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これ以上は無理!/1
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多くの人が行き交う空港。その中の人々に混じって、明智家のみんなは、孔明と紅朱凛を見送るためにやってきていた。
全員の結婚式も終わってやっとひと段落。孔明は陛下の命令を忠実に守りたいがために、さっそく他の宇宙へ行く宇宙船に乗り込もうとしている。倫礼はにこやかな笑みをしていた。
「いよいよですね、孔明さん」
「うん、一年間は戻ってこれないから」
搭乗口の手前で、大きなカバンを持って同行する紅朱凛に、おまけの倫礼は話しかけた。
「仕事熱心ですね」
「孔明は仕事人間だから、陛下の命令でなくとも、すぐにでもやりたいのよ」
「携帯は通じるの?」
いくら神世でも限界というものはある。倫礼は聞いてみたものの、孔明は少し困った顔をした。
「通じないところもある」
「じゃあ、通じる時は連絡しよう。何だか家族がみんなそろってないのは、寂しいから」
「倫ちゃん……」
おまけの倫礼が家族としてきちんと扱ってくれていることが、孔明には嬉しかった。子供たちがいる身で、長い間家を留守にすることができるのは、重複婚をしているからできることなのだ。孔明はみんなに感謝の気持ちを持っていた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
明智家のみんなが声を合わせると、孔明と紅朱凛は手を上げて、搭乗口へと吸い込まれていった。
*
見送りも終わり何事もなく、一日が終わりを迎えようとしていた、夜の七時過ぎ頃。おまけの倫礼がパソコンを打つ手を止めると、ふと男の声が響いた。
「こんばんはっす」
「はい、こんばんは」
聞いたこともない声だったが、お笑い好きなおまけの倫礼は振り返らずに、普通に返事を返した。男は妙に感心した様子で言う。
「こんなふうに暮らしてるんですね」
ボケが終了して、倫礼は遅れ気味に突っ込んだ。
「いえいえ、ここはコミュニティーではなく普通の家庭なので、見学はやっていないんですが」
振り返ると、ドアのところに背の高い男が一人立っていた。会ったこともない男。しかし、彼女の感覚はもう麻痺していた。突然部屋へやってきて、結婚すると言われ続けた日々で、警戒心はまるでなかった。
「っていうか、誰?」
知らない男だった。ピンとくるわけでもなく、相手が名乗ってくるわけでもなかった。瞬間移動で現れてくる夫たちを見渡し、妻はわめき散らした。
「っていうか、他の人が家に入れる我が家のセキュリティーはどうなってるんだ!」
おかしいではないか。他の人間が家に入ってこれるとは。犯罪の起こらない神世では他人の家も出入り自由なのか。そんなはずはない。プライベートはどこへ行ったのだ。
「合鍵をもらったっす」
男は人懐っこそうににっこり微笑んだ。妻は差し出された鍵をじっと見つめる。
「誰に?」
「孔明に」
留守の間に罠が発動するように出かけていくとは、相変わらず悪戯坊主だ。倫礼は唇に指を当てて考える。
「ってことは、この人は……」
ひらめくと言うより、ペアを組んでいると言っても過言ではない。妻がそう思っていると、夫たちの視線が集中した。
「誰だかわかるのか?」
「孔明って言ったら、この人しかいないじゃないですか?」
妻は当然と言うように言ったのに、夫たちは不思議そうな顔をした。
「どの人だ?」
「やっぱり世の中広ーい! 知れ渡ってないんだ」
地球での出来事など、点にしか過ぎない。知らない人は知らない。というか、地球で有名でも、普通の人と何ら代わりがないのだ。
その時だった、傍に置いてあった電話がぴょんと飛び起きて、音楽に合わせて右に左にステップを踏み、ターンをしてまた踊り出すを始めたのは。
「電話だ。しかも、タイミングよすぎ。何かの罠?」
妻は疑いながら電話に出ると、柔らかな春風でも吹いたような明るい声が聞こえてきた。
「もしもし~? 張飛、きた~?」
「孔明さん、『きた~』じゃないわ!」
倫礼は噛みつくように言ったが、孔明はまったく気にしていなかった。
全員の結婚式も終わってやっとひと段落。孔明は陛下の命令を忠実に守りたいがために、さっそく他の宇宙へ行く宇宙船に乗り込もうとしている。倫礼はにこやかな笑みをしていた。
「いよいよですね、孔明さん」
「うん、一年間は戻ってこれないから」
搭乗口の手前で、大きなカバンを持って同行する紅朱凛に、おまけの倫礼は話しかけた。
「仕事熱心ですね」
「孔明は仕事人間だから、陛下の命令でなくとも、すぐにでもやりたいのよ」
「携帯は通じるの?」
いくら神世でも限界というものはある。倫礼は聞いてみたものの、孔明は少し困った顔をした。
「通じないところもある」
「じゃあ、通じる時は連絡しよう。何だか家族がみんなそろってないのは、寂しいから」
「倫ちゃん……」
おまけの倫礼が家族としてきちんと扱ってくれていることが、孔明には嬉しかった。子供たちがいる身で、長い間家を留守にすることができるのは、重複婚をしているからできることなのだ。孔明はみんなに感謝の気持ちを持っていた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
明智家のみんなが声を合わせると、孔明と紅朱凛は手を上げて、搭乗口へと吸い込まれていった。
*
見送りも終わり何事もなく、一日が終わりを迎えようとしていた、夜の七時過ぎ頃。おまけの倫礼がパソコンを打つ手を止めると、ふと男の声が響いた。
「こんばんはっす」
「はい、こんばんは」
聞いたこともない声だったが、お笑い好きなおまけの倫礼は振り返らずに、普通に返事を返した。男は妙に感心した様子で言う。
「こんなふうに暮らしてるんですね」
ボケが終了して、倫礼は遅れ気味に突っ込んだ。
「いえいえ、ここはコミュニティーではなく普通の家庭なので、見学はやっていないんですが」
振り返ると、ドアのところに背の高い男が一人立っていた。会ったこともない男。しかし、彼女の感覚はもう麻痺していた。突然部屋へやってきて、結婚すると言われ続けた日々で、警戒心はまるでなかった。
「っていうか、誰?」
知らない男だった。ピンとくるわけでもなく、相手が名乗ってくるわけでもなかった。瞬間移動で現れてくる夫たちを見渡し、妻はわめき散らした。
「っていうか、他の人が家に入れる我が家のセキュリティーはどうなってるんだ!」
おかしいではないか。他の人間が家に入ってこれるとは。犯罪の起こらない神世では他人の家も出入り自由なのか。そんなはずはない。プライベートはどこへ行ったのだ。
「合鍵をもらったっす」
男は人懐っこそうににっこり微笑んだ。妻は差し出された鍵をじっと見つめる。
「誰に?」
「孔明に」
留守の間に罠が発動するように出かけていくとは、相変わらず悪戯坊主だ。倫礼は唇に指を当てて考える。
「ってことは、この人は……」
ひらめくと言うより、ペアを組んでいると言っても過言ではない。妻がそう思っていると、夫たちの視線が集中した。
「誰だかわかるのか?」
「孔明って言ったら、この人しかいないじゃないですか?」
妻は当然と言うように言ったのに、夫たちは不思議そうな顔をした。
「どの人だ?」
「やっぱり世の中広ーい! 知れ渡ってないんだ」
地球での出来事など、点にしか過ぎない。知らない人は知らない。というか、地球で有名でも、普通の人と何ら代わりがないのだ。
その時だった、傍に置いてあった電話がぴょんと飛び起きて、音楽に合わせて右に左にステップを踏み、ターンをしてまた踊り出すを始めたのは。
「電話だ。しかも、タイミングよすぎ。何かの罠?」
妻は疑いながら電話に出ると、柔らかな春風でも吹いたような明るい声が聞こえてきた。
「もしもし~? 張飛、きた~?」
「孔明さん、『きた~』じゃないわ!」
倫礼は噛みつくように言ったが、孔明はまったく気にしていなかった。
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