を陛下も繰り返し、下々の者の苦しみや人間としての死の恐怖、そして邪神界――悪の感情を知っているからこそ、どこまでも強く優しくいられるのだ。

「それではなぜ?」
「それはこう考えていたからだ」

 こうして、陛下の口から孔明が一番聞きたかった情報がもたらされた。

「あれがこうで、そうがああだから、こうする――だ」

 自分の記憶力なら、指示語に置き換えても、何を意味しているのかわかる。それを陛下もしていて、数々の戦いに勝利したと言うことは、自分を超えているのだ。孔明は跪いて、こうべを深く垂れた。

「参りました。陛下にお慕い申し上げます」

 自分が負けたのだ。それなのに、陛下はやはり他の上に立つものとは違っていた。

「これからは、お前の望むことをするがよい」
「暖かいお言葉ありがとうございます」

 孔明はさらに頭を深く下げた。場が静かになると、神世の住人となったと男から、天使の証である光る輪っかも立派な両翼も消え去った。

 もうここにいる誰にも自分の心はのぞかれなくなり、神――平等となった。孔明は謁見の間から速やかに出てゆく。

(恐怖政治は続かない。人々を従わせるには言葉でなく、行動で示すほうが伝わる。だから、陛下は僕の職業を命令しない)

 自分と入れ違いに、次の順番の人が呼ばれ陛下の前へ歩いてゆくのを背中にして、孔明は城の広い廊下を見渡した。

(ボクが神さま? 神さまの世界はどんなところなんだろう?)

 制服も様々なものがあり、人間だけでなく、他の種族も当たり前のように話して、笑っている世界。それに違和感を持っている、新参者の自分はまだまだ心を磨かなくてはと思う孔明だった。

 散策する。どんな政治形態なのか、どんな人々がいて、どんな話をしているのか。白い薄手の着物はゆったりと廊下を歩きながら、精巧な頭脳に記録しながら、自身の名前について考える。

(亮って漢字の意味は、明るい。ボクの名前は、孔明。重複表現だと思う)

 歩いても歩いても廊下が続き、終わりがこない広大な城。さっきすれ違った人の話では、陛下の家だけでも地球五個分あるとという、桁違いの場所。

(それに、亮の漢字のもうひとつの意味は、まこと誠実。ボク、策が成功するためなら、嘘はたくさんつくんだよね。ボクにあってないと思う……。だから、死んでからやめちゃった)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

処理中です...