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もっと自由に羽ばたけ/6
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心を愛するのに、それがない。
何を愛せばいいのだ。
いや自分たちから見れば、そこに誰もいないのではないか。
おまけの倫礼が空っぽになった日から今も続いているルールを、焉貴は孔明に聞かせた。
「地球を守護してるやつしか知らない情報なのね。ある一定以上の霊層がない肉体には魂は宿らせてないんだってさ。悪意のあるやつに選択権与えたって、悪意しか起こさないじゃん。だから、魂は引き上げたんだって」
「そうだね。罪を重ねるだけなら、陛下だってみんなのために、戻したほうがいいと判断されるよね……」
孔明にとって驚きだった。私塾の仕事に追われ、地上のことなど忘れていて、まわりに守護をしている人間もいなかった。いや話す人もいなかった。ずいぶんと様変わりしてしまった地球。焉貴に身を乗り出した。
「それはいつからだったの?」
「そこまでは俺も聞いてないけど? 守護神やってないからさ」
焉貴は思う。邪神界の爪痕は地球には今も残っているのだと。だがしかしそれは、広い宇宙から見てみれば、点よりも小さなことなのだ。地上に重きが置かれていない何よりの証拠だ。
お互いが逆立ちするように、黄緑色の瞳と瑠璃紺色のそれは一直線に交わる。
「ただ、その人間、かなり強い霊感持ってて俺たち見えてさ、それを考慮されて、奥さんの魂の波動受けてんの。いつか消滅するって、自分で知ってても生きてんの」
「そうなんだ……」
孔明は静かに言って、黄金色のススキの原を眺めた。
地球で生きてきた自分なら、いつか消える運命をどう思うのだろう。自身が築き上げたことが無になる。
それを知ってもなお、自ら命を絶たずに生きている、人間の女は何を頼りに生きているのだろう。
ぼうっと遠くを見つめている孔明の顔を、焉貴は下から見上げた。本当はこの会話は罠だったのだ。
「お前、どう思う?」
「どういうこと?」
「その女、理論じゃなくて、感覚なのね」
「ボクの好みは理論派の頭のいい人。だから好きにならない」
「お前のことは、人から聞いて知ってたらしいんだけど、今はもう忘れてる」
「そう」
全く関係ないと同意義だと、孔明は思った。焉貴は遠くの空を飛んでゆく、宇宙船が引いてゆく銀の線を目で追う。
「お前がそいつのこと好きだったら、さっきの理論成立に近くなんだけど、違うってことね?」
「焉貴も好きじゃないって――」
孔明の言葉の途中で、焉貴に何かが空から降ってきたようだった。それは金色の流れ星のような気の流れ。しかし、霊感を持っているか、何か特殊なことをしていない限り見ることのできないもの。
焉貴は無意識の直感で、いきなり考えが変わった。
「おかしいね?」
「何が?」
大きな運命の歯車の中で、神界に住む彼らは導かれるまま進んでゆく。
「その仮の魂持ってる女のこと、俺何とも想ってなかったのに、今頃好きだ――と思うなんてさ。普通こうじゃん?」
孔明や蓮、妻に気軽に声をかけているが、焉貴は決して惚れやすいタイプの男ではなかった。どちらかというと、恋に興味のない人物だ。その証拠に、三百億年も結婚しなかったのだから。
「どう?」
焉貴がいきなり考えを変えることなど、孔明にとってはよくあることだ。というか、自分も素早く変えることは多々ある。
「好きだって気づかないまま過ごしてたのに、今気づいた」
そして、膝枕をしている男はこんな不思議なことを言う。
「――なのに、新しく好きになるなんて、しばらく会ってもいないのに……。距離感も何も変わってないのに……。好きになったりすんの?」
本体の倫礼のことは多少気があっても、性格が微妙に違う、おまけの倫礼は何とも思っていなかった。ネガティブで自己主張が弱い。神界で好まれる女のタイプとはまるっきり逆だった。
「でも、好きになってるなら、事実としてもう確定だね」
孔明は風で乱れてしまった漆黒の髪を手で背中へ払いのける。焉貴の裸足が床の冷たさに心地よさを感じて、黄緑色の瞳はまぶたに隠された。
「そうね。何の意味があんのかわかんないけどさ」
もうひとつの恋が本人に会えないまま、焉貴のうちと孔明の前で静かに始まった。公園に散歩に行っていた、何もかもずばりと当ててくる女。彼女が変化でも遂げる何かでも起きたのか。
孔明はぽつりつぶやく。
「人間の女性か……」
自分たちとは生きている世界が違う。合理主義だけで考えれば、その女の肉体が滅んでから動き出すことも考えられる。
恋する軍師は考える。焉貴と結婚をするならば、蓮とその妻と子供との仲が要求される。焉貴の妻と子供ともだ。つまりは、恋をすればするほど、戦いは難しくなってゆくのだ。
全員が全員を好きになる作戦。孔明はひとまず、銀の長い前髪を持ち、鋭利なスミレ色の瞳を見せるR&Bアーティストを、性的な対象として見られるのか想像してみた。答えは簡単だった。
聡明な瑠璃紺色の瞳は晴れ渡る空を見上げる。張飛が住む宇宙へと飛んでゆく宇宙船に乗って、親友――片思いの男に恋を仕掛けにゆく日はそう遠くはないだろう。
何を愛せばいいのだ。
いや自分たちから見れば、そこに誰もいないのではないか。
おまけの倫礼が空っぽになった日から今も続いているルールを、焉貴は孔明に聞かせた。
「地球を守護してるやつしか知らない情報なのね。ある一定以上の霊層がない肉体には魂は宿らせてないんだってさ。悪意のあるやつに選択権与えたって、悪意しか起こさないじゃん。だから、魂は引き上げたんだって」
「そうだね。罪を重ねるだけなら、陛下だってみんなのために、戻したほうがいいと判断されるよね……」
孔明にとって驚きだった。私塾の仕事に追われ、地上のことなど忘れていて、まわりに守護をしている人間もいなかった。いや話す人もいなかった。ずいぶんと様変わりしてしまった地球。焉貴に身を乗り出した。
「それはいつからだったの?」
「そこまでは俺も聞いてないけど? 守護神やってないからさ」
焉貴は思う。邪神界の爪痕は地球には今も残っているのだと。だがしかしそれは、広い宇宙から見てみれば、点よりも小さなことなのだ。地上に重きが置かれていない何よりの証拠だ。
お互いが逆立ちするように、黄緑色の瞳と瑠璃紺色のそれは一直線に交わる。
「ただ、その人間、かなり強い霊感持ってて俺たち見えてさ、それを考慮されて、奥さんの魂の波動受けてんの。いつか消滅するって、自分で知ってても生きてんの」
「そうなんだ……」
孔明は静かに言って、黄金色のススキの原を眺めた。
地球で生きてきた自分なら、いつか消える運命をどう思うのだろう。自身が築き上げたことが無になる。
それを知ってもなお、自ら命を絶たずに生きている、人間の女は何を頼りに生きているのだろう。
ぼうっと遠くを見つめている孔明の顔を、焉貴は下から見上げた。本当はこの会話は罠だったのだ。
「お前、どう思う?」
「どういうこと?」
「その女、理論じゃなくて、感覚なのね」
「ボクの好みは理論派の頭のいい人。だから好きにならない」
「お前のことは、人から聞いて知ってたらしいんだけど、今はもう忘れてる」
「そう」
全く関係ないと同意義だと、孔明は思った。焉貴は遠くの空を飛んでゆく、宇宙船が引いてゆく銀の線を目で追う。
「お前がそいつのこと好きだったら、さっきの理論成立に近くなんだけど、違うってことね?」
「焉貴も好きじゃないって――」
孔明の言葉の途中で、焉貴に何かが空から降ってきたようだった。それは金色の流れ星のような気の流れ。しかし、霊感を持っているか、何か特殊なことをしていない限り見ることのできないもの。
焉貴は無意識の直感で、いきなり考えが変わった。
「おかしいね?」
「何が?」
大きな運命の歯車の中で、神界に住む彼らは導かれるまま進んでゆく。
「その仮の魂持ってる女のこと、俺何とも想ってなかったのに、今頃好きだ――と思うなんてさ。普通こうじゃん?」
孔明や蓮、妻に気軽に声をかけているが、焉貴は決して惚れやすいタイプの男ではなかった。どちらかというと、恋に興味のない人物だ。その証拠に、三百億年も結婚しなかったのだから。
「どう?」
焉貴がいきなり考えを変えることなど、孔明にとってはよくあることだ。というか、自分も素早く変えることは多々ある。
「好きだって気づかないまま過ごしてたのに、今気づいた」
そして、膝枕をしている男はこんな不思議なことを言う。
「――なのに、新しく好きになるなんて、しばらく会ってもいないのに……。距離感も何も変わってないのに……。好きになったりすんの?」
本体の倫礼のことは多少気があっても、性格が微妙に違う、おまけの倫礼は何とも思っていなかった。ネガティブで自己主張が弱い。神界で好まれる女のタイプとはまるっきり逆だった。
「でも、好きになってるなら、事実としてもう確定だね」
孔明は風で乱れてしまった漆黒の髪を手で背中へ払いのける。焉貴の裸足が床の冷たさに心地よさを感じて、黄緑色の瞳はまぶたに隠された。
「そうね。何の意味があんのかわかんないけどさ」
もうひとつの恋が本人に会えないまま、焉貴のうちと孔明の前で静かに始まった。公園に散歩に行っていた、何もかもずばりと当ててくる女。彼女が変化でも遂げる何かでも起きたのか。
孔明はぽつりつぶやく。
「人間の女性か……」
自分たちとは生きている世界が違う。合理主義だけで考えれば、その女の肉体が滅んでから動き出すことも考えられる。
恋する軍師は考える。焉貴と結婚をするならば、蓮とその妻と子供との仲が要求される。焉貴の妻と子供ともだ。つまりは、恋をすればするほど、戦いは難しくなってゆくのだ。
全員が全員を好きになる作戦。孔明はひとまず、銀の長い前髪を持ち、鋭利なスミレ色の瞳を見せるR&Bアーティストを、性的な対象として見られるのか想像してみた。答えは簡単だった。
聡明な瑠璃紺色の瞳は晴れ渡る空を見上げる。張飛が住む宇宙へと飛んでゆく宇宙船に乗って、親友――片思いの男に恋を仕掛けにゆく日はそう遠くはないだろう。
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