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リレーするキスのパズルピース
魔法と結婚/2
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「瞬間移動する時は、他のお客様がいないかをお確かめの上、おこなっ――」
スピーンッッッ!
まるであたり一帯に氷が一瞬にして張ったような音が響き渡った。今まで聞いたこともない響きに驚き、独健は思わず自分の耳をふさいだ。
「うわっ!」
空から大きな飛来物でも落ちてきたのかと思い、はつらつとした若草色の瞳は空を見上げた。
「なっ、何んだ?」
だが、そこには満点の星空と、紫の大きな月がいつもと変わらず、壮大で魅力的な光のイリュージョンを映し出していた。しかし、独健は気づいた。音が人の声が何もかもがなくなっていたのだ。
静寂、無音、無響。冬のようなキンと澄んだ空気が広がり、遠くの音が乾いた風に乗ってきてもおかしくない感覚。それなのに、何も聞こえない。それどころか、若草色の瞳に映っている星も、何だか偽物みたいに煌きという揺れ動く光の息吹がどれにもなかった。
見上げていた顔をゆっくり下へ落とすと、ターコイズブルーのリボンも紫のマントも揺れているのは自分だけ。色はついているのに、映像の静止画と一緒だった。
「動いてない……まわりが全部、止まってる」
何かによって、時を止められたようだった。こんなことができるのは神。もしくは、魔法だろう。だが、それを使える人はそうそういない。
確かに自分の知り合いでひとりだけいる。しかし、その人は今は、多目的大ホールの楽屋で待機中のはずである。
だが、独健の他に動ける人がもうひとりいた。それはサングラスをかけた人物。その人はモデル歩きで背後からすうっと近づいてくる。
それには気づかず、独健は懸命に考える。魔法が使えない自分にとっては、時が止まっている間のことなど初体験。空前絶後の風景に囲まれながら、今の状況を打開する術を探し続ける。だがしかし、それは自身の力ではやはり元に戻せない。
「どっ、どうすれ――」
諦めずに、抗おうとしていた。けれども、そこまでだった、独健が言うことができたのは。ガバッと手首を力任せにつかまれた――
一瞬のブラックアウト。それとともに、肌を包む空気が急に変わった。この体験はよくある。よく知っている。
独健は気がつくと、明るい部屋に立っていた。風で揺れていたターコイズブルーのリボンと紫のマントは、動かす主が消え去ったことによって、今はただただ重力に逆らえず、威厳という風格を持って立ち止まっていた。
手首をつかまれたままの独健。その感触よりも、仕事場を離れ、別の場所にいる。そっちの方が大問題だった。瞬間移動をするにしても、発信地がわからなければ、到着地点との距離が測れない。すなわち、元の位置へ帰れないのだ。
「人に瞬間移動をかけられた……。どっ、どこに連れてこられた?」
キョロキョロと落ち着きなく、若草色の瞳はあたりを見渡す。何枚もの少し派手めの服がかけれたハンガーラック。反対方向には、裸電球に囲まれた鏡とその前に置かれたメイク道具たち。
独健にとっては無縁の場所。そうして、少し鼻にかかる声でやっと突っ込んだ、自分の手首から今手を離した背中を見せている人物に。
「っていうか、お前誰だ? 俺をいきなりつかんできて、勝手に移動させ――」
「俺だ」
奥行きがあり少し低めの男の声が、人々を魅了してやまない歌声のように響いた。独健はよく聞き覚え――いや最近よく聞くようになったそれを耳にして、戸惑い気味にその人の名を口にした。
「……その声……蓮?」
映画のワンシーンのように、振り向きざまにサングラスはすうっと抜き取られ、鋭利なスミレ色の瞳はあらわになった。知っている人につられてこられたのなら、どこにいようと問題はない。聞けばいいことなのだから。
独健の若草色の瞳に、黄緑色の四角い箱がふと飛び込んできた。それは、自分が昼間食べ損ねた、黄色いお弁当箱と同じようなメニューが入っていたであろう、カラのもの。
「ここ、どこだ?」
「俺の楽屋だ」
居場所さえわかればもう怖いものはない。独健のおどおどした雰囲気は息を潜め、開き直ったがごとく、ゴーイングマイウェイの銀髪の男に、あきれがありながらもイライラしている様子で、皮肉混じりの言葉を浴びせた。
「さようでございますか! 本日の主役、ディーバ ラスティン サンディルガーさん! あなたさまがファンの前にいきなり現れたら、会場は大混乱。聖獣隊だけじゃ手に負えなくなるだろう。何をしにきたんだ?」
コンサート前というお預けをくらっている状態。みんなの気持ちに、最大限の期待が膨らんでいるところ。そこに前倒しでアーティストが目の前に突如現れる。下手をすると、驚きすぎて卒倒する人が出るかもしれない。それどころか、マスコミもまた大騒ぎだろう。
『ディーバ、ゲリラライブならぬ、ゲリラ出現で多目的大ホール、ファン騒然!』
なとどいう見出しをつけられ、またテレビカメラやリポーターがディーバの元へ殺到。宣伝としては、ある意味いけているかもしれない。だが、それに配偶者や自分の子供たちが巻き込まれるという波乱を迎えるのは目に見えている。
スピーンッッッ!
まるであたり一帯に氷が一瞬にして張ったような音が響き渡った。今まで聞いたこともない響きに驚き、独健は思わず自分の耳をふさいだ。
「うわっ!」
空から大きな飛来物でも落ちてきたのかと思い、はつらつとした若草色の瞳は空を見上げた。
「なっ、何んだ?」
だが、そこには満点の星空と、紫の大きな月がいつもと変わらず、壮大で魅力的な光のイリュージョンを映し出していた。しかし、独健は気づいた。音が人の声が何もかもがなくなっていたのだ。
静寂、無音、無響。冬のようなキンと澄んだ空気が広がり、遠くの音が乾いた風に乗ってきてもおかしくない感覚。それなのに、何も聞こえない。それどころか、若草色の瞳に映っている星も、何だか偽物みたいに煌きという揺れ動く光の息吹がどれにもなかった。
見上げていた顔をゆっくり下へ落とすと、ターコイズブルーのリボンも紫のマントも揺れているのは自分だけ。色はついているのに、映像の静止画と一緒だった。
「動いてない……まわりが全部、止まってる」
何かによって、時を止められたようだった。こんなことができるのは神。もしくは、魔法だろう。だが、それを使える人はそうそういない。
確かに自分の知り合いでひとりだけいる。しかし、その人は今は、多目的大ホールの楽屋で待機中のはずである。
だが、独健の他に動ける人がもうひとりいた。それはサングラスをかけた人物。その人はモデル歩きで背後からすうっと近づいてくる。
それには気づかず、独健は懸命に考える。魔法が使えない自分にとっては、時が止まっている間のことなど初体験。空前絶後の風景に囲まれながら、今の状況を打開する術を探し続ける。だがしかし、それは自身の力ではやはり元に戻せない。
「どっ、どうすれ――」
諦めずに、抗おうとしていた。けれども、そこまでだった、独健が言うことができたのは。ガバッと手首を力任せにつかまれた――
一瞬のブラックアウト。それとともに、肌を包む空気が急に変わった。この体験はよくある。よく知っている。
独健は気がつくと、明るい部屋に立っていた。風で揺れていたターコイズブルーのリボンと紫のマントは、動かす主が消え去ったことによって、今はただただ重力に逆らえず、威厳という風格を持って立ち止まっていた。
手首をつかまれたままの独健。その感触よりも、仕事場を離れ、別の場所にいる。そっちの方が大問題だった。瞬間移動をするにしても、発信地がわからなければ、到着地点との距離が測れない。すなわち、元の位置へ帰れないのだ。
「人に瞬間移動をかけられた……。どっ、どこに連れてこられた?」
キョロキョロと落ち着きなく、若草色の瞳はあたりを見渡す。何枚もの少し派手めの服がかけれたハンガーラック。反対方向には、裸電球に囲まれた鏡とその前に置かれたメイク道具たち。
独健にとっては無縁の場所。そうして、少し鼻にかかる声でやっと突っ込んだ、自分の手首から今手を離した背中を見せている人物に。
「っていうか、お前誰だ? 俺をいきなりつかんできて、勝手に移動させ――」
「俺だ」
奥行きがあり少し低めの男の声が、人々を魅了してやまない歌声のように響いた。独健はよく聞き覚え――いや最近よく聞くようになったそれを耳にして、戸惑い気味にその人の名を口にした。
「……その声……蓮?」
映画のワンシーンのように、振り向きざまにサングラスはすうっと抜き取られ、鋭利なスミレ色の瞳はあらわになった。知っている人につられてこられたのなら、どこにいようと問題はない。聞けばいいことなのだから。
独健の若草色の瞳に、黄緑色の四角い箱がふと飛び込んできた。それは、自分が昼間食べ損ねた、黄色いお弁当箱と同じようなメニューが入っていたであろう、カラのもの。
「ここ、どこだ?」
「俺の楽屋だ」
居場所さえわかればもう怖いものはない。独健のおどおどした雰囲気は息を潜め、開き直ったがごとく、ゴーイングマイウェイの銀髪の男に、あきれがありながらもイライラしている様子で、皮肉混じりの言葉を浴びせた。
「さようでございますか! 本日の主役、ディーバ ラスティン サンディルガーさん! あなたさまがファンの前にいきなり現れたら、会場は大混乱。聖獣隊だけじゃ手に負えなくなるだろう。何をしにきたんだ?」
コンサート前というお預けをくらっている状態。みんなの気持ちに、最大限の期待が膨らんでいるところ。そこに前倒しでアーティストが目の前に突如現れる。下手をすると、驚きすぎて卒倒する人が出るかもしれない。それどころか、マスコミもまた大騒ぎだろう。
『ディーバ、ゲリラライブならぬ、ゲリラ出現で多目的大ホール、ファン騒然!』
なとどいう見出しをつけられ、またテレビカメラやリポーターがディーバの元へ殺到。宣伝としては、ある意味いけているかもしれない。だが、それに配偶者や自分の子供たちが巻き込まれるという波乱を迎えるのは目に見えている。
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