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愛には愛を持って/1
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式の当日に時間は戻る――。
地球での日課。おまけの倫礼は買い物に出かけていると、式を終えて早々と、光命が神の力を使って瞬間移動で戻ってきたのを見つけた。
それからは、どんな時も一緒に過ごした。すれ違っていた十四年間を埋めるように、ほんの些細なことから大きなことまで話し合うようになった。
最初はぎこちなかった距離がお互い話すことによって、少しずつ縮まってゆく。十四年も離れ離れだったことが嘘のように、二人の歯車がきちんと噛み合い進み出した。
朝から晩まで、光命はおまけのそばにいた。おまけの倫礼は夢を見ているようなふわふわとした幸せに満たされる。
ずっとこっちを向くことのない、冷静な瞳が今はこっちへ向き、氷河期のような冷たさではなくて、穏やかな陽だまりみたいな暖かさを持っている。ロングブーツの足元しか想像していなかったのが、眠る時は素足になる。それを見つけると、プライベートにしっかり入り込んでいるのが、おまけの倫礼にはよくわかった。
しかし、光命は神ではあるものの、守護の資格を持っていないため、時折変な会話が発生するのだった。
おまけの倫礼はトイレに行き、しばらくパソコンでパチパチと文字を打ち込み、数時間後またトイレへ行くと、光命が聞いてきた。
「なぜ、そんなにトイレへ行くのですか?」
「え……?」
おまけの倫礼は最初何を聞かれているのかわからなかった。しかし、彼女はすぐさま神界のルールを思い出して、大慌てで説明した。
「違うんです。こっちの世界では、トイレは日に六回から八回は行くんです。そっちの世界って、二日に一度でしたよね?」
「えぇ。どこか体の具合がよくないのかと思ったのですが……」
「心配しなくて大丈夫です。普通なので」
愛している人との価値観のズレを感じさせる出来事が何度か起き、光命は決意するのだった。
「倫、私は守護神の資格を取りにいってきます。あなたをきちんと守護したいのです」
「…………」
おまけの倫礼は言葉をなくした。研修は二週間ある。その間、光命がそばにいないなんて、長い間離れ離れだった彼女には耐えられなかった。
蓮の時は耐えられたし、たった二週間で帰ってくると思えたのに、光命に対してはどうやってもできないのだった。
彼女は激しい恋をしていると、改めて思い知らされた。離れ離れになる日が近づいてくる。昼間はまだ平気だが、夜になると二人で抱きしめ合って、遠くへ行かないように祈る日々。倫礼は涙をこぼし、心に言い聞かせる。光命はすぐに戻ってくると。
倫礼が眠るまで起きていて、彼女が起きる前に起きている光命は、ある朝、妻の寝顔を見ながら、あごに曲げた指先を当て考えていた。
「私が守護の資格を取りにいっている間、どなたが彼女の話し相手をするのでしょう」
結婚して、配偶者の仕事のスタンスはガラッと変わってしまった。倫礼と知礼は同じ作家同士として、倫礼の作品を仕上げるまでは、ホテルに缶詰。蓮は光命との結婚も、忙しいワールドツアーの真っ最中で、式の一時間しかいられないほどの忙しさ。光命が資格をとりに行けば、配偶者は誰もこの家にいなくなってしまう。
「そうですね……?」
全てを記憶する頭脳の中に、土砂降りのように今までのデータを流し、成功する可能性が高いものを取り出した。
「そうしましょうか」
光命は自室へ戻り出かける準備をして玄関まで瞬間移動をし、扉を開けると同時にまたどこかへ飛んでいった。
*
そして翌日――。倫礼がパソコンをいじっていると、男がいきなり隣に座った。そして、
「お前と結婚する」
「え……?」
突然のことに、おまけの倫礼は手を止めて、目を激しく瞬かさせた。この間結婚したのは二週間ほど前だ。一体どういうことだ。いやそれよりも、この人は誰だ。倫礼はまじまじと男を見つめた。
(今の声低かった。髪は短い。背格好がイメージしてたのと違うけど……。会ったことも話したこともないけど……。誰の関係――! 光さんだ)
誰がプロポーズしたのかもうわかった。穴が開くほどまだまだ凝視する。
(光さんと言えば、もうこの人しかいない)
地球での日課。おまけの倫礼は買い物に出かけていると、式を終えて早々と、光命が神の力を使って瞬間移動で戻ってきたのを見つけた。
それからは、どんな時も一緒に過ごした。すれ違っていた十四年間を埋めるように、ほんの些細なことから大きなことまで話し合うようになった。
最初はぎこちなかった距離がお互い話すことによって、少しずつ縮まってゆく。十四年も離れ離れだったことが嘘のように、二人の歯車がきちんと噛み合い進み出した。
朝から晩まで、光命はおまけのそばにいた。おまけの倫礼は夢を見ているようなふわふわとした幸せに満たされる。
ずっとこっちを向くことのない、冷静な瞳が今はこっちへ向き、氷河期のような冷たさではなくて、穏やかな陽だまりみたいな暖かさを持っている。ロングブーツの足元しか想像していなかったのが、眠る時は素足になる。それを見つけると、プライベートにしっかり入り込んでいるのが、おまけの倫礼にはよくわかった。
しかし、光命は神ではあるものの、守護の資格を持っていないため、時折変な会話が発生するのだった。
おまけの倫礼はトイレに行き、しばらくパソコンでパチパチと文字を打ち込み、数時間後またトイレへ行くと、光命が聞いてきた。
「なぜ、そんなにトイレへ行くのですか?」
「え……?」
おまけの倫礼は最初何を聞かれているのかわからなかった。しかし、彼女はすぐさま神界のルールを思い出して、大慌てで説明した。
「違うんです。こっちの世界では、トイレは日に六回から八回は行くんです。そっちの世界って、二日に一度でしたよね?」
「えぇ。どこか体の具合がよくないのかと思ったのですが……」
「心配しなくて大丈夫です。普通なので」
愛している人との価値観のズレを感じさせる出来事が何度か起き、光命は決意するのだった。
「倫、私は守護神の資格を取りにいってきます。あなたをきちんと守護したいのです」
「…………」
おまけの倫礼は言葉をなくした。研修は二週間ある。その間、光命がそばにいないなんて、長い間離れ離れだった彼女には耐えられなかった。
蓮の時は耐えられたし、たった二週間で帰ってくると思えたのに、光命に対してはどうやってもできないのだった。
彼女は激しい恋をしていると、改めて思い知らされた。離れ離れになる日が近づいてくる。昼間はまだ平気だが、夜になると二人で抱きしめ合って、遠くへ行かないように祈る日々。倫礼は涙をこぼし、心に言い聞かせる。光命はすぐに戻ってくると。
倫礼が眠るまで起きていて、彼女が起きる前に起きている光命は、ある朝、妻の寝顔を見ながら、あごに曲げた指先を当て考えていた。
「私が守護の資格を取りにいっている間、どなたが彼女の話し相手をするのでしょう」
結婚して、配偶者の仕事のスタンスはガラッと変わってしまった。倫礼と知礼は同じ作家同士として、倫礼の作品を仕上げるまでは、ホテルに缶詰。蓮は光命との結婚も、忙しいワールドツアーの真っ最中で、式の一時間しかいられないほどの忙しさ。光命が資格をとりに行けば、配偶者は誰もこの家にいなくなってしまう。
「そうですね……?」
全てを記憶する頭脳の中に、土砂降りのように今までのデータを流し、成功する可能性が高いものを取り出した。
「そうしましょうか」
光命は自室へ戻り出かける準備をして玄関まで瞬間移動をし、扉を開けると同時にまたどこかへ飛んでいった。
*
そして翌日――。倫礼がパソコンをいじっていると、男がいきなり隣に座った。そして、
「お前と結婚する」
「え……?」
突然のことに、おまけの倫礼は手を止めて、目を激しく瞬かさせた。この間結婚したのは二週間ほど前だ。一体どういうことだ。いやそれよりも、この人は誰だ。倫礼はまじまじと男を見つめた。
(今の声低かった。髪は短い。背格好がイメージしてたのと違うけど……。会ったことも話したこともないけど……。誰の関係――! 光さんだ)
誰がプロポーズしたのかもうわかった。穴が開くほどまだまだ凝視する。
(光さんと言えば、もうこの人しかいない)
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