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大人の隠れんぼ=妻編=

可愛い休憩時間

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 その時だった。玄関の両開きのドアが、バターンと勢いよく開いて、小さい人たちが津波のように、ドッと家の中に押し寄せてきたのは。

「ただいま~!」
「帰ってきたよ~!」

 颯茄は現実に引き戻され、さっと後ろへ振り返った。龍先生の背中に乗って、学校から帰ってきた子供たち。

 妻は一気にママに早変わり。今日も学校でいいことがあったのが、誰の顔を見てもよくわかり、颯茄はさっとしゃがみこんで出迎えた。

「お帰り~!」

 時間などはかっていない。最初が何時だったのかも知らない。それでも、気になって、ポケットから携帯電話を取り出した。

「十六時すぎだ」

 超適当。子供たちの帰ってくる時刻は、二種類ある。週休三日制の学校。木曜日と日曜日は、一時間遅い。学校はきちんと同じ時刻で終わる。龍先生の飛行能力は優れている。よほどのことがない限り、同じ時刻に家に到着するのだ。

「今日、何曜日?」

 携帯電話の時計に気を取られているママに、チビッ子から可愛くツッコミがきた。

「日曜日~!」
「月パパが今いるから、木曜日じゃないよ」

 ボケているのが、颯茄ママ。しっかり者の子供もいるのだ。女装夫のマゼンダ色の長い髪をチラッと見て、颯茄はうんうんとすぐに納得した。

「あぁ、そうか。木曜日は月さん、クラブの顧問でもっと遅いもんね」

 温泉クラブの顧問。みんなで温泉に入りに行ったり、熱く語ったりするクラブ。お笑いをするには絶好のシチュエーション。そんな理由で入っている子供も多くいる。昔からあるメンバーが多いクラブ。

「颯ママだ~!」

 滅多にそばにこないママ。チビたちにあっという間に囲まれた。

「元気にしてた?」
「うん、してたよ~」

 子供が本当にたくさん増えた。それぞれ髪の毛の色が違う子供たち。結婚式という儀式で、十一人の親の魂は全員に入っている。つまりは、血がつながっているのと一緒。

 それでも、習慣はすぐには変わらない。家庭ごとのルールの中で、別の生活を送ってきた。だがこうやって、仲良く寄り添って、ここにいるのは、彼らが一人一人努力して、築き上げた絆の賜物たまものだ。ママは単純によかったと思うのだ。みんなの幸せが続いてゆくのなら。

 まわりを囲まれてしまい、しゃがみ込んだまま、隠れんぼのことなどすっかり忘れた颯茄。彼女のピンクのレースカーディガンがふと引っ張られた。

「……ママ?」

 妙に控えめな呼びかけ。いろんな子がいる。自分は滅多に彼らに会わない。だから、話しにくい子もいるだろう。笑顔で対応だ。

「どうしたの?」

 いちいち名前を覚えていない。今や我が子は二百人に迫る数なのだから。だが、ふんわりとした品のあるタイプの子だった。

「おやつ一緒に食べよう?」

 そんな誘いは今まで受けなかった。勝手にダイニングまで猛ダッシュして走り去ってゆく。小腹が空いている子供たち。

 それなのに、一緒に食べようと言ってくる。だが、そんな気持ちもあったのだなと、気づかなかったなと。すぐに納得し、颯茄は笑顔でうなずいた。

「うん、いいよ」

 立ち上がって、小さな人たちに囲まれながら、終了した隠れんぼから、帰っていこうとすると、月命の凜とした澄んだ儚げで丸みのある声が背中からかかった。

「颯?」
「はい?」

 子供に手を引っ張られながら、颯茄が振り返ると、月命がニコニコの笑みでこんなことを言う。

「五分で戻ってきてください。もう一回やりますから」

 単純に隠れんぼは楽しかった。夕飯は六時から。今は四時過ぎ。もう一回やるなど、別に不思議でもなく、颯茄は快く返事を返した。

「あぁ、はい」

 ダイニングへ歩きながら、別の子がいいことを知っていると言うように、得意げに話しかけてきた。

「ママ~、今日ね、隆醒りゅうせいくん、お誕生日会だって」

 隆醒が友達の誕生日会に招待された。夕飯はいらない。パーティー開始は五時から、終了は八時。プレゼントを用意して楽しんでくる。

 お返しのケーキが夜食で待っている。兄弟の自分たちも、ケーキが食べられて嬉しい。子供の話はこの意味。

 隆醒と言えば、我が子の中では、一番長い付き合いのある子供だ。しかし、最初の夫にそっくりで、個性的な我が息子。

「あぁ、そう。蓮に似てリアクション薄くて、口数も少ないから、友達どうかなと思ってたけど、そうか、そうか。仲良くなって……」

 颯茄の声がどんどん遠くなってゆく。月命のヴァイオレットの瞳には、時々振り返って、こっちに手を振っているチビッ子が何人かいて、それはダイニングに入るまで続いていた。
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