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【R18】天使と魔王の戯れ(前編)

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 幅広い世代から『神ゲー』と言われているRPGオンラインゲームがある。
 ゲームの名は『クロノス×ワンダーランド』、通称『クロワン』。今年で十周年を迎える。長年愛され続けている名作だ。
 自由自在なキャラメイクはもちろん、操作は『初心者向け、普通、玄人向け』と選択できて、いつ始めても楽しめる仕様になっている。未だに新規プレイヤーが増え続けているのも納得だ。

 職業は定番なものから、リアル世界のトレンドにあわせた『動画配信者』等のネタ職もあり、今も尚増え続けている。
 最近では玄人達がマンネリ化しないようにと転職を繰り返すことで解放される『兼業』という新機能が実装された。ネット上ではどの職業の組み合わせが最強なのかと議論されている。
 
 そんな神ゲーの虜となっているプレイヤー達の間で最バディと呼ばれている二人組がいる。誰が言い出したのか『天使と魔王』という二つ名を持つ二人組。

 『天使』は小さい背丈に白を基調としたふわふわの衣装をいつも纏っている。まさに、天使に相応しい見た目。だが、そのプレイスタイルもまた天使の名に相応しかった。
 魔王と組むまでの『天使』は、誰とも固定を組まない代わりにその日限りのパーティーに入って活躍していた。一番得意なのは回復職だが他の職もできるオールラウンダー。その時入ったパーティーの足りない穴を埋め、クエスト達成の手助けをする。『天使』が加わったクエストは必ずクリアできると言われていた。
 他プレイヤー達から人気な『天使』。本人の性格は温厚でどんな相手に対しても親切丁寧。ただ、だからこそ害悪プレイヤーを引きつけることも多かった。
 囲いこもうとする男プレイヤー同士の間で喧嘩が勃発し、女のやっかみにあってトラブったりと一時期は運営側によって複数のプレイヤーが強制停止され問題になったこともあったくらいだ。
 
 一方、『魔王』は全身黒を基調とした装備を身に纏った暗黒騎士。アサシンと兼業をしている。戦闘力がずば抜けて高く、『天使』と組むまではソロで活躍していた。最初こそ他プレイヤー達は『魔王』と組もうと躍起になって声をかけていたが、全てを無視をした結果反感をかった。
 『魔王』として有名になったのは、とあるマルチプレイのイベントがきっかけだ。
 どうしても欲しかった景品があり、それ目当てで参加したイベントで『魔王』は、本来皆と連携しないと倒せないモンスターをほぼ一人で倒してしまった。
 『魔王』の情けない姿を期待していた他プレイヤー達は唖然。そんな中、『魔王』は景品を手に入れると誰にも声をかけず去って行った。
 その時参加していたプレイヤーの誰かがぼそりと言った。
『ラスボスって言われている魔王よりも魔王っぽくね?』その一言が始まりだった。
 
 そんなある意味似ているようで似ていない二人の最強プレイヤーがひょんなことからあるイベントで関わり、互いに運命を感じ最凶バディを組んだ。
 『天使』にまとわりついていたストーカー達も『魔王』と組んでからは蜘蛛の子を散らすように消えた。『天使』としては平和的解決(?)ができて万々歳。
 『魔王』からしても、『天使』と組めばクエスト達成スピードや素材集めの効率が各段に上がるので最高。それに、マルチプレイでしか参加できないイベントにも気軽に参加できるので、レアアイテムを手に入れやすくなった。
 何より波長があうというのか……互いの次の行動が読めるので動きやすかった。
 
 そんな最凶な二人の仲は……

「ブラン? どうしたブラン?」

 スマホから聞こえてきたノワールの声にブランは思考の海から浮上する。

「ゴメン、考えごとしてた。その……来週末のことなんだけど、急に出張が入っちゃってログインできそうにないんだ」

ブランが申し訳なさそうに言うと、ホッとしたような溜息が返ってくる。

「なんだ、そんなことか。気にしなくて良い。その日は素材集めでもしておくから。……ちなみに、それって一人で行くのか? あ、いや……特に深い意味は無いんだけど」

 ボソボソと喋るノワールに思わず笑ってしまう。ノワールは魔王なんて言われているけどこうして可愛いところもある。それに……ノワールの声はいつだって優しくて、落ち着く低音で……少し甘い、そんな魅力的な声をしている。
 他のプレイヤー達は知らないんだろうな……と思うともったいないような……ホッとするような……再び思考の海に潜ろうとしたブランは慌てて頭を振った。

「わかってるから大丈夫だよ。えっと、出張の事なんだけど、多分私とあともう一人で行くことになると思う」
「そう、なんだ。あの……それって……男?」

 ドキリと、心臓が鳴る。

「……う、うん」

 一瞬の沈黙。

「そっか……俺が言うのも何だけど、気を付けろよ」
「え?」
「いや、その……心配で。男と二人で……泊まるんだろ?」
「だ、大丈夫だよ! 部屋も別だし! 相手の人も私なんかに興味があるような人じゃないから!」
 
 ブランは勢いよく捲し立てた。電話での会話だというのについ身振り手振りも加えてしまう。
 その勢いを押し返すようにノワールが声を張り上げた。

「それでも! とにかく、隙なんか見せたらだめだからな!」
「う、うん! わかった!……ありがとう」
「ん」

 しばらく沈黙が続いた。言いようのない甘酸っぱさを感じてモゾモゾしてしまう。
 別にノワールとは付き合っているわけではない。こうして頻繁に一緒にゲームをしたり、LIMEで連絡は取りあっているけどそれだけ。実際に会ったことは一度もない。
 
 何かと気にかけてくれるノワールに惹かれていることは確かだ。
 でも、直接会いたいとは切り出せない。
 ――――会ったらきっと幻滅されてしまう。リアルな私は『天使』とは程遠いもの。

 そんなことを考えていたらテンションが急降下した。ブランは誤魔化すようにカクテルの缶を掴み、勢いに任せてあおる。

「んぐっ!? っっ!」
「どうした?! 今すごい声が聞こえたけど」
「けほっ。ちょ、ちょっとまって……カクテル、溢したっ」

 首にかけてあったタオルを取って急いで拭こうとする。今度はスマホに当たり、スマホが床に落ちていく。残念ながらブランの反射神経ではキャッチすることはできなかった。
 慌てて床に転がるスマホを取り上げて画面を確認する。――――画面は無事。大丈夫そう。
 ブランはノワールにもう少しだけ待っててほしいと声をかけた。
 スマホをスタンドに立てかけなおし、再びタオルで拭く。何か声が聞こえた気もするが、とりあえず今は濡れたマウスや自分の身体を拭くのが先だ。

 首から胸元にかけてうす紫の液体がかかっている。胸元から服の中を覗く。幸いにもナイトブラは濡れていないようだ。ただ、濡れている箇所が肌に纏わりついて気持ち悪い。香ってくる甘い匂いも気になる。――――せっかくお風呂入ったのに。

溜息を吐きつつ、タオルで拭けるだけ拭いた。
――――ノワールを待たせてるんだし、シャワーを浴びるのは後にしよう。
どうせ誰も見ていないからと上着は脱いで椅子に座り直した。

「ごめんね。おまたせ」
「っお、おう……もう大丈夫なのか?」
「うん。大丈夫」

 それから小一時間ノワールと中~大ボスを狩り、素材集めをしながらたわいもない話をしてその日はお開きになった。
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