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最後の恋は神さまとでした

逆順番で恋に落ちて/6

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 ささっとお猪口ちょこ徳利とっくりを慣れた感じで用意して、女ふたりはダイニングテーブルへ戻ってきた。並々と酒を注いで、男ふたりはとりあえず置いておいて、女たちの宴が始まる。

「じゃあ、カンパ~イ!」

 カツンとグラスが鳴り、それぞれの口に酒が運ばれ、魅惑のそれを飲み込むと、覚師と知礼は噛み締めるように言った。

「く~! やっぱり違うね~」
「はい。おいしいです~」

 まだまだ残っているつまみに、女たちはそれぞれ箸を伸ばし始めた。

「あのふたりの青い春はいつ終わるのかね?」
「一生続くんじゃないですか?」

 そばで一生やられるのかと思うと、覚師はイライラするのだった。

「ヤキモキするね~」
「そうですか? 私たちと同じ二千年も生きれば、考えも変わりますよ」

 正反対にのんびりとしている知礼のとぼけた顔を見て、覚師は誰かと面影を重ねる。

「あんた、うちの旦那に似てるよね、そういう落ち着きがあるとこさ」
「ありがとうございます」

 そして、永遠の世界で生きる女の悩みが披露された。

「それから、年齢四桁は嬉しくないね」
「それは、私も一緒です」
「あんた、今いくつにしてんの?」
「光さんと同じ十八歳です」
「いいね~。やっぱりさ、二桁でもかなり最初のほうが女にとっちゃ嬉しいよね」

 同僚ともよく話す話題だが、十代か二十代がいいという女以外に会ったことがないと、覚師は思った。

 未婚の女から既婚の女へ質問が飛ぶ。

「結婚って、魂を入れ替える儀式をするから、体よりも深く交わって、年齢が変わるって聞きましたけど、変わりましたか?」
「あたしは変わってないね。背も伸びたりするって話だけど、あたしはそっちも変わらなかったね」

 本当にある話で、年齢に関してはデフォルトが変わる。刺身のつまを醤油につけて、ワサビの辛味を味わいながら、知礼は旦那のことを聞く。

「夕霧さんは?」
「変わってないさ。だから、あの男ふたり、身長一緒ってことだよ」
「素晴らしいです!」

 百九十八センチの旦那と恋人。しかも、思いっきり疑惑がある男ふたり。それに加えて、うまい酒のお陰で女たちは大盛り上がり。

「そうそう。振り返ったところに、ちょうど相手の顔がある!」
「ぶつかりそうになって、目をそらす。まさしく、青春です! 時代の最先端です!」

 皇帝陛下と女王陛下の写真が飾られた棚を、ふたりで見つめた。写真に写る人物はふたりきりではなく数名いる。

 未婚の女に、覚師は興味を示した。

「あんたと光が結婚したら、変わるのかね?」
「どちらでもいいです。私は光さんについてゆくまでですから……」

 愛する恋人と永遠にという話はできるのに、一メートルほど飛び上がる驚き方をする知礼に、覚師はあきれた顔をする。

「あんた、普通に話せるのに、どうして、光の罠にはまって悲鳴上げるかね~?」
「いつそんなことがありましたっけ?」

 罠である以上、本人が気づいているはずがなかった。覚師は色っぽく微笑みながら、お猪口をクイっと傾けた。

「あんたのそういうところに、惚れたってことだね」
「え……?」

 せっかくいい感じで話が続いていたが、知礼がまぶたを激しくパチパチさせた。

「あんた、今度何を聞き間違ったんだい?」

 覚師は盛大にため息をつき、このボケている女――知礼と親睦を深めてゆく。

    *

 知礼とふたりで従兄弟の家へ、出産祝いに行った息子のいない家で、父と母は談話室のそれぞれの椅子に座っていたが、妻はふと手を止めた。

「あなた?」
「何だい?」

 光命の幼い頃の写真が飾られた暖炉の上を、妻は見つめた。

「人を愛するのに、性別や人数は関係するんですか?」
「お前も気づいていたか」

 ブランデーを傾けていた夫に、妻の視線は少し悲しげに向けられた。

「えぇ、息子のことですからね」

 『光』という名のとおり、輝いていてほしいと父は願う。

「人を愛することは、性別に関係なく尊いものだ。あのやり直しをする機関は、百次元も上から下ろしてきたものだ。神の領域で作られたのだから、何人もの人を愛することも、神さまのお導きなのだろう」

 やはり自分が愛した夫は息子も愛していた。妻は間違いはなかったと思ったが、

「それは、光にはお伝えにならなのですか?」
「光が自分でルールを作っているのだから、自身でそれを書き換えるしかない。いつか自身で気づき、変えることがあの子の糧になる」

 自分で隠してしまったものは、自分で表に出すしかないのだ。この世界は永遠だ。だからこそ、どんなに時間をかけても、大人である以上、自分で乗り越えるのだ。

 妻は星空を見上げ、神がいるであろう彼方かなたを感じながら目をそっと閉じた。

「そうですわね。私たちはあの子が乗り越えられるように祈り、静かに待ち続けましょう」
「親である私たちは、息子を受け入れるだけだ」

 どんな変化を遂げようとも、愛している息子だ。それを受け入れ、時には厳しく、時には優しくする。

 光命が住む屋敷に隣接する城。息子は応用できないでいるのだ。陛下のお宅はハーレムだということを――。
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