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趣味はカエルではありません/1

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 ヘタッぴなデッサンを、3B鉛筆を使って書いてゆく。手のひらが黒くなっているのも気づかず、奇跡来は練り消しで包む込むように線を消す。

 スケッチブックに鉛筆の芯をまたつけようとすると、コウの声が響き、驚いて全然違うところに余計な線が入ってしまった。

「今日は、お前にまた朗報だ」
「何何?」

 奇跡来は今頃手の汚れに気づいて、自分に練り消しをこすりつけた。横滑りするのではなく、コウの小さな足はぴょんぴょんとコミカルな足音を発して、スケッチブックと奇跡来の間に割って入った。

「神さまをモデルとして、神が人間に作らせたテレビゲームを紹介する」
「神さまが人に作らせた……」

 どこかずれているクルミ色の瞳からは、手のひらが消えて、赤と青のくりっとした目が映った。

「それって、前言ってた、神さまの力――神威かむいが効いてるってやつ?」
「そうだ。今から言うことをよくメモしておけよ。重要だからな」

 コウが宣言すると、奇跡来は慌ててスケッチブックを閉じて、メモ帳へ手を伸ばそうとした。しかし、何かに気づいて、机の上に開いたままのパソコンのキーボードへ指を落とし、新しいファイルを開いた。

    *

 数日後――

 スリープしているパソコンの隣で、ゲームのコントローラーを手に取り、必要以上に力を込めてボタンを押している、奇跡来がいた。

「――ゲームソフト買ったか?」

 銀の長い髪が後ろで揺れていても、彼女は振り向かないで画面に夢中。

「うん、一応買ってみた」
「どれどれ?」

 机の上に立てかけられたゲームのタイトルを見て、コウはあれだけ教えたのにと思い、憤慨した。

「お前、恋愛シミレーションゲームばかり買って、どういうことだ!」

 一時停止をして、奇跡来はブラウンの髪を照れたようにかき上げる。

「いや~! 刀でバッサバサ人を斬るのはどうも苦手で……。しかも、歴史弱いしね。登場人物に興味がないんだよね」

 コウは腕組みをして、なぜかニヤニヤした顔をする。

「そうか。まあ、許してやろう」
「許しは乞うてないんだけど、まあいいか」

 奇跡来は負けじと返し、またゲームの中で恋愛を楽しもうとした。コウはそんな煽りに乗らず、特ダネを口にする。

「その中に、孔雀大明王、火炎不動明王、光命、夕霧命がモデルとして出てる。もちろん、陛下もだ!」

 お菓子を口にくわえたまま、奇跡来は素っ頓狂な声を上げて、

「マジで! どれどれ?」

 彼女は慌ててゲームを一時停止して、ソフトの表紙をあれこれ見始めた。コウの小さな指先がキャラクターの一人を指さす。

「これが、光命だ」

 そこには、上品に微笑む男が描かれていた。髪は肩より長く、淡く濃い青――瑠璃色。銀の細い丸メガネの向こうに潜むクールな瞳。貴族的な洗練された服装で、青の王子という名が相応ふさわしかった。

 ソフトを持ち上げて、奇跡来はただただキャラクターの絵を眺めていたが、やがて妙な納得声を上げる。

「ああ~、メガネかけてる神さま?」

 神界のルールをまったく理解していない、人間の女の真後ろで、コウは珍しく声を荒げた。

「違う違う! 神さまの視力は低下しない! イメージだ、イメージ!」

 肉体がないのに、目が見えなくなるはずがないと、奇跡来は納得して、ドライフルーツをかじりながら、何の感情も抱くことなく、うんうんとうなずく。

「メガネが似合いそうな、知的な人ってことか」
「そうだ。こっちが夕霧命だ」

 今度は、赤茶髪が上半身の半分まである男が指さされた。顔の表情はほとんどなく、瞳もまっすぐと見つめていて、あごのラインがシャープ。

 長髪なのに、奇跡来は見た目ではなく、霊感を使ってキャラクターの奥深くを見た。何の感情も抱くことなく。

「なるほど。実直で落ち着いてる感がいなめないね」
「合ってる。そして、これが孔雀大明王だ」

 指さされた先には、藤色の髪を後ろで縛り、無精髭をはやした男が優しく微笑んでいた。奇跡来は名を聞いたことがある神さまの意外な姿に、ずいぶん驚いた。

「え? もっと、こうゴツい感じの人だと思ってた」
「バカだな。神様の彫像は人間が想像して、彫ったものだろう? 違うに決まってるだろう」

 奇跡来は何の感情も抱くことなく、ただ褒めた。

「結構イケメンで、ハートフルな人だね」

 ドライフルーツの砂糖がゲームソフトにかかってしまい、手で適当に払った。そして、コウは神世がある意味、理想郷ユートピアだと告げる。

「神さまは全員イケメンだ」
「どうして?」

 恋愛シミュレーションゲームのキャラクターなだけあって、神様たちは綺麗に描かれていて、奇跡来は素晴らしい絵画でも眺めるように、ゲームソフトを裏返したりしていた。

「心の世界は魂のままが見た目になるんだ」
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