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夫婦の寝室
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月明かりが差し込む、薄暗い部屋の中で、颯茄の声が拍手とともに浮かび上がった。
「めでたし、めでたし!」
結婚した順番にベッドに入っていた焉貴が、少し離れたところから言った。
「何、お前、一人でさっきからしゃべってんの? 躁状態じゃないの?」
「躁だけに、そうそう!」
完全に病状が悪化しているのに、ノリノリの颯茄を前にして、夕霧命の噛みしめるような笑い声が聞こえてきた。
「くくく……」
「早く寝ろや、ダジャレ言ってねぇで」
薄闇の中から、明引呼の言葉がジャブを放ってくる。颯茄のテンションは少しだけ下がった。
「あれ? 受けたの、夕霧さんだけ? 全員笑わせるのって難しいね」
「ボク笑わないもん」
確かに孔明が声高らからに笑っているところなど、結婚してから見ていない――というか、冷静な彼がそんな笑い方をするとは想像がつかない。
「僕も笑いません」
妻は即行突っ込んだ。
「いやいや! 月さん、私の顔を横に引っ張って、吹き出し笑いしてたじゃないですか~!」
「ぷぷぷっ」
瞬間移動と浮遊を駆使して、妻の真上に月命はお化け並みに出てきて、彼女の頬を横は思いっきり引っ張って笑った。
「蓮はこいつのことで笑ったことあんの?」
「ない」
焉貴や月命の前では、口を大きく開けて大爆笑をしていると聞くのに、妻の前ではさっぱりなのだ。どちらかというと、
「そう、私の前では火山噴火して怒ってるだけ。あ、でも、光さんと一緒の写真を見た時は、ちょっと嬉しそうに笑ってた」
「私の前では蓮は笑いますよ」
愛しい姫の前に跪くような、光命が蓮を間に挟んだ向こう側で告げた。貴増参が少し離れたところで同意する。
「僕の前でも笑います」
「俺の前でも大爆笑してるね」
焉貴が締めくくると、妻はとても切なくなった。
「そうですか。妻の愛はなくて、旦那への愛はあるってことだ」
「颯茄さん、大丈夫っす。俺っちも笑ってるのを見かけたことがあるだけっすよ」
「あ、同じ人いた」
喜んだのも束の間、張飛は結婚してから日にちが短いのだ。颯茄はおまけの倫礼の時からの時の付き合いで、もう十年近くになると言うのに、笑顔を見せたもらったことがないなど言語道断。
というか、そんなことよりも、妻は今の会話の中でいい話を拾ってしまったのだ。
「孔明さんの笑ってるのは見たことないけど、怒ってるのは見たことある! もう、ぷんぷんだよ! って、張飛さんについて怒ってた」
少しの間が空いて、見えないながらもベッド間の空気が微妙に変わった。張飛はため息をつく。
「あれはもうすんだことっす」
「あぁ~、何か思い出して、むしゃくしゃしてきた! ボクの重要書類、子供たちの飛行機にしないで!」
大先生は家では、子供っぽいところがある。ひどく怒りに駆られていた。
「喜んでたっすよ」
気にした様子もない張飛と孔明のいつかの喧嘩がまた始まってしまう予感がして、颯茄は気まずそうな顔をした。
「余計なこと言ったかも」
もう就寝時間だ。妻はできるだけ優しい声を出した。
「まあまあ、孔明さん、子供たちも寝静まったことですから、寝ましょう」
恐ろしいくらい冷静な孔明はデジタルに話題を転換する。
「そういえば、颯ちゃん、最近はまってるゲームどうしたの?」
「やってますよ。その中に出てくるキャラクターで一人、気に入った人がいるんです」
なかなかどうして面白いのだ。
「それって、この世界にいる人がモデルなんじゃないか?」
レシピ本を読んでいた独健が初めて会話に参加した。
「え、そうだとしたら、会いたいですね」
不倫と言われてしまうところだが、みんなの結婚の仕方を体験した今となっては、明智家はどこの家よりも、もうひとつの愛に寛大なのだった。
「会えるといいですね♪」
貴増参の語尾がスキップするような口調の後に、どうでもよさそうな旦那たちの声が賛同した。
「そうだね」
「何? 貴増参さん以外、みんなして気のない返事をするんですか」
今からそのゲームをやろうとしたところなのに、やけに気になる言い方をするではないか。妻はあちこちを見回したが、最後の明かりを消した部屋では輪郭がうっすら浮かぶだけで、みんなの表情は見えなかった。
「はい、寝るよ」
高校教師の焉貴が仕切ると、ガサガサと布団がすれ合う音がした。
「何だか釈然としないけど、まあ、お休みなさい」
ゲームをやってから、寝落ちするのが気分がいいのだ。妻は一人でやろうとすると、光命が近寄ってきた。
「おやすみのキスがまだですよ」
「あれ? そんなのいつもしてましたっけ」
笑いそうになるのと必死にこらえて、颯茄は真面目な顔で聞き返した。
「あ、とぼけてる」
「いや、だって、十人一緒は……」
夫たち全員から抗議の声が上がったが、颯茄は懸命に訴えかけようとしたが、一斉に旦那たちが寄ってきて、埋もれてしまった。
「……むごごご!」
こうして、妻からの馴れ初め話の語りは終わり、今日は静かな夜が広がり、新しい愛の形は人々へ浸透してゆくのだった。
「めでたし、めでたし!」
結婚した順番にベッドに入っていた焉貴が、少し離れたところから言った。
「何、お前、一人でさっきからしゃべってんの? 躁状態じゃないの?」
「躁だけに、そうそう!」
完全に病状が悪化しているのに、ノリノリの颯茄を前にして、夕霧命の噛みしめるような笑い声が聞こえてきた。
「くくく……」
「早く寝ろや、ダジャレ言ってねぇで」
薄闇の中から、明引呼の言葉がジャブを放ってくる。颯茄のテンションは少しだけ下がった。
「あれ? 受けたの、夕霧さんだけ? 全員笑わせるのって難しいね」
「ボク笑わないもん」
確かに孔明が声高らからに笑っているところなど、結婚してから見ていない――というか、冷静な彼がそんな笑い方をするとは想像がつかない。
「僕も笑いません」
妻は即行突っ込んだ。
「いやいや! 月さん、私の顔を横に引っ張って、吹き出し笑いしてたじゃないですか~!」
「ぷぷぷっ」
瞬間移動と浮遊を駆使して、妻の真上に月命はお化け並みに出てきて、彼女の頬を横は思いっきり引っ張って笑った。
「蓮はこいつのことで笑ったことあんの?」
「ない」
焉貴や月命の前では、口を大きく開けて大爆笑をしていると聞くのに、妻の前ではさっぱりなのだ。どちらかというと、
「そう、私の前では火山噴火して怒ってるだけ。あ、でも、光さんと一緒の写真を見た時は、ちょっと嬉しそうに笑ってた」
「私の前では蓮は笑いますよ」
愛しい姫の前に跪くような、光命が蓮を間に挟んだ向こう側で告げた。貴増参が少し離れたところで同意する。
「僕の前でも笑います」
「俺の前でも大爆笑してるね」
焉貴が締めくくると、妻はとても切なくなった。
「そうですか。妻の愛はなくて、旦那への愛はあるってことだ」
「颯茄さん、大丈夫っす。俺っちも笑ってるのを見かけたことがあるだけっすよ」
「あ、同じ人いた」
喜んだのも束の間、張飛は結婚してから日にちが短いのだ。颯茄はおまけの倫礼の時からの時の付き合いで、もう十年近くになると言うのに、笑顔を見せたもらったことがないなど言語道断。
というか、そんなことよりも、妻は今の会話の中でいい話を拾ってしまったのだ。
「孔明さんの笑ってるのは見たことないけど、怒ってるのは見たことある! もう、ぷんぷんだよ! って、張飛さんについて怒ってた」
少しの間が空いて、見えないながらもベッド間の空気が微妙に変わった。張飛はため息をつく。
「あれはもうすんだことっす」
「あぁ~、何か思い出して、むしゃくしゃしてきた! ボクの重要書類、子供たちの飛行機にしないで!」
大先生は家では、子供っぽいところがある。ひどく怒りに駆られていた。
「喜んでたっすよ」
気にした様子もない張飛と孔明のいつかの喧嘩がまた始まってしまう予感がして、颯茄は気まずそうな顔をした。
「余計なこと言ったかも」
もう就寝時間だ。妻はできるだけ優しい声を出した。
「まあまあ、孔明さん、子供たちも寝静まったことですから、寝ましょう」
恐ろしいくらい冷静な孔明はデジタルに話題を転換する。
「そういえば、颯ちゃん、最近はまってるゲームどうしたの?」
「やってますよ。その中に出てくるキャラクターで一人、気に入った人がいるんです」
なかなかどうして面白いのだ。
「それって、この世界にいる人がモデルなんじゃないか?」
レシピ本を読んでいた独健が初めて会話に参加した。
「え、そうだとしたら、会いたいですね」
不倫と言われてしまうところだが、みんなの結婚の仕方を体験した今となっては、明智家はどこの家よりも、もうひとつの愛に寛大なのだった。
「会えるといいですね♪」
貴増参の語尾がスキップするような口調の後に、どうでもよさそうな旦那たちの声が賛同した。
「そうだね」
「何? 貴増参さん以外、みんなして気のない返事をするんですか」
今からそのゲームをやろうとしたところなのに、やけに気になる言い方をするではないか。妻はあちこちを見回したが、最後の明かりを消した部屋では輪郭がうっすら浮かぶだけで、みんなの表情は見えなかった。
「はい、寝るよ」
高校教師の焉貴が仕切ると、ガサガサと布団がすれ合う音がした。
「何だか釈然としないけど、まあ、お休みなさい」
ゲームをやってから、寝落ちするのが気分がいいのだ。妻は一人でやろうとすると、光命が近寄ってきた。
「おやすみのキスがまだですよ」
「あれ? そんなのいつもしてましたっけ」
笑いそうになるのと必死にこらえて、颯茄は真面目な顔で聞き返した。
「あ、とぼけてる」
「いや、だって、十人一緒は……」
夫たち全員から抗議の声が上がったが、颯茄は懸命に訴えかけようとしたが、一斉に旦那たちが寄ってきて、埋もれてしまった。
「……むごごご!」
こうして、妻からの馴れ初め話の語りは終わり、今日は静かな夜が広がり、新しい愛の形は人々へ浸透してゆくのだった。
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