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後ろから抱きしめて!
Case1
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今妻の背後の身廊には横並びに、夫たちがそれぞれのタキシードを着て控えていた。振り返ることは許されていない颯茄は、何度か呼吸を整えて目をそっと閉じる。
「後ろから抱きしめて!」
「イェーイ!」
旦那たちの掛け声がかかると、静寂が広がった。
真っ暗な視界の中で、足音が聞こえてきた。近づいてくる。近づいてくる。颯茄ははやる気持ちを抑えながら、背中から腕を回される時を待つ。
靴音が大きくなってきて、もうすぐそこと言うところで、フワッと抱きしめられた。もう回答時間が始まっている。一分で答えなければいけない。颯茄は思う。
(普通すぎる……)
歩いてきて、抱きしめる。靴音が聞こえるのも、感触も何もかもが正常で、相手の正体をつかむほつれが見つからない。気持ちだけが空回りする。しばらくすると、
「あと、三十秒っす」
張飛の声が割って入ってきた。ルール通り目を開ける。相手の髪の色がわかるわけでもなく、ただ抱きしめている服の色はわかった。アクアグリーン。
妻は苦笑する。この色を着て似合う人は誰か。候補がしぼり込めない。
「あと十五秒っす」
やはり無謀なゲームだったのか。妻は後悔するよりも、必死になって自分を鼓舞する。
(考えて、考えて!)
そこで、夕霧命の地鳴りのように低い声を思い出した。ピンとひらめいた。
人を見抜く方法――
もう一度よく思い返してみる。足運びはどんなだったか。早足だったのか、ゆっくりだったのか。
ゆっくりだった。
そうなると、落ち着きのある人になる。やる気や感情を持っている人――光命、孔明、明引呼、貴増参、独健、張飛ははずれる。
「あと十秒っす」
トレースシートを重ね合わせるように、残りの旦那たちと合わせるが、颯茄は見つけることができなかった。そうなると、さっきはずした中にいる。
感情もあるが、落ち着きもある人――答えが出た。
「貴増参さん」
「正解です」
羽布団みたいに柔らかな声がすぐ背後から聞こえ、相手がスマートに前へ回り込んできた。胸にコサージュをつけた、いつもよりも王子様に見える貴増参がにっこり微笑んでいた。
「見事当てちゃった君には、キスのプレゼントです。キラッキラしちゃってください」
「はい」
祭司の不機嫌な咳払いが割って入った。
「んん! 誓いの言葉を言ってからです」
貴増参は少し肩をすくめて、いつもと違って真剣な顔をした。
「君の人生には色々なことが起きます。その中で変化してゆくこともある。それでも、僕は君がどんな君になろうとも、様々な困難から守り、愛すると誓います」
「ありがとうございます」
軽くキスをして、ワンゲーム無事に終了した。
「理由はどうしてっすか?」
「ゆっくり歩いてきたので、落ち着きのある人だと思ったんです。で、胸の気の流れを持っていない人を探したんですけど、霊的な印象が合わないんで、慌てて、はずしてしまった候補の中で、落ち着きも持ってる人を見つけました」
旦那たちから拍手が起こり、妻はウッキウキでまた正面を向いた。
「後ろから抱きしめて!」
「イェーイ!」
旦那たちの掛け声がかかると、静寂が広がった。
真っ暗な視界の中で、足音が聞こえてきた。近づいてくる。近づいてくる。颯茄ははやる気持ちを抑えながら、背中から腕を回される時を待つ。
靴音が大きくなってきて、もうすぐそこと言うところで、フワッと抱きしめられた。もう回答時間が始まっている。一分で答えなければいけない。颯茄は思う。
(普通すぎる……)
歩いてきて、抱きしめる。靴音が聞こえるのも、感触も何もかもが正常で、相手の正体をつかむほつれが見つからない。気持ちだけが空回りする。しばらくすると、
「あと、三十秒っす」
張飛の声が割って入ってきた。ルール通り目を開ける。相手の髪の色がわかるわけでもなく、ただ抱きしめている服の色はわかった。アクアグリーン。
妻は苦笑する。この色を着て似合う人は誰か。候補がしぼり込めない。
「あと十五秒っす」
やはり無謀なゲームだったのか。妻は後悔するよりも、必死になって自分を鼓舞する。
(考えて、考えて!)
そこで、夕霧命の地鳴りのように低い声を思い出した。ピンとひらめいた。
人を見抜く方法――
もう一度よく思い返してみる。足運びはどんなだったか。早足だったのか、ゆっくりだったのか。
ゆっくりだった。
そうなると、落ち着きのある人になる。やる気や感情を持っている人――光命、孔明、明引呼、貴増参、独健、張飛ははずれる。
「あと十秒っす」
トレースシートを重ね合わせるように、残りの旦那たちと合わせるが、颯茄は見つけることができなかった。そうなると、さっきはずした中にいる。
感情もあるが、落ち着きもある人――答えが出た。
「貴増参さん」
「正解です」
羽布団みたいに柔らかな声がすぐ背後から聞こえ、相手がスマートに前へ回り込んできた。胸にコサージュをつけた、いつもよりも王子様に見える貴増参がにっこり微笑んでいた。
「見事当てちゃった君には、キスのプレゼントです。キラッキラしちゃってください」
「はい」
祭司の不機嫌な咳払いが割って入った。
「んん! 誓いの言葉を言ってからです」
貴増参は少し肩をすくめて、いつもと違って真剣な顔をした。
「君の人生には色々なことが起きます。その中で変化してゆくこともある。それでも、僕は君がどんな君になろうとも、様々な困難から守り、愛すると誓います」
「ありがとうございます」
軽くキスをして、ワンゲーム無事に終了した。
「理由はどうしてっすか?」
「ゆっくり歩いてきたので、落ち着きのある人だと思ったんです。で、胸の気の流れを持っていない人を探したんですけど、霊的な印象が合わないんで、慌てて、はずしてしまった候補の中で、落ち着きも持ってる人を見つけました」
旦那たちから拍手が起こり、妻はウッキウキでまた正面を向いた。
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