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時限爆弾ケーキ

お題に答えて/3

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 漆黒の長い髪は頭の高い位置で結い上げても、なお腰までまでの長さがある。凛々りりしい眉が、春の陽射しのような穏やかな雰囲気を引き締める。聡明な瑠璃紺色の瞳の持ち主は、こんなことを言ってきた。

孔明こうめい。職業は三国で争ってるうちの一国のエロエロな軍師だよ~」
「お前もまた……」

 夫たちはあきれ顔をした。平和な帝国で、軍師などという職業はないのだ。妻は再び違和感を抱いて、首をかしげる。

(あれ? 孔明さんが答えないなんて、おかしいなぁ~?)

 何かが起きているようだったが、

(でもまあ、ここは笑いを取って……)

 颯茄は決断した、スルーという笑いの前振りを。

「はい、じゃあ、次」

 進もうとする妻に、孔明から間延びしたおねだり。

「あれ~? りょうちゃん、拾ってくれないの~?」
「拾うんですか?」
「そうしてほしんだけどなぁ~」
「軍師は前の職業ですよね?」

 時限爆弾始動中のため、ここも後日へと説明は回されたが、孔明の言葉はおかしい限りだった。

「ふふっ。そうかも~?」

 念を押したのに、不確定を返してきた夫。妻は夫の手強さに気づかず、もうひとつの回答のおかしさに焦って飛んでしまった。

「しかも、エロエロじゃないですよね? 孔明さん」

 ここで即行、夫たちから待ったの声がかかった。

「颯、知らないのか!」
「え、どういうこと? みんな」

 椅子から立ち上がりはしないが、妻は身を乗り出して、夫たちを見渡した。

「光の次にエロなんだけど……」

 自分でも言っていたが、優雅な王子でも全然おかしくない、夫の冷静な水色の瞳をじっと見つめて、妻はガッツポーズを取った。

「なるほど、夫だけの秘密だったんですね。情報ゲットです!」
「なぜ、情報を収集している?」

 夫たちからの追求も、妻は無視して、夫婦関係に変化を加えた。

「はい。じゃあ、今日から光さんと同じで、孔明さんもスーパーエロに格上げです」
「上げなんだ……。うちの奥さんの好みがそれなんだな」

 数人の夫たちが妻の情報を手に入れたところで、一旦それぞれお茶飲みタイムに入った。

 光命の神経質で細い指先は、あごに当てられる。それは彼の思考時のポーズ。
 焉貴の何重にもかけてあるペンダントがチャラチャラと鳴らされる。いつもの癖。
 月命は何かを考えているようで、彼の思考時のポーズ、人差し指をこめかみに突き立てる。
 孔明の爪は聡明な瑠璃紺色の瞳で見つめられる。これもいつもの癖だった。

 それぞれの茶器が置かれたのを見計らって、一番最後に結婚した夫が仕切り直しをした。

「そろそろ次っすか?」
「オレか?」

 さっきからショットで一杯やっていた夫が、しゃがれた声で聞き返した。颯茄は小さくうなずく。

「はい、お願いします」

 その夫はガタイがよく、藤色の長めの短髪。鋭いアッシュグレーの眼光。どこからどうみても男の色気が漂う夫。ハングリー精神旺盛なボクサーのようなキリッとした顔立ちだが、目はキラキラと輝いていて、イケメン度バッチリだった。言葉遣いはこの中では一番砕けているが、義理人情に熱いところも見て取れる。

「これよ。名前ふたつあっ時はどうすんだ?」
「じゃあ、両方答えてください」

 妻に先を促され、夫は程よい厚みのある唇の端でふっと笑って、

「本名が明引呼あきひこで、役職名が孔雀大明王くじゃくだいみょうおうだ。仕事は、RPGゲームの攻撃系だ」

 笑いばっかり取ってきやがる夫どものお陰で、マジで進みやしない。役職名なのかと問いつめたいような名前だったが、職業に全員引っかかってしまった。

 颯茄と鼻声の夫がびっくりして、椅子から立ち上がった。

「えぇっ!?」

 焉貴は笑いもせず、それどころかアンドロイドみたいに無機質だった。

「二次元から三次元に出てきちゃった」
「どうなっている?」

 一番言葉数が少ない夕霧命が不思議そうな顔をしたが、颯茄は椅子に座り直して、時限爆弾という焦りが、彼女を急かすのだった。

「ファンタジーな人たちなので、いいです。もうそれで……」

 誰が拾ってやるものか。まだあと三人残っているのだ。

「そこは突っ込まないんだ」

 夫たち全員のため息がつかれると、カーキ色のくせ毛の短髪で、優しさの満ちあふれたブラウンの瞳を持つ夫が、羽布団みたいに柔らかで低めの声で明るさマックスで話し出した。

「僕の出番がやってきちゃいました」

 こう言った夫は肩幅はきちんとあるのだが、柔らかな印象で上品さを持ち合わせており、王子様と言っても過言ではなかった。こほんとわざとらしく咳払いをして、油断も隙もないことを言う。

「本名は貴増参たかふみです。役職名は火炎不動明王かえんふどうみょうおうです。職業は放課後、体育館の裏にきな! です」

 夫たちも手強てごわかった。同じネタだろうと、笑いを取りたいのは、取りたいのである。役職名よりもインパクト大の、放課後の呼び出しみたいなものに、みんなの意識は持っていかれた。

「それ、職業じゃないだろう!」

 めちゃくちゃなのである。次の番を待つ夫から派手にツッコミ。フルーツジュースをすすっていた高校教師焉貴は無表情のままで、

「学校の何か見過ぎなんじゃないの?」
「どこからそのセリフ出てきたんですか?」

 妻からの質問に、貴増参はたいそう満足げに微笑んだ。

「一度言ってみたかったんです」

 颯茄はとにかく、情報収集したくて、「あぁ、そうですか。じゃあ、次の人お願いします」半ば強引に先に進めた。

 ひまわり色のギザギザとした縁を持つ短髪。はつらつとして純粋な若草色の瞳。目鼻立ちの整ったイケメンだった。鼻にかかる高めの声で、

「お、俺は、明智 独健どっけんで……す?」
「あははははっ!」

 どっと笑い声が上がった。即行、焉貴のまだら模様の声でツッコミがくる。

「何で、お前、自分のこと疑問形になってんの? それ、俺の特権なんだけど……」

 明るい食卓になったが、独健の間違った理由はごくごく普通のものだった。

「いや、だから、こういうの初めてだから……」
「まあ、そうね。自分ちで自己紹介するなんてないね」

 焉貴はやはり笑いもせず、真顔で今度は皇帝みたいな威圧感で言ってのけた。妻の情報収集をするという思惑に左右されてしまった独健は気の毒な限りだった。

「だろう? だから、敬語かどうか迷った結果が、さっきのだったんだが……」

 しかし、妻も鬼ではない。独健の意思を汲んで道筋を示した。

「じゃあ、敬語で答えてください」
「そうか。独健です。職業は……????」

 順調に答えようとした夫だったが、苦渋の表情にすぐに変わった。妻は異変を見て取って、両手を胸の前で左右に振る。

「いやいや、何で考えるんですか?」

 真面目に答えてこない夫たち。それは、独健に多大な影響をもたらしていた。

「あ、あぁ。みんな笑いを取ってるから、俺も取らないといけないかと思って考えてたんだが、うまくいかなくて……」
「真面目に答えればいいんです」

 妻の助け舟に乗せられ、独健はさわやかに微笑んだ。

「そうだな。国の特殊部隊を担当してる聖獣隊に所属してます」

 残り一人。颯茄は手に汗を握りながら、口早に進める。

「はい、じゃあ、最後の人」
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