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最後の恋は神さまとでした
いきなりのパパ/3
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「ま、それはいいとして。今日はひとつ面白い話を持ってきたんだ」
コウはテレビの上に瞬間移動して座り、さくっと話題転換。
「お前のそばで守ってた子供が八人いただろ?」
「うん、よく話したね」
小さな神さまの足がテレビ画面に垂れ下がっても、奇跡来の現実の視界は良好で、映画を再生すると、字幕が動き出した。霊感を使った会話はまだまだ続く。
「よし、そいつらの名前を言ってみろ」
「若、乙、白、甲、葛、禄、小僧、衣菜。全てにくんがつく」
ソラで言えてしまうほど、覚えている。毎日そばにきて話していた、聖なる存在だったのだから。
コウの短く小さい足はテレビの上で組まれる。
「そのうち、本当の子供は誰だ?」
「小僧くんと衣菜くん」
「じゃあ、残りの護法童子は誰のだ? 正確に答えろ」
「若くんと乙くんが毘沙門天さん。白くんと甲くんが孔雀明王さん。葛くんと禄くんが不動明王さん」
ピンポーンピンポーンとクイズ番組の正解みたいな音が響くと、いつの間にか用意してあった薬玉がぱかっと割れ、鳩が飛び出て紙吹雪が舞った。
「正解だ! 今の六人が、それぞれの子供になった」
「あぁ、そうなんだ。よかった」
奇跡来は心の底からホッとした。あまりの安堵で、ビデオを思わず止める。
「どうしてそう思うんだ?」
聞き返すコウの赤と青のクリッとした瞳は真剣そのものだった。奇跡来の表情は曇がちになり、視線はテーブルの上に落ちた。
「前にさ、乙くんに将来は何をするのかって聞いたんだよね。だけど、僕は大人にならないから、やりたいことはないって答えてた。やけに切なくなってさ。同じ心を持った子供なのに、小僧くんと衣菜くんは大きくなってゆくのに、他の子たちは小さいまま。大人になっても友達でいるんだろうけど、何だかおかしいと思った。だから、みんなも大きく成長できるようになってよかった思う」
「そうだ。女王陛下もそう考えて、実の子供に変えたんだぞ」
奇跡来が視線を上げると、コウが偉そうに腕を組んでふんぞり返っていた。
「優しい方なんだね――っていうか、陛下はご結婚されてたんだ」
一人きりで悪を倒したと言う話は聞かされたものの、妻がいたとは初耳であった。コウは憤慨する。
「当たり前だ! 男女で治めるから世の中はうまく回るんだろう。どっちか一人でだなんてもう時代遅れだ。協力することで、一は十にでも百にもでもなるんだからな。愛は素晴らしいってことだ」
「やっぱり神さまの世界は素敵だ」
真昼の白い月が浮かぶ青空の向こうに、奇跡来は神経を傾けた。
「それから、教育熱心な女王陛下が校長先生になって、子供たちに学校を作ったぞ。姫ノ館って言うんだ」
「本当に平和になったんだね、神さまの世界も。子供が働かなくてもよくなったんだ」
自分を守ってくれた子供たちはもうここには、今までのようにこないが、それが自然なことなのだと、みんなが幸せになるためには当たり前のことだと、奇跡来は思った。
コウは横向きの8の字を描くように、ふわふわと宙を飛び出す。
「登下校は龍の神さまが子供たちを背中に乗せて、送り迎えするんだぞ」
その光景は圧巻だと思った、奇跡来は。あの数百メートルもある龍神が空を駆ける。小さな子供たちを乗せて、平和のために幸せのために。
「スクールバスならぬ、スクールドラゴン。ファンタージ世界みたいだね、本当に」
環状線沿いの歩道を見下ろすと、小学生が下校する姿が視界に入った。しかし、ここは地上で、神さまの世界とは違っていることを、奇跡来は危惧した。
「あれ? 神さまの蛇にも子供はいたよね? 話もしたし、笑ったりもしてたし」
地をはうのではなく、空中を横滑りして飛んでくる、神聖な存在――蛇神。
「差別をしないのが神界だろう? 一緒に学校に通う。他の種族もな」
姿形は違っても動物とは、神さまたちは呼ばない。動く物ではない、彼らは。人と同じように尊き存在だ。だから、他の種別と言う。
奇跡来はアニメなどの世界がそのまま広がっているのだと想像して、三十歳を迎えたというのに心踊った。
「じゃあ、猫とかは二足歩行なの?」
「そうだ。早く走る時は四足走行」
サバンナを走り抜けてゆくチーターの美しくしなやかな姿が脳裏をよぎる。それが、学校の校庭を猛スピードで駆けてゆく。
「運動会とかやったら、人の子は勝つの難しいね。飛ぶ鳥にも勝てない」
「人間はデフォルトでは何も特殊能力を持っていないからな。一番努力しなければいけない存在だ」
そう考えないから、人はおごり高ぶるのかもしれない。それを目の当たりにできる神さまの世界はやはり素敵だ。奇跡来は大いに納得して、何度も首を縦に振った。
「いいね。いろいろな姿形の人が一緒に暮らしていけるなんて、神さまの世界は夢みたいだ。ううん、夢みたいな現実だ」
「それから、イルカとかの海の生き物は、空中を泳ぐ。手足がないやつらは、念力でフォークや箸を動かす。言葉も話して、家族もいるぞ」
地球とはまったく違うのだと、どうやっても思い知らされて、奇跡来は少しずつ笑顔になってゆく。
「他の種族の人たちは、どんな価値観を持ってるんだろう?」
「それは人間の俺には説明するのは難しいからな。大人の神さまが見えるようになったら、聞いてみろ。教えてくれるかもしれないぞ」
「そうだね。いつか聞いてみよう。よし見えるように、頑張るぞー!」
奇跡来は両手を勢いよく頭の上にかかげて、気合いを必要以上に入れた。その姿を見て、コウはニヤニヤしていた。
コウはテレビの上に瞬間移動して座り、さくっと話題転換。
「お前のそばで守ってた子供が八人いただろ?」
「うん、よく話したね」
小さな神さまの足がテレビ画面に垂れ下がっても、奇跡来の現実の視界は良好で、映画を再生すると、字幕が動き出した。霊感を使った会話はまだまだ続く。
「よし、そいつらの名前を言ってみろ」
「若、乙、白、甲、葛、禄、小僧、衣菜。全てにくんがつく」
ソラで言えてしまうほど、覚えている。毎日そばにきて話していた、聖なる存在だったのだから。
コウの短く小さい足はテレビの上で組まれる。
「そのうち、本当の子供は誰だ?」
「小僧くんと衣菜くん」
「じゃあ、残りの護法童子は誰のだ? 正確に答えろ」
「若くんと乙くんが毘沙門天さん。白くんと甲くんが孔雀明王さん。葛くんと禄くんが不動明王さん」
ピンポーンピンポーンとクイズ番組の正解みたいな音が響くと、いつの間にか用意してあった薬玉がぱかっと割れ、鳩が飛び出て紙吹雪が舞った。
「正解だ! 今の六人が、それぞれの子供になった」
「あぁ、そうなんだ。よかった」
奇跡来は心の底からホッとした。あまりの安堵で、ビデオを思わず止める。
「どうしてそう思うんだ?」
聞き返すコウの赤と青のクリッとした瞳は真剣そのものだった。奇跡来の表情は曇がちになり、視線はテーブルの上に落ちた。
「前にさ、乙くんに将来は何をするのかって聞いたんだよね。だけど、僕は大人にならないから、やりたいことはないって答えてた。やけに切なくなってさ。同じ心を持った子供なのに、小僧くんと衣菜くんは大きくなってゆくのに、他の子たちは小さいまま。大人になっても友達でいるんだろうけど、何だかおかしいと思った。だから、みんなも大きく成長できるようになってよかった思う」
「そうだ。女王陛下もそう考えて、実の子供に変えたんだぞ」
奇跡来が視線を上げると、コウが偉そうに腕を組んでふんぞり返っていた。
「優しい方なんだね――っていうか、陛下はご結婚されてたんだ」
一人きりで悪を倒したと言う話は聞かされたものの、妻がいたとは初耳であった。コウは憤慨する。
「当たり前だ! 男女で治めるから世の中はうまく回るんだろう。どっちか一人でだなんてもう時代遅れだ。協力することで、一は十にでも百にもでもなるんだからな。愛は素晴らしいってことだ」
「やっぱり神さまの世界は素敵だ」
真昼の白い月が浮かぶ青空の向こうに、奇跡来は神経を傾けた。
「それから、教育熱心な女王陛下が校長先生になって、子供たちに学校を作ったぞ。姫ノ館って言うんだ」
「本当に平和になったんだね、神さまの世界も。子供が働かなくてもよくなったんだ」
自分を守ってくれた子供たちはもうここには、今までのようにこないが、それが自然なことなのだと、みんなが幸せになるためには当たり前のことだと、奇跡来は思った。
コウは横向きの8の字を描くように、ふわふわと宙を飛び出す。
「登下校は龍の神さまが子供たちを背中に乗せて、送り迎えするんだぞ」
その光景は圧巻だと思った、奇跡来は。あの数百メートルもある龍神が空を駆ける。小さな子供たちを乗せて、平和のために幸せのために。
「スクールバスならぬ、スクールドラゴン。ファンタージ世界みたいだね、本当に」
環状線沿いの歩道を見下ろすと、小学生が下校する姿が視界に入った。しかし、ここは地上で、神さまの世界とは違っていることを、奇跡来は危惧した。
「あれ? 神さまの蛇にも子供はいたよね? 話もしたし、笑ったりもしてたし」
地をはうのではなく、空中を横滑りして飛んでくる、神聖な存在――蛇神。
「差別をしないのが神界だろう? 一緒に学校に通う。他の種族もな」
姿形は違っても動物とは、神さまたちは呼ばない。動く物ではない、彼らは。人と同じように尊き存在だ。だから、他の種別と言う。
奇跡来はアニメなどの世界がそのまま広がっているのだと想像して、三十歳を迎えたというのに心踊った。
「じゃあ、猫とかは二足歩行なの?」
「そうだ。早く走る時は四足走行」
サバンナを走り抜けてゆくチーターの美しくしなやかな姿が脳裏をよぎる。それが、学校の校庭を猛スピードで駆けてゆく。
「運動会とかやったら、人の子は勝つの難しいね。飛ぶ鳥にも勝てない」
「人間はデフォルトでは何も特殊能力を持っていないからな。一番努力しなければいけない存在だ」
そう考えないから、人はおごり高ぶるのかもしれない。それを目の当たりにできる神さまの世界はやはり素敵だ。奇跡来は大いに納得して、何度も首を縦に振った。
「いいね。いろいろな姿形の人が一緒に暮らしていけるなんて、神さまの世界は夢みたいだ。ううん、夢みたいな現実だ」
「それから、イルカとかの海の生き物は、空中を泳ぐ。手足がないやつらは、念力でフォークや箸を動かす。言葉も話して、家族もいるぞ」
地球とはまったく違うのだと、どうやっても思い知らされて、奇跡来は少しずつ笑顔になってゆく。
「他の種族の人たちは、どんな価値観を持ってるんだろう?」
「それは人間の俺には説明するのは難しいからな。大人の神さまが見えるようになったら、聞いてみろ。教えてくれるかもしれないぞ」
「そうだね。いつか聞いてみよう。よし見えるように、頑張るぞー!」
奇跡来は両手を勢いよく頭の上にかかげて、気合いを必要以上に入れた。その姿を見て、コウはニヤニヤしていた。
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