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好きと言わせて/2
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羽ペンが斜めに止まっているメモ帳。書斎机に腰でもれかかる光命のピンクのストールはエレガントに胸元を演出。優美に輝くロイヤルブルーサファイアの十字のペンダントとカフスボタン。
「どちらの情報をほしがっているのですか?」
優雅な策士VS残忍な策士。
「さすが光ですね~。話が早いです」
まぶたの上で横向きに引かれたターコイズブルー、ネオンピンク、ライムグリーンの線の隣で、月命の人差し指は再びこめかみに当てられた。彼の腕時計は、
十四時十分十五秒――。
「実は少々困っていまして……。僕は結婚してから、彼女に好きと言われたことが一度もないんです~」
妻の気持ちは置き去りで生活は始まり、今日までの日々を送ってきてしまった。当然、他にも起きていて、螺旋階段を突き落としたようなグルグル感のある声で、
「俺もないね」
爪を見ながら、孔明の春風みたいに穏やかな響きが間延びする。
「ボクも~」
「オレもねえな」
明引呼のガサツな声が談話室に馴染むと、彼の二つのペンダントヘッドがチャラチャラとすれ合った。貴増参の羽布団みたいな柔らかで低い声が同意する。
「僕も聞きそびれちゃってます」
「俺っちも聞いてないっす」
袈裟を着た張飛が同意すると、
「そういえば、俺も聞いてないな。あ……あい……愛してないとかなのか?」
独健の鼻声が意味不明なことを言って、邪悪なヴァイオレットの瞳を、平和な談話室に召喚させてしまった。
「おや? 君にも困りましたね~。独健は理論がないので、放置というお仕置きをしましょうか~?」
ほぼ理論派とっていい、明智家分家の夫チーム。独健は少し肩身が狭いのだ。
皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で矛盾だらけの、歩くR17策士から、無機質に聞き返された。
「お前、何言っちゃってんの?」
「なぜ、聖輝隊に私たちは逮捕されないのでしょう?」
遊線が螺旋を描く優雅だが、瞬間凍結させるような冷たい響きが、光命からやってきた。納得していない結婚なんて、この世界には存在しない。
そして、もう一人――いや策士大先生から、優しく陽だまりみたいな好青年の笑みがもたらされた。
「颯ちゃん、何も言わないけど、結婚に納得してるから、ボクたち捕まらないのかも~?」
「確かにそうだ」
夕霧命が絶対不動でうなずいた。時間ばかりが悪戯に過ぎてゆく。
唇についたコーヒーをハンカチで拭い去り、蓮の奥行きがあり少し低めの声が、突き刺すように部屋の空気を横切ってきた。
「お前ら、ドミノ倒しみたいに次々に罠を仕掛けるな! 早く先に進ませろ!」
カウボーイハットを片手で押さえながら、厚みのある明引呼の唇からふっと笑い声がもれる。
「火山噴火しやがったぜ」
独健は大きく何度もうなずいて、
「あ、そうだな。颯茄はきちんと意思表示するよな。ってことは、真実の愛があるってことだな」
独健騒動でうやむやになりそうだったが、この中の誰よりも執念深い月命は決して見逃さなかった。
「焉貴以前に結婚した君たちにもきちんと答えていただきます~。彼女に言われたことがあるんですか~?」
無感情、無動のはしばみ色の瞳はそっと閉じられ、
「言われとらん」
「いいえ、言われていませんよ」
紺の長い髪はゆっくりと横へ揺れた。結婚歴が短い順にたどってきた旅路。一人まだ返事を言ってこない、ゴーイングマイウェイの俺さまがいた。
山吹色のボブ髪は、焦点が合わない黄緑色の瞳の前で、指先に引っ張られる。
「最初に結婚したお前は?」
蓮の鋭利なスミレ色の瞳は部屋を切り刻みそうなほど、あちこちにやられていたが、
「…………………………」
やがて出てきた言葉は、
「……ない」
だった。指先に現れたマスカットで指差すように、焉貴は蓮にそれを見せつける。
「前から思ってたけどさ。お前とあれって、どうなっちゃってんの?」
「どうとはどういうことだ?」
シャクっと果実をかじり、さわやかで甘酸っぱい香りが広がる。
「九年も結婚してんのに、お互い好きって言ってないってさ」
「お前らに、あれと俺とのことは関係ないだろう!」
蓮の天使のように綺麗な顔はふと怒りで歪んだ。光命の冷静な水色の瞳は今や、氷河期のように冷たかった。
「関係があるではありませんか? 私たちは夫婦なのですから」
全員で結婚しているのだから、どこかひとつでもほつれたら、みんなで解決するが、複数婚のルールだ。
暖炉の上にある燭台を凝視したっきり、蓮は何も言わなくなり、
「……………………」
焉貴の右手がパッとハイテンションで上げられると、最低限の筋肉しかついていない素肌がジャケットからはみ出した。
「ノーリアクション、返事なし、すなわち、反省中!」
月命は頭の上に乗せてある銀のものが、落ちてこないようにまた手で直した。
「しかし、なぜ、彼女は僕たちに好きと言わないんでしょう?」
孔明、光命、焉貴の順で、こんな言葉が交わされる。
「そこからかも~?」
「そうかもしれませんね」
「そうね~」
策士四人のデジタルな頭脳の中で、天文学的数字を超えるデータがナイアガラの滝のように次々と流れ出した。
事実とそれぞれの可能性のパーセンテージが、自分を含めて十人のこれから取るであろう言動をはじき出す。
「どちらの情報をほしがっているのですか?」
優雅な策士VS残忍な策士。
「さすが光ですね~。話が早いです」
まぶたの上で横向きに引かれたターコイズブルー、ネオンピンク、ライムグリーンの線の隣で、月命の人差し指は再びこめかみに当てられた。彼の腕時計は、
十四時十分十五秒――。
「実は少々困っていまして……。僕は結婚してから、彼女に好きと言われたことが一度もないんです~」
妻の気持ちは置き去りで生活は始まり、今日までの日々を送ってきてしまった。当然、他にも起きていて、螺旋階段を突き落としたようなグルグル感のある声で、
「俺もないね」
爪を見ながら、孔明の春風みたいに穏やかな響きが間延びする。
「ボクも~」
「オレもねえな」
明引呼のガサツな声が談話室に馴染むと、彼の二つのペンダントヘッドがチャラチャラとすれ合った。貴増参の羽布団みたいな柔らかで低い声が同意する。
「僕も聞きそびれちゃってます」
「俺っちも聞いてないっす」
袈裟を着た張飛が同意すると、
「そういえば、俺も聞いてないな。あ……あい……愛してないとかなのか?」
独健の鼻声が意味不明なことを言って、邪悪なヴァイオレットの瞳を、平和な談話室に召喚させてしまった。
「おや? 君にも困りましたね~。独健は理論がないので、放置というお仕置きをしましょうか~?」
ほぼ理論派とっていい、明智家分家の夫チーム。独健は少し肩身が狭いのだ。
皇帝で天使で大人で子供で純真で猥褻で矛盾だらけの、歩くR17策士から、無機質に聞き返された。
「お前、何言っちゃってんの?」
「なぜ、聖輝隊に私たちは逮捕されないのでしょう?」
遊線が螺旋を描く優雅だが、瞬間凍結させるような冷たい響きが、光命からやってきた。納得していない結婚なんて、この世界には存在しない。
そして、もう一人――いや策士大先生から、優しく陽だまりみたいな好青年の笑みがもたらされた。
「颯ちゃん、何も言わないけど、結婚に納得してるから、ボクたち捕まらないのかも~?」
「確かにそうだ」
夕霧命が絶対不動でうなずいた。時間ばかりが悪戯に過ぎてゆく。
唇についたコーヒーをハンカチで拭い去り、蓮の奥行きがあり少し低めの声が、突き刺すように部屋の空気を横切ってきた。
「お前ら、ドミノ倒しみたいに次々に罠を仕掛けるな! 早く先に進ませろ!」
カウボーイハットを片手で押さえながら、厚みのある明引呼の唇からふっと笑い声がもれる。
「火山噴火しやがったぜ」
独健は大きく何度もうなずいて、
「あ、そうだな。颯茄はきちんと意思表示するよな。ってことは、真実の愛があるってことだな」
独健騒動でうやむやになりそうだったが、この中の誰よりも執念深い月命は決して見逃さなかった。
「焉貴以前に結婚した君たちにもきちんと答えていただきます~。彼女に言われたことがあるんですか~?」
無感情、無動のはしばみ色の瞳はそっと閉じられ、
「言われとらん」
「いいえ、言われていませんよ」
紺の長い髪はゆっくりと横へ揺れた。結婚歴が短い順にたどってきた旅路。一人まだ返事を言ってこない、ゴーイングマイウェイの俺さまがいた。
山吹色のボブ髪は、焦点が合わない黄緑色の瞳の前で、指先に引っ張られる。
「最初に結婚したお前は?」
蓮の鋭利なスミレ色の瞳は部屋を切り刻みそうなほど、あちこちにやられていたが、
「…………………………」
やがて出てきた言葉は、
「……ない」
だった。指先に現れたマスカットで指差すように、焉貴は蓮にそれを見せつける。
「前から思ってたけどさ。お前とあれって、どうなっちゃってんの?」
「どうとはどういうことだ?」
シャクっと果実をかじり、さわやかで甘酸っぱい香りが広がる。
「九年も結婚してんのに、お互い好きって言ってないってさ」
「お前らに、あれと俺とのことは関係ないだろう!」
蓮の天使のように綺麗な顔はふと怒りで歪んだ。光命の冷静な水色の瞳は今や、氷河期のように冷たかった。
「関係があるではありませんか? 私たちは夫婦なのですから」
全員で結婚しているのだから、どこかひとつでもほつれたら、みんなで解決するが、複数婚のルールだ。
暖炉の上にある燭台を凝視したっきり、蓮は何も言わなくなり、
「……………………」
焉貴の右手がパッとハイテンションで上げられると、最低限の筋肉しかついていない素肌がジャケットからはみ出した。
「ノーリアクション、返事なし、すなわち、反省中!」
月命は頭の上に乗せてある銀のものが、落ちてこないようにまた手で直した。
「しかし、なぜ、彼女は僕たちに好きと言わないんでしょう?」
孔明、光命、焉貴の順で、こんな言葉が交わされる。
「そこからかも~?」
「そうかもしれませんね」
「そうね~」
策士四人のデジタルな頭脳の中で、天文学的数字を超えるデータがナイアガラの滝のように次々と流れ出した。
事実とそれぞれの可能性のパーセンテージが、自分を含めて十人のこれから取るであろう言動をはじき出す。
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