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パパがお世話になりました/2
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整然と並ぶ椅子と机の中から、生徒が一人が振り返って、独健に向かって手を振った。親も同じことをしながら、逆らうことのできない者からの嫉妬に怯えた日々を語った。
「そうなんだ。結婚はしてたけど、父への圧力が結構昔からあったんだ。子供が生まれたらどうなるか心配で作らなかったんだが、陛下に代わって平和になった。そうしたら、すぐに生まれた」
陛下はいつも自分の背中を人々に見せて、前を向いて生きている。結婚もそう。子供もそう。レディーファーストもそう。他種族との交わりも率先している。幸せの連鎖が首都を中心にして、遠い宇宙にまで波紋を広げていた。
まだ手を振っている子供を、アッシュグレーの瞳に映しながら、明引呼は問いかけた。
「ガキの名前何つうんだ?」
独健は顔を戻して、聴き慣れない響きを言った。あえて表すならこうとしか言いようがなかった。
「愛香だ」
共通語はあるが、他宇宙の言語が入り乱れ、正確な発音で表せなかったり、翻訳する言葉がなかったり。それでも、言語研究者はあっという間に解読して、追記があれば政府からのお知らせとして、国民には伝わる配慮は十分されている。
貴増参は独健に向かってにっこり微笑んだ。
「流行っちゃてる名前です」
「そうか?」
ひまわり色の短髪が照れたようにかき上げられた。
「姫か? 童子か?」
明引呼が聞いた。目の前にいるのだが、名前の響きからして、女の子かもしれない。それでも、可愛い名前がついている男の子もたくさんいる。ピンクを好きだから、女の子とは限らない。他の種族もいて、趣味は多種多様。
唯一違いといえば、スカートぐらいで、椅子に座っている今ではわからなかった。
「童子――男の子だ」
陛下の家はハーレムだが、女性が男性の付属的な役割では決してない。女王陛下も政治に関与して、それぞれ活動をし独立した存在となっている。
だからこそ、国民には男性と女性を必要以上に区別するという価値観がないのだ。それは最近急成長した風習。貴増参は風で乱れたくせ毛をよけながら、にっこり微笑む。
「やはり流行っちゃってる名です」
「そういうこと言ってるてめえだって、ガキの名前横文字だろ?」
明引呼は太いシルバーリングをした手で、隣に立つ優男の腕をトントンと叩いた。国境はこの世界にはない。古い風習も新しいものとして取り入れられ、名前は漢字表記が鉄則になっていた。
貴増参は咳払いをして、居住まいを正した。
「コホンっ! 護法童子だったふたりはいいですね?」
小さな体で悪と直接戦った彼らは、ヒーローとして語り継がれていた。独健は少しだけ微笑む。
「今や誰でも知ってる。知らないやつがいないくらいだ。大ヒット映画にもなったからな。悪を倒した八人組のふたりだって。学校でも有名人だ」
彼らを学校では知らない生徒が誰もいないほど人気だった。生きてきた年月も最近生まれた子供よりも長く、知恵を持っている分、困っている他の子を助けたりできる。だからこそ、人気に拍車がかかるのだ。
そして、貴増参は両手を腰の後ろで組んで、長々と子供の名前を言い始めた。
「それでは、菩華、沙雨芽、樹愉隆――」
「待ちやがれ。てめぇ全員答える気じゃねぇだろうな?」
明引呼が手の甲でトントンと叩いた。陽気に、ここにいない我が子の名前を生まれた順で応え始めた男を。
「えぇ、答えちゃいます」
「日が暮れっちまうだろ」
「そちらは誇張表現です」
男三人で横一列に並んでいて、左側ふたりだけで会話をしているところへ、一番右に立っていた独健が割って入った。
「待った待った! 貴、子供何人生まれたんだ?」
「八人です。僕もがんばっちゃいました」
肉体がないのに、何を言っているのかと思って、明引呼がカウンターパンチさながらに突っ込んだ。
「てめえががんばったんじゃなくて、神さんががんばったんだろ?」
「えぇ。子供は天からの授かりものですからね」
貴増参はリズムをつけて首を傾げた。専門の研究者がいるが、未だに子供が生まれてくるメカニズムはわかっていない。条件のひとつに真実の愛が必要ということ以外、大人でも誰も知らない。
独健は腕を組んで、うんうんと大きく何度もうなずく。
「子沢山になるなんて、お前がな。世の中本当に平和になったな」
二千年以上も甲冑を着続けていて、時々ボケていた男が、パパと呼ばれ子供たちに囲まれている。予想もしなかった風景だった。
「独健は何人ですか?」
「うちは六人だ」
陛下の家は今や、百人を超えそうな勢いで、子沢山を世界に公然と広めていた。明引呼は口の端でふっと笑って、ブームの波に乗っている男ふたりに突っ込んだ。
「てめえら多過ぎろ!」
「君は何人ですか?」
誘導した通り聞いてきた貴増参を前にして、兄貴は渋く微笑んだ。
「ふっ! 四人増えて六人だ」
独健は素早くパンチを入れようとしたが、途中からさっと右手を握手を求めるため差し出した。
「同じ――っていうか笑い取るなんて、俺は気に入った!」
独健と明引呼は手をつかみ、お互いの瞳をまっすぐ見て、腕相撲でもするようにガッチリ組んだ。
「そうなんだ。結婚はしてたけど、父への圧力が結構昔からあったんだ。子供が生まれたらどうなるか心配で作らなかったんだが、陛下に代わって平和になった。そうしたら、すぐに生まれた」
陛下はいつも自分の背中を人々に見せて、前を向いて生きている。結婚もそう。子供もそう。レディーファーストもそう。他種族との交わりも率先している。幸せの連鎖が首都を中心にして、遠い宇宙にまで波紋を広げていた。
まだ手を振っている子供を、アッシュグレーの瞳に映しながら、明引呼は問いかけた。
「ガキの名前何つうんだ?」
独健は顔を戻して、聴き慣れない響きを言った。あえて表すならこうとしか言いようがなかった。
「愛香だ」
共通語はあるが、他宇宙の言語が入り乱れ、正確な発音で表せなかったり、翻訳する言葉がなかったり。それでも、言語研究者はあっという間に解読して、追記があれば政府からのお知らせとして、国民には伝わる配慮は十分されている。
貴増参は独健に向かってにっこり微笑んだ。
「流行っちゃてる名前です」
「そうか?」
ひまわり色の短髪が照れたようにかき上げられた。
「姫か? 童子か?」
明引呼が聞いた。目の前にいるのだが、名前の響きからして、女の子かもしれない。それでも、可愛い名前がついている男の子もたくさんいる。ピンクを好きだから、女の子とは限らない。他の種族もいて、趣味は多種多様。
唯一違いといえば、スカートぐらいで、椅子に座っている今ではわからなかった。
「童子――男の子だ」
陛下の家はハーレムだが、女性が男性の付属的な役割では決してない。女王陛下も政治に関与して、それぞれ活動をし独立した存在となっている。
だからこそ、国民には男性と女性を必要以上に区別するという価値観がないのだ。それは最近急成長した風習。貴増参は風で乱れたくせ毛をよけながら、にっこり微笑む。
「やはり流行っちゃってる名です」
「そういうこと言ってるてめえだって、ガキの名前横文字だろ?」
明引呼は太いシルバーリングをした手で、隣に立つ優男の腕をトントンと叩いた。国境はこの世界にはない。古い風習も新しいものとして取り入れられ、名前は漢字表記が鉄則になっていた。
貴増参は咳払いをして、居住まいを正した。
「コホンっ! 護法童子だったふたりはいいですね?」
小さな体で悪と直接戦った彼らは、ヒーローとして語り継がれていた。独健は少しだけ微笑む。
「今や誰でも知ってる。知らないやつがいないくらいだ。大ヒット映画にもなったからな。悪を倒した八人組のふたりだって。学校でも有名人だ」
彼らを学校では知らない生徒が誰もいないほど人気だった。生きてきた年月も最近生まれた子供よりも長く、知恵を持っている分、困っている他の子を助けたりできる。だからこそ、人気に拍車がかかるのだ。
そして、貴増参は両手を腰の後ろで組んで、長々と子供の名前を言い始めた。
「それでは、菩華、沙雨芽、樹愉隆――」
「待ちやがれ。てめぇ全員答える気じゃねぇだろうな?」
明引呼が手の甲でトントンと叩いた。陽気に、ここにいない我が子の名前を生まれた順で応え始めた男を。
「えぇ、答えちゃいます」
「日が暮れっちまうだろ」
「そちらは誇張表現です」
男三人で横一列に並んでいて、左側ふたりだけで会話をしているところへ、一番右に立っていた独健が割って入った。
「待った待った! 貴、子供何人生まれたんだ?」
「八人です。僕もがんばっちゃいました」
肉体がないのに、何を言っているのかと思って、明引呼がカウンターパンチさながらに突っ込んだ。
「てめえががんばったんじゃなくて、神さんががんばったんだろ?」
「えぇ。子供は天からの授かりものですからね」
貴増参はリズムをつけて首を傾げた。専門の研究者がいるが、未だに子供が生まれてくるメカニズムはわかっていない。条件のひとつに真実の愛が必要ということ以外、大人でも誰も知らない。
独健は腕を組んで、うんうんと大きく何度もうなずく。
「子沢山になるなんて、お前がな。世の中本当に平和になったな」
二千年以上も甲冑を着続けていて、時々ボケていた男が、パパと呼ばれ子供たちに囲まれている。予想もしなかった風景だった。
「独健は何人ですか?」
「うちは六人だ」
陛下の家は今や、百人を超えそうな勢いで、子沢山を世界に公然と広めていた。明引呼は口の端でふっと笑って、ブームの波に乗っている男ふたりに突っ込んだ。
「てめえら多過ぎろ!」
「君は何人ですか?」
誘導した通り聞いてきた貴増参を前にして、兄貴は渋く微笑んだ。
「ふっ! 四人増えて六人だ」
独健は素早くパンチを入れようとしたが、途中からさっと右手を握手を求めるため差し出した。
「同じ――っていうか笑い取るなんて、俺は気に入った!」
独健と明引呼は手をつかみ、お互いの瞳をまっすぐ見て、腕相撲でもするようにガッチリ組んだ。
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