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リレーするキスのパズルピース

手紙と不意打ち/4

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 即行ツッコミを受けた明引呼のウェスタンブーツは、丸テーブルの足をガツンと横蹴りすると、

「知ってんじゃねぇか」

 赤い四角いものがズレて、床に向かって落ち始めたが、すぐに消えまたテーブルの上に、さっきの転落事故は無関係ですみたいな顔で乗っていた。

「結婚して、女性のあごがれ若返り。そちらをして、今は二十三歳です。ですが、実年齢はいくつでしょう?」

 面倒臭そうに、明引呼は長いジーパンの足をテーブルの上にドカッと乗せると、反動で赤い箱が少しふわっと持ち上がり、今の飛び上がり事件は無関係ですみたいな顔で平和に元の位置にいた。

「それは前に話しただろうがよ」
「ふむ。二千十七年、君も長く生きています」

 すぐ隣に立つ深緑のマントをつけた男を通して、明引呼はもう一人――あのひまわりの色の短髪とはつらつとした若草色の瞳をした男を思い浮かべた。

「独健は、てめえの一年下だろ?」
「そうです。よく知ってますね」

 カウボーイハットを顔の上に乗せ、帽子からはみ出している唇で、明引呼は鼻歌を歌うようにフリーダムな感じで言う。

「独健《あれ》とはガキつながりだからよ。大抵のことは話してんぜ」

 貴増参の白い手袋はあごに当てられ、ふむと首は縦に振られた。

「いわゆる、パパ友ですね」
「世間一般じゃ、そう言うんだろうな」

 さっきとは違って、明引呼の声は黄昏たそがれていた。優しさの満ちあふれたブラウンの瞳には、ロッキングチェアに寝そべっている男の、ベルトのバックルについているバッファローが、腰元という色気を引き出すように映っていた。

「パパ同士が……ですか」

 貴増参もシリアスに感慨深くつぶやいて、農場に広がる木々が風で揺さぶられるのをしばらく眺めていた。平和そのものなのに、身近な出来事はそうではないのだ。

 部下のコンドルが鳴く、ヒュルルーという声を合図みたいにして、明引呼が途切れていた会話を再開させた。

「まったくよ。人生、何があっかわからねぇから、面白インタレスティングなんだよ」

 また途切れてしまった言葉。カウボーイハットは顔から外され、ぽいっと丸テーブルの上に投げ置かれそうだったが、不意に吹いてきた夏の風にさらわれ、どこかへ飛んでいきそうになった。しかし、すぐに姿を消し、丸テーブルの上に無事に置かれていた。連れ去り事件など知らないという顔で。

「用件それだけじゃねぇだろ、何だよ?」

 アッシュグレーの鋭い眼光は、隣にさっきから立っている国家機関の制服を着た男の柔らかで上品な顔に向けられた。だが、シリアスシーン台無しな言葉がやってくる。

「今までの話は前置きということで、ここからが本題です」
「自己紹介だったってか?」

 明引呼のあきれた声が響き渡った。貴増参は両腕を腰の後ろで軽く組み、黒のロングブーツのかかとを木の床の上でトントンと恥ずかしそうに鳴らしながら、さらにこんな言葉を口にした。

「そこは見て・・見た・・ふりをしてください」

 カウンターパンチ並みに即行ツッコミ、明引呼から。

「それは、見て見ねえ・・・・・ふりだろ。実際見てんだから、ふり・・は余計なんだよ」

 崩壊し始めていた会話が、兄貴によってリセットされた。しかし、次々にやってくるボケという名の攻撃が。貴増参はリアクション薄めの驚いた声を出し、照れ笑いをする。

「あ、そうでした。僕としたことが失念してました」
「ああ?」
「僕と君もパパ友でした」
「今さら、何言ってやがんだ?」

 さっき終わったはずの話題がぶり返されそうだったが、太いシルバーリング三つをつけた右手が上げられ、レイピアの柄の近くでシルバー色をなめるようにトントンと軽く叩いて阻止した。

「それはいいからよ、話先に進めろや」
「実はこれを君に渡すように、ある人から頼まれたんです」

 白の手袋につかまれ、鋭いアッシュグレーの眼光の前に現れたのは、可愛らしさの象徴でもある桃色の四角いものだった。厚さは数ミリ。帽子のつばを上げて、明引呼はうさん臭そうな顔をする。

「ああ、紙ってか?」
「手紙です」

 仕事をわざわざ抜け出してきた用事。それがこれ。明引呼は貴増参から受け取り、顔の真正面に持ってきた。指先につまんだまま、角度をあちこちに変えて眺め始める。

「大人なら誰でも瞬間移動テレポーテーションできる、このご時世じせいに、手紙レターってか?」

 誰かに会いに行こうと思えば、すぐに会いに行ける。それでも、手紙を出す人がいる。きな臭い奇怪な出来事が起きていた。

「えぇ、僕の願いを聞く代わりにと言って、君に渡すようにから頼まれたんです」
はいっぱいいやがんだよ。どいつからだよ?」
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